17話 ギャルゲ脳
「ほら、あの人じゃない? 背負い投げの人」
「え、どこどこ? あ、あの人か!」
俺は今、絶賛噂され中である。
昨日は全く気が付かなかったが、Twitttterの動画を見た人が、動画の背負い投げをした人とされた人が誰かを噂していたらしく、俺が実際に黒岩を投げた場面を目撃した人によって名前が広まっていたらしい。
校門の前まで来ると登校してくる生徒が沢山おり、噂をする声が嫌でも耳に入ってくる。
ああ、胃がいたい……
いや、決して噂をされることが嫌な訳ではない。
むしろ、ちやほやされて嬉しいくらいなのだが注目が集まると常に誰かの視線を感じるため、特に何をしているわけでもないのに緊張してしまうのだ。
それに加えて胡桃は沙耶を連れて
『ちょっと用事ができたんで先に行っててください』
と言ってどこかへ行ってしまったし、黒岩は
『俺、ちょっと報告しなきゃいけないことがあるんで先に学校行ってるっす』
と言い残していなくなってしまったため、なおさらだ。
「あ! 奏多君、こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
上履きに履き替えた俺は声のした方を振り返ると体操着姿の雫石が立っていた。
うちの高校の吹奏楽部は走り込みがあるため、おそらくその帰りだろう。
朝、学校の外周を走るときにたまに吹奏楽部が走っているのを見るのだ。
「私聞きましたよ! 今噂されてる動画の人、奏多君なんですよね? 凄いです!」
雫石は嬉しそうな表情でそう言ってきた。
「あ、ありがとう」
だが、そのあとに続いた雫石の言葉で俺のギャルゲー脳がビビっと反応した。
「それで、あの動画の女の子は誰なんですか?」
な、なんだと?!
これはギャルゲーのヒロインがヤンデレの片鱗を見せるセリフのテンプレか?!
いやいや、雫石に限ってそんなわけないよな。
ただの好奇心だよな。
でも雫石の目のハイライトが消えてる……
昔こんな感じでギャルゲーの選択肢を間違えて、ヒロインがヤンデレ化して主人公が殺されたゲームをやった事がある俺は、どうしてもそのトラウマで良くない想像をしてしまう。
待てよ。
もしこの返答をミスしたら雫石がヤンデレになってしまう可能性があるのか?
そこで急に俺は焦りに襲われた。
どうすれば……
そうだ! ゲームだと思えば良いんだ!
ここは普段からやってるギャルゲーをイメージして、雫石のフラグを回避しよう。
普段は好感度を上げる選択肢を選ぶけど逆の要領で雫石に諦めさせられるかもしれないし、雫石のヤンデレ化を防げるかもしれない。
イメージだ。ギャルゲーの選択肢をイメージするんだ。
よし、段々イメージできてきたぞ。
A 俺の好きな人だよ
B ただの友達だよ
C 同じクラスの子だよ
うん、Aは絶対無いな。わざわざ嘘をついて自殺行為はしたくない。
普通にBで良いんじゃないか?
待てよ、ただのっていうのが妙に引っ掛かる。まるで言い訳をしているようだ。
ここはCでいこう。
「同じクラスの子だよ」
「普通それだけの関係であそこまでできますか?」
しまったぁぁ!
そうだよな、クラスメイトって友達より関係性弱いもんな。
深読みしすぎた。
「い、一年の頃からクラスが一緒で良く話すんだよ」
「そうですか、それなら良いですけど」
良かった。なんとかなったみたいだ。
「それにしても流石です。たとえ仲が良かったとしても普通あそこまでできませんよ。格好良かったです」
反応に困るやつきた……
そう言って貰えるのは嬉しいんだけどなぁ。
リベンジタイムだ。今度はミスしないぞ。
A そんなに大したことじゃないでしょ
B 俺は相手が誰でも助けるよ
C 別に……普通でしょ
雫石の好感度を自然に下げるならC一択じゃないか?
雫石に言うのは心が凄い痛むけど、感じが悪いし、冷たくあしらっている感じがする。
これなら雫石の好感度は下がるはずだ。
雫石、ごめん!
「別に……普通でしょ」
「?!」
「……」
「クールな奏多君も格好良いです」
雫石は顔を赤らめてそう言ってきた。
なんでぇぇ?!
全然クールじゃないでしょ! 感じ悪いだけでしょ!
いや、まだ取り返しがつくかも。次はAだ。
「そんなに大したことじゃないでしょ」
「大したことですよ! 誰にでもできることじゃありませんよ。やっぱり格好良いです」
これ無理ゲーだろ!
「あ、もうこんな時間です。私着替えてきますね」
雫石はそう言うとパタパタ走って行ってしまった。
このままだとまずいな。思っていたより雫石が重症だ。
一度佐渡先生に相談してみるか。
一人残された俺はとぼとぼと教室へ向かった。
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