11話 せめてもの償い
主人公のヘタレが続きますが、ストーリー上どうしても乗り越えなければいけない場面のため、暖かい目で読んでいただけると幸いです。
ただ、決してフラグを折っているわけではありませんので安心してください。
うちの陸上部の朝練はそこまできつくない。
陸上部全体の人数が全種目、全学年、男女合わせても15人の小規模部活なことに加えて、何代か上の先輩が朝練にハードなメニューを行い、その事が原因で故障してしまったことがあるらしく、顧問の先生の方針で朝練のメニューはそこまで負担がかからないものになっている。
朝練は主に短距離選手は体幹強化や筋トレをメインに、中長距離選手はジョグをメインに行っているのだが、俺は400m走から800m走が専門種目のため日によってメニューを変えている。
ちなみに蒼真と胡桃と沙耶は短距離のため、筋トレを行っている。
今日はジョグの日だったため、黒岩の希望もあり、一緒に学校の外周を走っていたのだが……
「……う、嘘だろ?」
「ゼェー、はぁ、ま、まっでぐだざい、せ、ぜんばい」
黒岩に無理をさせないために、いつもよりかなりスピードを落として1周約2kmの外周を11分30秒くらい、1kmあたりに直すと5分45程のペースで走ったのだがこの有り様だ。
このペースはサブ4と呼ばれるフルマラソンを4時間以内に走るための1キロあたりのペースよりも遅いのだが、それの21分の1の距離でダウンしてしまうとは。
「ゼェー、ハァー、す、すいませんっす。ゼェー、自分、ハァー、不登校の時、ゼェー、全然、ハァー、運動してなくて」
「頼むから一旦深呼吸して息を整えてから喋ってくれ」
何だか見ているこっちが苦しくなってきそうだ。
しばらくすると黒岩は落ち着いてきたようで呼吸が整ってきた。
「かたじけないっす。引きこもってた時は動いたら負けだって思ってたので」
「働いたら負けみたいなノリで言うなよ。俺はもう少し走っていくけど、あんまり無理すると怪我するから黒岩は先に戻って沙耶や胡桃達と筋トレしててくれ」
「はい!」
黒岩は元気よく答えると校舎へ戻っていった。
#
俺は走るのが好きだ。
走っている間は余計な事を考えずにいられるからだ。
だが、今日は違っていた。
どうしても雫石の事を考えてしまう。
やはり、キッパリと雫石の気持ちには答えられないと伝えよう。
夢の中であのような行動をとってしまったのは、俺は雫石に嫌われていると思っていたからだ。
夢の中でくらい雫石に好かれたかった。
だが、それは決して恋愛感情からではなく、仲の良い兄妹のようになりたいという感情からだった。
夢だと思っていたとはいえ、やはり相応の責任を取るべきかとも考えたが、こちらの気持ちが固まってもいないのにそれはあまりにもに失礼すぎる。
それに雫石とそのような関係になるということは一族を巻き込んだ騒動になる。
きっと両親も親戚も反対するだろう。
その中で俺は雫石を幸せにできるのか?
責任を取るということは雫石と付き合っていずれは結婚する事を意味する。
普通の恋人とは違い縁を切れないため、とりあえず付き合ってみるなんてことはできない。
学生の俺が雫石や自分の人生を左右するそんな重大な事を今すぐに決めるのは無理だ。
このままグダグダ時間だけが経つ事が一番やってはいけない事だ。
キッパリと断るのが今の俺にできるせめてもの償いだと思う。
これが逃げの思考だということはわかっている。
自分がおかした過ちから目を背ける行為、優柔不断な自分に対する言い訳に過ぎない。
それでも俺は……
#
「あの作品はアニメの評判だけでめちゃくちゃ叩かれてるっすけど、原作も読んでないのに原作まで批判するのはめちゃくちゃムカつくっす。世の中にクソアニメなんて無くて、ただアンチの人に合わなかっただけなんすよ」
「分かってるじゃん。やるなぁ金髪君」
校舎に戻ると黒岩と胡桃がだいぶ打ち解けた様子で話していた。
そういえば黒岩は不登校の間に学園アイドルものの作品以外のアニメやゲームにもハマっていたらしいから胡桃と相性が良いのかもしれない。
黒岩に新しい友達ができそうで俺は少し嬉しくなった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
少しでも面白いと思って頂けたら是非、ブクマ、感想、評価等よろしくお願いします!




