13話 戦況報告
「沙耶先輩! 大変です!」
私は沙耶先輩を動揺させないために部活が終わった後の部室で今日の昼の出来事を報告することにしました。
「どうしたの? 胡桃」
「沙耶先輩、落ち着いて聞いてください。奏多先輩に恋敵が現れました」
「……」
「沙耶先輩?」
あ、これ駄目です。完全にフリーズしてます。
目の焦点が合ってません。
「え……嘘でしょ」
良かった、帰ってきました。
「マジです。今日の昼休みに体験入部の金髪君もいましたが、奏多先輩とその女子が中庭のベンチで一緒にお弁当を食べているのを見ました。スカーフの色から2年生だと思います。怪しいと思ってつけてみたら、部室棟の前でその女子が奏多先輩を落とす算段を立てているのを目撃しました。奏多先輩に確実な好意を持っているみたいです」
「み、見間違えとか聞き間違いじゃない?」
「いえ、確実に見ましたし聞きました」
「……」
「……」
「ど」
「ど?」
「どうしよぉぉ!?」
沙耶先輩は泣きながら抱きついて私の胸に顔を埋めてきました。
……まあ、胸と呼べる程の胸はないんですけどね。
なんか自分で言ってて悲しくなって来ました。
「どうしよう、じゃないですよ! どうして今まであんなに時間があったのになにも進展してなかったんですか!」
「だ、だって……恥ずかしいんだもん」
「だもん、なんて言っても誤魔化せませんよ。そういう反応ができるなら奏多先輩の前でデレてくださいよ。私なんてお二人がベストカップルとか呼ばれてたので、てっきりすでに付き合っているものだと思ってましたよ」
「べ、ベストカップル?! 照れるなぁ」
沙耶先輩はふにゃふにゃと空気が抜けた風船みたいな表情になっていました。
ああ……これはもう末期ですね。
「いや、これは察しが悪すぎる奏多先輩にも責任がありますが、先輩の責任でもありますからね? 先輩、よく奏多先輩にきつい当たり方したり暴力振るったりするじゃないですか」
「そ、それはあいつの前だと恥ずかしくてつい照れ隠しというか何と言うか……」
「それが原因だと思いますよ? 奏多先輩が先輩を女性としてあまり意識していないのは。私が予想するに奏多先輩は先輩の事をただの幼なじみ程度にしか思っていないと思います」
「でも昔からの癖で条件反射的に手が出ちゃうから」
「……それは……フォローできないです」
「そんなぁ」
どうしてこう……私の前では可愛い素を出せるのに好きな人の前だとあんなにツンケンしてしまうんでしょうかこの人は。
よく好きな人の前では猫を被る人がいますけど、沙耶先輩の場合は完全に阿修羅の面を被ってますからね。
「大丈夫です、安心してください。私が可能な限り先輩をサポートしますから」
「本当!?」
「はい。ですので先輩はできるだけ奏多先輩に暴言や暴力を振るわずに好意をアピールするように心がけてください。男性は『ギャップ萌え』? に弱いらしいです。最初は恥ずかしいかもしれませんが恋敵が現れた今、つべこべ言ってられません」
「ギャップ萌え?」
「そう、ギャップ萌えです。いつもクールな女の子のふとした笑顔とかツンケンしている女の子が弱さを見せたり、急にデレた時に男性は萌えるらしいです」
「その情報はどこから?」
「ラノベです」
「……ラノベかぁ」
「何なんですか先輩! 不満ですか?! 文句言うなら協力しませんよ!」
「ごめん! ごめんってば!」
「わかりました、許します。では今日の帰りからは私と作戦を練りましょう」
「え……それだと奏多と帰れなくなっちゃう」
「沙耶先輩、それで今まで奏多先輩と距離が縮まったことはあるんですか?」
「うっ」
「それと好意のアピールの仕方わかるんですか?」
「ううっ」
「わかりましたね?」
「はい」
こうして私と沙耶先輩は放課後に奏多先輩攻略の作戦会議をすることになりました。
しかしあの金髪君が敵になるとは……
彼とは良い友達になれそうでしたがどうやら無理そうです。
金髪君とあの奏多先輩を狙う女性との関係は知りませんが、こちらだって引くことはできません。
沙耶先輩と奏多先輩には中学からお世話になっていますし、私は二人を一番近くで見ていた自信があります。
そんな二人にはやはり幸せになって欲しいですからね。
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