18話 おや、先生の様子が
「どうだ? 黒岩とは上手くやれているか?」
「はい、まあ」
放課後、俺は佐渡先生に話があると言われ、進路相談室に呼び出されていた。
進路相談室は受験を控えた三年生を中心に大学の赤本などを貸し出したり、進路相談担当の先生が進路相談に乗るための部屋だが、まだ新学期始まって早々ということもあり、あまり使用されていないため俺と先生の二人しかいない。
「それは良かった! 心配してたんだよ」
佐渡先生は安堵の表情を浮かべてそう言った。
「成瀬も耳にした思うが、思った以上に噂が広がってしまってな。今日の職員会議でちょっと問題になったんだよ。今はまだ成瀬の噂ばかりで黒岩の噂は聞かないが、今後黒岩の悪い噂が同じように流れるかもしれない。川崎には投稿した動画を削除して貰ったが、それだけじゃ収まらないと思っていたから成瀬が黒岩と仲良くやってるみたいで安心したよ」
「黒岩は陸上部の体験入部にも来てますし、律とも上手くやれているようなので、よほどの事がなければ大丈夫だと思います。あとは時間が解決してくれるはずですよ」
黒岩は根は真面目でまっすぐなやつだ。
黒岩の素を知ればみんなすぐに打ち解けられるんじゃないか?
「でもなぁ、黒岩のクラスの担任に聞いたら黒岩はクラスで孤立してるみたいなんだよ。いじめとかではないのだが、みんな黒岩を怖がっているそうでな。班分けとかでも余ってしまってるみたいで早いうちに解決しないと今後の交友関係に響いてしまうからな」
そうか、今の時期は班分けはもちろん、委員会などで人と関わる機会が一番多い。
確かに今の時期に孤立するのは痛いな。
時間が解決するとは言っても悠長に待っているわけにはいかないのか。
「そこでお前に任せっきりで悪いと思っているが、黒岩が同学年にも友達を作れるように協力してやってくれないか? この通りだ」
先生はそう言うと顔の前に手を合わせて懇願してきた。
俺も元々そのつもりだったため、断る理由はない。
友達が学年の違う俺達だけなのは寂しいしな。
「別に構――「何でもするから頼む」
え、何でもするって言う程の頼み事なのか?
まだ断ってもないのに何でもするとか必死すぎでしょ!
「……何でそんなに必死なんですか」
でもそこまで言うほど黒岩の事を考えているとは……
佐渡先生は本当に良い先生――
「いや……ちょっと言いにくいんだが、黒岩の件は何故か私にまかされてしまってな。でもこんなケース初めてでどうすれば良いか正直わからないんだよ。このままだと私のプライベートの時間が削られて婚活をする時間が無くなってしまいそうで困っていたんだ」
――じゃなかった。
「欲望に忠実すぎるでしょ!」
「忠実で何が悪い! 三十手前の独身女の結婚願望舐めるなよ?」
駄目だこの先生……って言うか独身だったんだ……
「まあ、最初から断るつもりはありませんでしたし引き受けますよ」
「本当か!? 助かったよ」
佐渡先生は満面の笑みで俺の両手を握ってブンブンと上下に振ってきた。
「それで私は何でもすると言ったわけだがお前は何をしてほしいんだ?」
「その話ガチだったんですか」
「当たり前だ。女に二言はない」
だったら黒岩の件を引き受けたなら俺に丸投げしないで最後まで責任を持って欲しい。
でも、せっかくだから雫石の件を相談するか。
元々雫石の件で相談するつもりだったからちょうど良かったのかもしれない。
「それなら少し相談に乗ってもらいたいです」
そう言うと佐渡先生はつまらなそうな顔をしていた。
「えぇ、お前それでも男かよ。普通はそこで私を押し倒すだろ。誰もいない教室で何でもするって言ったんだぞ? シチュエーション的にはその流れだろ」
俺の中で佐渡先生の株が急降下した瞬間だった。
「先生、それ普通にセクハラですからね」
「あっ、ちょ、待ってくれ! 冗談だから無言で教室出ていかないで!」
「じゃあ、俺職員室に行ってくるんで」
「さっきの発言取り消すから職員室に報告だけは止めてくれ!」
「女に二言は無いんじゃないんですか?」
「……すまなかった。黙って相談に乗るよ」
そして俺は先生に雫石の件を相談することにした。
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