15話 長年の反動
今日は朝に引き続き夕食を囲む食卓も気まずかった。
雫石には目が合うとすぐにそらされてしまうし、母さんや父さん、咲枝叔母さん達が
「やっぱり何かあったのかしら」
「まだ喧嘩でもしてるんじゃないか?」
「まあ様子を見ましょうよ」
など朝とほとんど同じ事を話しているのが聞こえてきたが、気にしている余裕はなかった。
雫石は俺にキスしようとしてたんだよな。
遅れてその実感が湧き、どっと汗が吹き出てくる。
雫石……綺麗だったな。
――ってそうじゃなくて、危なかった。
もう遅い気もするが、あのままだったら完全に今まで通りの関係には戻れなくなってしまうところだったのだ。
だが、俺は眼前に迫った雫石の顔がどうしても忘れられなかった。
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夕食を食べ終わった俺はお風呂に入って気分を切り替えることにした。
まさか雫石があんな切り返しをしてくるとは思わなかったな。
ぐだぐだと先伸ばしにしたくなくてキッパリと断るはずだったのに結果的に先伸ばしにすることになってしまったし……
もう一度キッパリと言うべきだろうか。
いや、何度言ったところで雫石は諦めてくれないだろう。
こうなったら沙耶達に相談するしかないか。
高校に入学してから昨日までは俺と雫石に距離があったため、俺達は学校でもほとんど接触がなく、俺と雫石がいとこ同士だということは学校であまり知られていない。
だが、沙耶や蒼真、律には前に俺と雫石がいとこ同士で同居している話をしたことがあるため、少なくともその3人なら相談に乗ってくれるだろう。
いくら考えても俺だけでは解決策は見つけられそうにない。
とりあえずお風呂に入って気分を変えよう。
脱衣場の扉に手をかけると電気がついていることに気付いた。
脱衣場の電気は外についているため中からはつけられないはずだ。
それに、使用中なら『使用中』と書かれたプレートを掛けるようにしているため誰かが消し忘れたのかもしれない。
そう思いながら扉を開けると、服を着たままの雫石が仁王立ちしていた
「待ってましたよ奏――」
――ので急いで扉を閉めた。
『ちょ、閉めないでください! あっ、電気消しましたね! 暗いです! 謝りますから! 謝りますから出してください!』
なんだろう。
これが雫石の素なんだと思うが、雫石がクールじゃなくなるとものすごく残念な子というかIQが低くなってしまったような気がする。
「何で閉めるんですか!」
「いや……一緒にお風呂に入ろうとか言われそうだったから……」
「……駄目ですか?」
「駄目でしょ! 色々と!」
たとえ家族でもこの年で一緒にお風呂に入るのは問題がありすぎるし、雫石からは異性として見ていると言われているのだ。
完全にOUTだろ!!
なんだか頭が痛くなってきたぞ。
そうだ、思い出してきた。昔の雫石はこんな性格だった。
「さっきはなけなしの勇気を振り絞ったのに無駄になってしまいましたからね。奏多君がなんと言っても私は一緒に入りますよ」
雫石はそう自分で言って自分で真っ赤になっていた。
俺もつられて顔に血が昇ってしまう。
多分同じくらい真っ赤だろう。
「いやいや! さすがに限度があるって! 雫石の気持ちは嬉しいけど、俺は雫石を家族としてしか見れないし、雫石の気持ちは答えられないってさっき伝えたはずだけど」
「はい。ですからこれは奏多君に私を一人の女だと認識させよう作戦その2です。昔は一緒にお風呂に入っていましたが、成長した私の体で奏多君に女だと意識させてみせます。それとも私の体には魅力がありませんか? 出るところは出て締まるところは締まっていると思うのですが」
「いや、魅力がないとかそういう訳じゃないけど……」
むしろ逆だ。
普段から家族だからと意識的に目を背けてきたが、雫石が色々と成長しているのは目に見えてわかる。
服の上からでも分かる程だ。
まずい、非常にまずい。
このままだと俺の理性がもたなくなってしまう。
何か解決策は……
「あ、あー。俺そういう強引な子あんまり好きじゃないかもなぁー」
思いっきり棒読みだったがこれなら効果があるはず!
「うっ、で、でもすでにキッパリと断られてしまっている以上はまず好感度より異性として意識させる方が優先です」
ダメかぁぁ!
こうなったらこちらも手段を選べない。
最終奥義
「咲枝叔母さん!」
「なっ?!」
俺がそう叫ぶと雫石はドタドタと走って行ってしまった。
雫石としては咲枝叔母さんにこの事がバレて、俺が困っている事を知れば同居が解消されてしまうかもしれないため、それは避けたかったのだろう。
逆に言えば咲枝叔母さんや父さん、母さんの誰かにこの事を伝えれば雫石との同居は解消されて雫石から迫られずにすむのかもしれない。
だけどそれは絶対に俺達の関係に溝を生む。
俺は異性としては雫石をみれないかもしれないが、決して嫌っているわけではなく家族としては愛しているのだ。
だから俺はこの状態のままこの問題を解決したい。
「どうしたの? 奏多君」
「あ……いやー、えっとシャンプーの替えがないので今度買い物に行くときに買ってきてもらえませんか?」
俺は咲枝叔母さんを呼んだ理由を適当にでっち上げて誤魔化した。
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