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ぽっと出女王の恋愛奇譚  作者: ジウ
もうすぐ春ですね
6/16

女王と主人公(2)

最中の描写はありませんがR15表現らしきものがあります。



孤児院の院長に頼んで、リディアを呼んでもらった。


ルイには込み入った話をするからと別室で待っているように伝え、窓の外を眺めながらリディアを待った。


子供たちのはしゃぐ声がする。


暖かい日差しと外の音が心地よくて、居眠りをしてしまいそう。



数分後、コツコツとドアをノックする音が聞こえた。



「失礼します、リディア·クローディアです…」



くすんだ灰色の髪は、月光を浴びると揺れる川面のようにきらきらと輝くのを私は知っている。


青鈍色の瞳は、近くで覗くと深い海の色をしているのを私は知っている。


可愛らしい顔立ちは、ちょっと目尻を吊り上げると私にそっくりなのを、私は知っている。



「リディア、久しぶり」



リディアは目を見開いて、私を見つめた。


大きな目をさらに大きくして、目が落ちてしまいそう。



「お、お姉さま……?」


「ええ、そうよ。ただいまリディア」



リディアは顔をくしゃくしゃにして駆け寄ってきた。



「お姉さまっ!」



十年ぶりの再会、ああ、私の妹はこんなにも可愛い。


ほんと、こんな可愛い子をあの王宮に入れなくてよかったわ。



「長いこと待たせたわね。帰ってきたわよ」




✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤




リディア……リディアーヌは、『ぽっと出女王の恋愛奇譚』の主人公だ。


だがここにいる『リディア』は私と同じ転生者で、前世は心臓に疾患を持った少女だったらしい。


小さな頃から病院暮しで、唯一遊べるのはゲームだけ。


ろくに恋もできなかった彼女は私と同じこのゲームにハマり、その中でもとある攻略対象に熱烈な恋をした。


その攻略対象は、『リディアーヌ』が生まれ育った孤児院で兄のような存在の、リュカ。



リディアーヌは女王となってもリュカへの思いを断ち切ることが出来ないが、「もう身分が違うから」とリュカはリディアーヌから遠ざかる。


ハッピーエンドだった場合、他の好感度が高い攻略対象かリュカの自力でリュカが貴族の養子となってリディアーヌと結婚する。


が、バッドエンドでは、リディアーヌが女王という地位を捨てる。


そうして出てくるのが、この私、『カトレア』なのだ。



リディアーヌは、アレクサンドル公の隠し子だ。



母が私を産んで1ヶ月ほどだったある日、父はたいそう酔って帰ってきたそうだ。


母はその日私がとてもぐずったので、父が帰ってきた時は疲れて寝ていた。


若かった父は母が身ごもってから一年近くの禁欲にそろそろ痺れを切らして、酔いに任せて侍女の一人を襲った。


翌朝、父の記憶からそのことはすべて消え失せていたが、運悪く侍女はその一回の行為で身篭ってしまった。


当時堕胎薬なんてものは存在していなかったし、子供を堕ろすことは殺人罪にもなっていたので、侍女は堕ろさずに産んだ。


そうして産まれた子供に名前だけをつけ、孤児院に預けた。


それがリディアーヌ。


私の妹だ。



リディアは物心ついて孤児院の院長に自分が捨てられたことを聞いた時、全てを思い出した。


全てとは、前世の記憶、この『世界』の記憶である。

そうして己が恋していたリュカも思い出し、己の運命も思い出し、幸か不幸か私のことも思い出した。


リディアは前世で教育を満足に受けられる身の上でなかったことから女王になることに不安を感じ、尚且つ安全に平穏にリュカと結ばれたかったので、あの夜アレクサンドル公の町屋敷の扉を叩いた。


父はなんの気まぐれかくすんだ銀髪の少女を家に入れ、リディアの言う通り私に隠遁生活をプレゼントした。



ゲームのストーリーの通り進めば、私は父が殺された後ノアの兄君によって隣国フリューゲル帝国へ亡命するはずだった。


しかし途中で何者かに襲われノアの兄君が亡くなり、ノアと共にフリューゲルへ逃げ込む。


そこを攻略対象の一人であるフリューゲル第二皇子に救われるのだが、一連のどさくさで死んだことになってしまうのだ。


そのせいで、リディアーヌが女王となるのである。


だがリディアは女王になりたくないため、「今のうちにカトレアを国内の安全な場所に隠せ」と父に言った。


父はなんの気まぐれか、もしくは王宮内の不穏な動きを知っていたのか、リディアの言う通り私を隠した。


それも、ヴァリエール卿配下のアサッシン村へ。


父様、やり過ぎじゃない?



「どう、リュカとは仲良くしてるの?」


「はい。去年の万霊節の日に、お付き合いを始めることになりました…!」


「あら、まあ!よかったじゃないの!どちらから?」


「それが、リュカからなんです…」


「まあまあ!リュカもやるわね」



我がかわいい妹が幸せに暮らしている、それで十分だ。



「そういえばお姉さま、院長様と一緒に貴族のご子息のような方がいらっしゃいましたが、あちらはお姉さまのお知り合い?」


「うふふ、聞いて驚きなさい、彼は女王付侍従長のルイよ」


「ええっ…!うそ、もう少しじっくり見ておくんだった!」


「それから、屋根の上あたりにいると思うのだけど…ノアもいるわよ」


「そうなんですか…?!」



リディアが淹れてくれた良い香りのハーブティーを飲みながら、世間話に花を咲かせた。


窓の光を浴びたリディアの髪がキラキラと光って、本当に綺麗。



「そうだ、お姉さま。私思いついたのですけど、」



リディアがパンと手を打って嬉しそうに言った。



「私、お姉さまの側で働きたいです!」


「………なんですって?」



我が耳を疑う。


この子は、……あの王宮で働きたいと?



「理由を聞かせて、リディア」


「はい。私、前世では結局臓器提供してもらえなくて二十歳にもならずに死んでしまいました。

だから、この世界では幸せになろうとリュカと仲良くしてるけど、そろそろ年齢的に、働きに出なければならないんです。

でも、どうせどこかで働くなら、お姉さまの側がいい。

これでも、いっぱい勉強して成績は学校の一番なんです。

だから先生に勧められて外国語を勉強したり、字だって上手になりました。

学校に寄付をしてくれているお家のお嬢様に気に入られて礼儀作法も覚えました。

お料理も得意だし、お掃除もできます、侍女でもいい、雇ってもらえませんか?!」



リディアは、十年前初めて会った時と同じ真剣な顔をしていた。


学校で一番の成績なんて初めて聞いた。


王都にある学校で一番なんて、とてもすごい事なのじゃ?


望めば、王宮なんかよりも条件の良い職場はあるはず。


それなのに、この子は……。



「……リディア、貴女の気持ちはわかったわ。

でも、貴女を雇うなら宰相にも協力してもらわなくてはいけないだろうし、それにリュカをどうするかも考えなくちゃ。時間を貰えるかしら?」


「っ、はい!ありがとうございます!」



リディアは、本当に嬉しそうに笑った。


その様は、まるで花が咲くようだった。



聞けば、リュカは計算が得意で、王都の学校対抗計算大会で一位だったらしい。


それなら、財務省の下級文官にあてがあるか。


リディアは不得意な分野はないと言うけれど、それで私の側近となると、宰相補佐か侍従?


たとえ私が推薦したとしても高い敷居だけれど、成績表を見せてもらった限り大丈夫そうだ。


リディアと手紙の約束をして、ハーブティーのお土産を貰って別れた。


王宮の大変さや危険さを並べ立てリディアを突っぱねないあたり、私も甘いんだろうな。




✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤




「どうだった、妹君は」



カトレアと二人王宮へ向かいながら、話を振ってみた。


するとカトレアは複雑な表情で話し始めた。



「王宮で雇ってほしいって……私、思わず了承しちゃったわ。

どうしよう?あんな可愛い子をあんな汚いところに入れたらどうなるか……!」


「雇うって、待て、どの役職に?」



カトレアはリディアの話や成績を僕に言い、どうにかして雇えないかと聞いてきた。


なんだ、ただのシスコンか。



「この成績なら、僕の部下として雇うことも出来るな…侍女の方が君と一緒にいる時間は長いと思うけど、」


「それはダメ」



カトレアはすぐさま否定した。



「侍女じゃあの子の才能が生かせない。それじゃダメよ」



その顔は紛れもなく、……立派な姉の表情だった。


やっぱり、僕がしていた心配は杞憂だったようだ。



「……わかった。そういう方向でエルメスとも相談をしよう、君も同席で」


「!……ありがとう!」



カトレアは、本当に嬉しそうに笑った。


その様は、まるで花が咲くようだった。



その後僕達は城に戻ったその足でエルメスの私室へ向かった。


生ける屍だったエルメスは終始爆笑しながらもリディアとリュカの件を承諾し、後日リディアは僕の部下として働くこととなった。



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