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ぽっと出女王の恋愛奇譚  作者: ジウ
もうすぐ春ですね
9/16

女王の戴冠式

戴冠式のしきたりとかよくわからないのでサラッと読んでください。

できるだけそれっぽくしました。

王様が持つ上に十字架がついた玉は『宝珠』と言って、世界とそれに対するキリスト教を意味するそうですが、キリスト教関係ないけど宝珠を使いたかったので『大地神バートルディエールの卵を模した綺麗な玉』って事になりました。

サラッと読んでください。



珍しく、誰にも起こされることなく目が覚めた。


窓の外を伺えばまだ空が白み始めた頃で、随分早くに目が覚めたものだと思った。



今日は戴冠式。



まだ早朝だが、城中、ひいては王都中がそわそわしているように感じる。


チリンと鈴を鳴らして侍女を呼び、戴冠式の準備に取り掛かった。



「カトレア様、戴冠式の最中は食事を摂る事がほとんどできませんから、今のうちに何かしらお召し上がりください」



サラの言葉に従いフルーツを食べ、白湯を飲む。


食べ過ぎてお腹が重くなってもいけないし、たくさん食べたい訳でもない。


それ以上口に含むことはせず、着替えを始めた。



予定通り仕上がったドレスは、ため息が出るほど上品で、豪奢で美しかった。


光沢のあるシャンパンゴールドの生地に、金糸で細かな刺繍が施され、ところどころ小さな宝石が縫い付けられている。


胸元は鎖骨の下あたりまでV字に開き、袖口は繊細なレースが幾重にも重なる。


トレーンは身の丈より少し長く、スカート部分にリボンやフリルの装飾はないがこちらも刺繍と宝石でキラキラと輝いていた。


首元にはホワイトゴールドを基礎に大きな雫の形のアクアマリンといくつかのダイヤモンドが美しい、父が遺したものをつけ、それと一緒にデザインされた耳飾りを耳に下げる。


化粧はドレスに負けない程度に施し、髪は編み込んだりねじったりしてうなじの辺りでまとめた。


冠をかぶるから、髪飾りはつけない。


右手にノアから贈られた指輪をはめ、ゆっくりと深呼吸をする。



「……重いぃ…」


「我慢です、カトレア様。今日一日はこの格好ですよ」


「明後日もでしょ……肖像画を描くもの」



今日は戴冠式、明日はお披露目園遊会で明後日は肖像画、式典は嫌い。



「失礼致します、侍従長様がおいでです」


「どうぞ」


「やあカトレア。……綺麗だね」



ルイも正装を着ていた。


中は紺碧に銀糸で刺繍をしたベスト、白地に裏と縁取りがベストと同じ紺碧のジャケット。


ズボンとポケットチーフとアスコットタイは共布の濃藍で、全体的に青でまとめている。


ラペルピンはクレマチスを模した銀細工で、カフスボタンも同じく銀のクレマチス。


タイリングはバートルディエールの透かし彫りだった。



「あらまぁ、完全武装じゃないの」


「オシャレと言って欲しかったな」



確かに、色素が薄いルイならここまでしっかり色を入れても似合っているし、そもルイは派手な美人だ。


睫毛はバサバサいいそうなくらい生えているし、ちょっとむしり取ってやりたい。


とにかく、似合っている。


でも目立つだろうなぁ。



「そんなことないと思う、おそらく会場で一番目立つのは君だよ」


「お世辞がうまいわね…エルメスはまだなの?」


「もうそろそろ来ると思う…エルメスも気合を入れていたよ」



それは楽しみだ。


エルメスは腹黒いけれど顔は良い。


きちんと着飾れば、映えるに決まっている。



「今日は長いよ。覚悟はできてる?」


「ええもちろん」



ルイが、机に置いた私の手に彼の手を重ねた。


手袋越しに伝わる、じんわりと温かい彼の体温。


不思議に思って見上げると、真剣な顔でルイは言った。



「きっとこれからは、君を暗殺しようとする者も蹴落そうとする者も増える。

厄介事は常に絶えないし、辛い決断だってあると思う。覚悟は、出来てるね?」



ルイのターコイズブルーの瞳が、私を捉える。


何を言い出すかと思えば、なんだそんなことか。



「暗殺なら今日まで幾度となく毒を盛られてるから慣れてるわ。

蹴落そうと画策された計画を涼しい顔で踏み潰して、厄介事は何食わぬ顔で完璧に処理するから楽しいんじゃない。

辛い決断なんてドンと来いよ、だって私にはとても強い味方がいるもの」



私は手を裏返してルイの手を握った。


驚いた顔をしたルイが、しばしの後握り返してくる。


そして、ふっと笑った。



「さすが、適わないな」



私は、不敵に笑い返した。



「私はこういう食えない性格だもの、よく可愛くないって言われるわ」



二人でクスクス笑っていると、ドアが叩かれ正装したエルメスが入ってきた。


エルメスは黒いジャケットに黒いベスト、ところどころグレーの装飾をアクセントに使って、ラペルピンとカフスボタンは蝶のモチーフ、ボタンとタイリングはオニキスを使っていた。



「あらエルメス、かっこいいわね」


「お褒めに預かり光栄です。……さすがはデジレ嬢、似合っていますね」



私の全身を舐めるようにチェックしたエルメスは、「ちょっと綺麗すぎて迫力がないかも?」と呟いた。



「まぁ、いいでしょう。控え室へ向かいます、お手をどうぞ」


「ありがとう」



エルメスの手を取って、ルイや女官達を引き連れ廊下を進む。


控え室近くまでやってくると、来客のざわめきが聞こえてきた。



「私は賓客の相手をしなければなりませんので、ここで失礼致します。ルイ、頼みましたよ」


「わかりました」


「ありがとうエルメス、またあとで」



エルメスと別れ、ルイと二人で控え室に入る。


ルイは人払いをして、部屋には二人きりになった。



「緊張している?」


「……ええ、柄にもなく。こんなことをするのはじめてだもの」


「それはそうだ」



ざわめきの大きさから、今日の来客の多さを知る。


準備のため入った大聖堂は、とても大きく荘厳だった。


あそこで大人数に囲まれて戴冠式なんて……正気の沙汰じゃない。


普通なら緊張でゲロを吐く。


だが、変な法案を無理矢理通そうとした政党のせいで殺気立った議事堂に入る時や、蠢く怪物のようなデモの声を聞きながら眠る夜ほどは緊張もしていないし不安もない。


前世の記憶はこの十年でほとんど消えてしまったけれど、経験は消えたわけじゃない。



「大丈夫よ、大丈夫。これくらい笑ってこなせないと、女王になんかなれないわよ」



カトレアとはどんな奴か、見てやろう。小者ならば喰らってしまおう。


そんな馬鹿なことを考えているやつを、一蹴してやろう。


私はそんなに弱くはない。



「……もっと緊張してもいいんだよ?」


「何言ってるのよ、これでもかなり緊張してるわ。

ただ緊張しすぎるとゲロが出ちゃうから何も考えないようにしてるだけ。タチが悪いやり方だから真似しちゃダメよ」



窓の外を眺めながらルイに言った。


ジャカランダの花が風に舞っている。


名誉と栄光を冠する花は、今日という日に相応しい。


戴冠式が終わればすぐに建国記念日が来る。


どうせ私の最初の仕事になるのだろう、お金が無い分趣向を凝らしてなんとかしなければならない。



今日が節目。



ルイが迎えに来たあの日がスタートならば、今はカーブ?


いや、最初の曲がり角だろうか。


そんなことをつらつらと考えていると、司祭長がやってきた。


豊かな髭を胸のあたりまで伸ばして、仙人みたいな司祭長。


私が生まれた時の洗礼を行った方でもある。



「カトレア様、本日は誠におめでとうございます」


「司祭長、ありがとうございます。今日はよろしくお願い致しますね」


「はい。ああ、あのカトレア様が女王になられるとは…」



司祭長は、遠くを眺めるような目で私を見た。


綺麗な藍色の瞳が細められる。


──亡くなった、父を思い出した。



「……やめてください司祭長、父を思い出してしまったじゃありませんか」


「おや、これは申し訳ない。アレクサンドル公も、お喜びでしょうなあ……」



父は死んだ。


前世の父も、今世の父も。


墓の下の父が笑うことは二度とないし、喜ぶことも二度とない。



「……ええ、そうですね」



私は苦笑いしてそっぽを向いた。


そのうち、声がかかった。



「殿下、お時間でございます」


「わかりました、参ります」



司祭長が先に別の扉から聖堂へ向かい、私はルイにエスコートされながら聖堂へ向かう。


衛兵が立ち並ぶ大きな扉の前に立った時、ルイが私の肩にサファイアブルーのマントをかけた。


──王のマント。



「さあ、行っておいで」



マントの紐をキュッと結び、ルイにぽんと背中を押される。


口角だけ少しあげて笑いかけて、私は歩き出した。




✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤




扉が開かれ、高らかなファンファーレが響きわたる。


僕は扉の横に影のように立ちながら、カトレアを見守る。


花びらが舞う中、カトレアはゆっくりと聖堂を進んでいった。


陽の光が彼女の髪に反射し、神々しく輝く。


まさしく『銀河』。


僕は、ぼうっとその様子を見つめた。


カトレアが祭壇の前へ辿り着くと、司祭長が厳かに宣言した。



「これより、レインディア王国故王弟アレクサンドル公令嬢カトレア殿下の、戴冠式を執り行います」



その言葉と同時に、カトレアが司祭長と、大地神バートルディエールの祭壇の前に跪く。



「故王弟マクシミリアン·テオファヌ·ド·アレクサンドル公爵令嬢、カトレア·イヴォンヌ·ド·アレクサンドル。大地神バートルディエールの御前にて、宣誓を」



司祭長が錫杖で軽くカトレアの額に触れた。



「我、カトレア·イヴォンヌ·ド·アレクサンドルは、レインディアの名を冠する者として、レインディアの剣となり、盾となり、我が国と民をあまねく愛し、守り、王として君臨せんことを誓う。

大地神バートルディエールよ、我と、我が国レインディアと民たちに、等しくあなたの祝福を授けたまえ…」



カトレアの言葉に頷き、司祭長が冠を手にする。


黄金に大きなアクアマリンやサファイアが嵌められた冠が、キラリと光りながらカトレアの『銀河』に載せられた。



「今ここに、新しき王が生まれた。新レインディア王国女王カトレア·イヴォンヌ·ド·レインディア、末永い栄光と平和を……」



カトレアが祭壇から王笏と、バートルディエールの卵を模した龍玉を手に取り、体ごとゆっくりと振り向いた。


わっ、と歓声が挙がる。


争いが続き傷ついたレインディアに、強い女王が誕生した。



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