12話 騒がしいお昼
「姉御! 成瀬先輩! お昼一緒に食べませんか?」
昼休みを告げるチャイムが鳴ってからすぐに、教室に黒岩が飛び込んできた。
「え、誰あいつ?」
「あれ奏多に投げられたやつじゃね?」
「不良? 怖」
「姉御って誰?」
たちまちクラス中が騒がしくなる。
まあ、いつもうるさい蒼真が小テストの追試を受けていて教室にいないため少しはマシなのだが。
「ちょ、お前クラスで友達作らなくて大丈夫なのかよ?」
「それができたら苦労しませんよ。もう5月になりますよ? 完全に乗り遅れてるっす。それに中学の時はずっとお昼は一人だったんで……」
目のハイライトが消えた黒岩はそう語るとクラスが一瞬で静かになる。
そんな黒岩の頼みを断る理由も断れるはずもなく、俺と律は黒岩と中庭にあるベンチでお昼を食べることにした。
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俺、黒岩忠は人生で初めて昼休みに友達と呼べる人とお昼を一緒できることになりました。
中学の頃はトイレで弁当を食べていたのが嘘みたいっす。
本当に夢みたいっす。
だけど気になる点が一つ。
姉御がめちゃくちゃ成瀬先輩の事を見ている。
もうずっと見てる。
めっちゃ見てる。
うっとりした表情でたまにため息ついてるし。
完全に恋する乙女モードに入ってるっす。
「ちょっと姉御。相談したいことがあるんで、来てもらいたいんですが良いっすか?」
いてもたってもいられなくなった俺はお弁当を食べてる成瀬先輩に聞こえないように中庭のベンチから少しはなれた部室棟の前まで姉御をつれてきて事情調査をすることにしたっす。
「どうしたの? 黒岩君」
「姉御、もしかして成瀬先輩の事好きっすか?」
「え、えぇぇ?! な、なんでそう思ったの?」
「百戦錬磨の俺の目にかかれば一発っすよ」
「百戦錬磨なの?」
「……ゲームの中でです。まあ、俺の話はいいんですよ。本当の所どうなんすか?」
「や、やっぱりそうなのかな。実は昨日から奏多の事ばっかり考えちゃって」
「それ、絶対恋です。断言します」
「こ、恋?! 私こんなこと初めてで、どうしたら良いか」
「任せてください! 俺が姉御を全力でサポートします! 姉御と成瀬先輩には恩があるっす。恋愛シミュレーションゲームを引きこもってた間やってた経験を生かす時が来ました!」
「ゲ、ゲームでの経験かぁ……心配だなぁ」
「大丈夫です! 俺がやってたのは評価が高かったやつですから」
「そういう心配じゃないんだけどな……」
「まず、成瀬先輩は昨日からの感じを見ると鈍感系主人公タイプっすかね。よくあるテンプレラブコメの主人公タイプだと思うっす」
「鈍感系主人公?」
「自分が気づかない間に女の子を惚れさせてる厄介なタイプっす。きっと姉御の気持ちには気づいていないはずっすよ。そういうタイプはだいたい『そんなわけないよな』とか『気のせいだよな』と卑屈に考える事が多いので細かいアピールは伝わりにくいっす。ストレートに好意が伝わるアピールが一番効くっすね。」
「た、例えば?」
「デートに誘って手を繋ぐとか?」
「いきなりハードル高くない?!」
「姉御、鈍感系主人公を甘く見ちゃダメっす。それくらいでも足りないくらいっすよ」
「本当かなぁ。でも奏多とデートは……したいかも」
「本当ですって。それじゃあ今度、成瀬先輩とのデートの計画たてましょう! さりげなく先輩が行きたい所聞いておきます!」
「ありがとう!」
こうして俺は姉御と成瀬先輩をくっつける作戦を計画したっす。
姉御と成瀬先輩には幸せになって欲しいっすからね。
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私、白鳥胡桃は見てはいけない場面を見てしまったかもしれないです。
いや、この場合は見て良かったかもしれません。
私の中学からの先輩、沙耶先輩は同じく中学からの先輩で沙耶先輩の幼なじみの奏多先輩ととても仲良く、中学では夫婦やベストカップルと呼ばれていたためすっかり付き合っているものだと思っていました。
そして昨日、実は付き合っておらず、沙耶先輩の片思いだったという衝撃的な事実を知ってしまった私は沙耶先輩の恋のサポーターになることを決意しました。
だがしかし!
恋敵の出現は全く予期していませんでした。
まあ、奏多先輩は中学でも割とモテてたと思いますが沙耶先輩の存在があったため近づこうとする人はいなかったのです。
部室棟の部室前のロッカーに体育館履きを忘れて取りに来たら、朝の金髪君が見えたので話しかけようとしたらこれです。
これはまずいかもです。
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