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林檎の味は嘘  作者:
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いちわ

メッセージのご指摘があったように、某先生の影響を色濃く受けております。あまりにも酷いようでしたらご指摘いただけると幸いです。

 ぼくにとってはせかいはやさしくなかった。

 わからないことがおおかった。なぜ、人はたしゃからのえいきょうをうけ続けねばならないのか。なぜ、時間はふかぎゃくなのか。なぜ、学者さんはコペンハーゲンかいしゃくが正しいと言えるのか。なぜ、かがみの反しゃはさかさにうつらないのか。ぶっしつのさい小はなんなのか。なぜ、ぶっしつは零ケルビンでうんどうを止めるのか(りょうし力学てきには正しくないけども)

「なぜなぜなぜなぜ」

 そればかりが僕のニューロンをめぐる。せかいはとてもやさしくない。

 

 ねえさんはぼくを「クズ」とか「れっとうしゅ」とよんだりする。ぼくのいえのひとはとっても頭がいい。お母さんは白いふくをきていつもけんきゅうをしている。お父さんは見たことはないけどお母さんはとってもあたまがいいっていってた。

 ねえさんもあたまがいいけど少しいじわるだ。でもときどきすごくやさしい。この前はぼくにプリンをくれた。

「どう? 変な味とか臭いしない?」

「うん、別にしないけど」

「じゃあ、まだ食べれるわ」

 そういってぼくのをとりあげておいしそうに食べた。

 他にはぼくのうどんにしちみをいっぱいかけてくれたり、はしを先におってくれる。よこに。

 うーん、何だかやっぱりせかいはやさしくない気がする。

 これもうちゅうがぼうちょうしているせいだなぁとせきにんてんかしてみる。

 

 

 僕にとっては世界は優しくなかった。

 新聞を見れば一昔では映画や小説のような血生臭い惨劇が大売出しといわんばかりに跋扈しているではないか。何とも嘆かわしいことである。

 わが町も小さい田舎ながらも人がよく天か地に召される状況の人間が多いらしく、先日も駄菓子やのお婆さんが優しい誰かから鋏を両目にプレゼントされたという話だ。その際にお婆さんは感激のあまりソーセージを作ろうとしたのか腸等の臓物を床にぶちまけ、現代アートと化していたらしい。まさに身を削る思いで感謝の意を表したのだろう。

 

 しかし本来ここまで分かり易い残虐な人殺しは町興しに使えそうなほどニュースで扱われたり、連日連夜見物人が来るのが普通であり、それは殺した人間や殺された人間に対する礼儀であるのだが、一切それがないのはどういうことだろうか。誠に遺憾。いとおかしきことなり、といった感じである。

 とは言っても流石に警察はひっきりなしにパトロールをしているし、何度も我が家にも刑事がドラマよろしく手帳を開き、軽快で警戒なトークをしに訪れたと同居している血の繋がった姉という位置づけの人間らしき者が口頭で高等に述べていた(その際、やんごとなきお方はあんなのは何も分かりませんと述べてるようなものだと痛烈に批判をされておりました。はい)

 

 ふと考えてみれば今までこの町で起こっている未解決の殺人事件は軽く三十を越えているのではないだろうか。これは誠に異常である。

 今現在僕はコンビニとレンタルビデオ屋からの帰りでなわけだが野生のサツジンキかがとびだしてきた! といった具合に僕が次のターゲットになってもおかしくはないのだ。そうなれば僕は廃棄に出されるような不出来なひき肉ミンチになることは確実である。

 ううむ、今は丁度お昼時か。死ぬ前に是非とも皆さんに我が肉を振舞ってもらうように要請はできぬものだろうか。

 

 しかし僕が死んだら、香苗(かなえ)姉さんは泣くだろうか。

「………………はぁ」

 泣かねぇだろうなぁという奇妙な哀愁が僕を包んだ。

 きっと姉さんのことだ「死とは解放である」とか「幸福とは何か、不幸とはなにか。それは他者の価値観云々」と死んだ僕から生まれた新たな議題で刺殺撲殺された僕に合わせるかのように忙殺され、脳内を疑問がのたうつのだろう。はっきり言えば僕は姉さんに全く影響を与えない。うむ、我ながら悲しいな。

「世界は優しくはないのだと僕は一人ごちるのであった」

 ふと気が付けば舗装された人の技術の香るコンクリートの道を抜け、僕は土と緑の匂いのする小さく狭いあぜ道に出ていた。無意識に自意識が近道を選んでいたようだ。

 僕の歩く小道の横は川の左右が業務用のホワイトチョコのような人工のコンクリートに覆われている。左右の壁は人の手が加えられているが川自体には全く手はつけられていない。肌を露出された砂利や岩肌がそれを物語っている。まあ、明らかに無駄とわかるこんなところに税金を注ぐよりは道路の方がよっぽどか建設的だなぁと妙に納得できたりできなかったり。

 小さい川ながらも流れは些か速く、トイレや出しっぱなしの蛇口のようにちょろちょろと心地のよいせせらぎとじゃぶじゃぶとバケツの水を流すような音を演出している。例えが実に汚らしいのは考える者の薄汚い心による思慮が反映されているせいなのか、などと夢想。まあ実に安っぽくて、夕暮れ時の再放送ドラマの一場面に使われそうだ。題名は「三年B組に吼えろ」で決定なのは確実であることは疑いようのない真実で嘘であり真だ。わけが分からない。

「……あ」

 さて深遠な大自然の雄大さに恐れ慄くこと矮小な僕はこの小道で見てはいけないものを見てしまった。

 それは同級生と思わしき少女(美を漬けるべきかは各々の判断に任せる)こと柏原泉(かいばらいずみ)であることはまごうことなき事実である。問題はその彼女が中学生と思わしき背丈の彼に後ろから首に抱き付いているお姿だが、不思議とカップル的な甘い感じではなく地下闘技場的な力強さを感じる。

 長黒い髪で隠れているためにお顔は拝見できないが心なしかその横顔はプルプルと震えてらっしゃる。できれば寒気から来るものであってほしいものだ。

 ……あー、今ベキッっていったね。うん。

 ヘッドロックを掛けられていたらしい彼は首を不自然に捻じ曲がらせ、ぐったりとしている。愛想良くするために首を傾げているわけでないのなら(だとしても曲がり過ぎだ)彼女はこの小道の生木を踏みつけるようにべきりと彼の首をへし折ったのだと推察。

 というかそれ以外考えられません。はい。

「ふう、天罰終了。……あら、あなたはええっと。そう、ユウくんでしたっけ?」

 全然違います誰ですかそれ。

 朗らか明瞭な微笑みを携えながら彼女は額をハンカチで拭い、何でもないことのように近づいてくる。

 そのまま彼女は髪を掻き上げ、白いシャツと長めの藍色のスカートをはたきながら続けた。

 お土産に分かりやすい殺意を携えて。

「十一月だというのにまだ少し日差しが強いですね」

 この狭い小道を急にひるがえし走るのは難しい、下手すれば岩だらけの川にドボンでどごんである。主に頭部辺りが。

「……無視ですか? 折角レディが話しかけているというのに無視とは穏やかじゃないですね」

 人を殺めた人間が穏やかなことを語るのは些か怪異である。

 さあて、余裕な余命は十三歩。

「ええっと、会話ね。まずはそうだね。彼を何で殺したんでしょうか?」

「うふふ、おかしなことを言うんですね。彼は気絶してるだけですよ?」

 口元を手で隠しておかしそうに笑う彼女の黒いブーツは五歩を刻む。

「へえ、気絶してても顔って鬱血するんだね。あんなに舌も出るなんて知らなかったよ」

「私も初めてみました。あら? もしかして、お使いの帰りですか?」

 彼女はスカートのポケットにハンカチを仕舞い込んだ。三歩――――――。

「うん。まあ、姉のお使いで――――――っ!」

 彼女はポケットに手を入れたまま跳躍し、ポケットを引き裂きながら抜き身のナイフを僕に向けた。

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