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14話 返事の答え

学校からの帰り道、俺は重い足取りで歩いていた。

最近日が伸びてきたとはいえ、午後7時にもなるとさすがに薄暗い。

いつも一緒に帰っている沙耶(さや)は用事があると言って胡桃(くるみ)と帰ってしまったため、俺一人きりだ。


「はぁ」


ついため息が溢れてしまう。

どんな顔をして雫石(しずく)に会えば良いのだろうか……


今日の部活には全く身が入らなかった。

雫石のことがどうしても頭から離れずにずっと上の空だったのだ。

お陰で顧問からは弛んでいると何度か注意されてしまった。


そういえば胡桃(くるみ)が明らかに黒岩(くろいわ)を避けていたようだったが、どうしたのだろうか?

朝は良い感じに仲良くやっていけそうだったのに。


そんなことを考えていると、いつの間にか家の前までやって来ていた。

俺は重い足を引きずりながら玄関の扉を開けた。




#





「ただいま」


「お帰り、奏多君」


家に着くとリビングには雫石がいた。

玄関には母さんと咲枝(さきえ)叔母さんの靴が無かったため、おそらく買い物にでも行っているのだろう。

父さんはいつも8時過ぎに帰ってくるため、家には雫石一人しかいないようだ。


「ごめん雫石。朝の事、気持ちは嬉しいけどやっぱり俺は雫石の気持ちには答えられない」


俺は雫石にその場でそう伝えた。

けじめとして時間を空けてうやむやにはしたくなかったのだ。


「そうですか。残念です」


雫石はうつむきながらそう言う。

だが、それも一瞬。


「奏多君がそう言うのは分かってました。ですから奏多君に私を一人の『女』として意識させるべく今日1日作戦を練ってきましたよ」


次の瞬間には満面の笑みでそう答える雫石がいた。


「え?!」


「だから言ったじゃないですか。奏多君が何と言おうと諦めないって。私、ずっとクールぶって自分を制御してましたがそろそろ我慢の限界だったんです。これからは遠慮なく甘えていきますからね? ですから」


そう言って雫石は俺にぐいっと顔を近づけて


「覚悟してください」


と囁いた。


その一瞬でお互いの吐息がかかる距離まで顔が近づく。

もう少して雫石の鼻の先と俺の鼻がぶつかりそうだ。


えっ?! ちょ待っ!


俺はすぐに雫石が何をしようとしているかには気が付いた。

だが、蛇に睨まれたように体を動かす事ができない。

指先すらピクリとも動かせなかった。


まずいまずいまずい。

このままではもう完全に元の関係に戻れなくなってしまう。


雫石は目を閉じ、さらに俺との距離を縮める。


もう俺と雫石の唇が重なる


――と思ったその時だった。


ガチャリと玄関の扉が開く音。


「ただいま~。もう買い物袋が重くて重くて」

「ちょっと誰かこれ運んで~」


どうやら母さんと咲枝(さきえ)叔母さんが買い物から帰ってきたようだ。


その瞬間、雫石はバッと俺の体から離れてドタドタと音を立てながら階段をかけ上がり、顔を真っ赤にして自分の部屋に戻ってしまった。


「雫石? どうしたのかしらあの子。あ、奏多君帰ってたのね。あの子あんな感じだけど気を悪くしないでね? 引っ越す前は奏多君に会いたい会いたいってはしゃいでいたのに、最近はずっとあんな感じで奏多君に冷たいでしょ? 反抗期なのかしらね。あんな子だけど根は良い子だから仲良くしてくれると助かるわ」


咲枝叔母さんはそんな雫石の様子を俺を避けているのと勘違いしたのかフォローしてくれた。


「は、はい」


未だに状況をうまく把握しきれていない俺は放心状態で気の抜けた返事しかできなかった。

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