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Another World On-line  作者: 乙女恋
START&GAME
3/8

BLACK&WHITE

第三話

「初めまして、カリストア帝国第二王子です。今回の魔獣騒動の説明のために来ました。」


「王子なのに、僕らに敬語を使うのは止めてください。それはこちら側としても少し困りますので。」


「では、お言葉に甘えさせていただきます。まず初めに、皆さんが魔獣と呼んでいる生命体についてですが、もともとは我々カリストア帝国内に生息する野生動物だった。今までは、魔力を持っていてもあくまで野生の動物でしたので、あまり何も起こってい無かった。だが数年前ドルガナとレドニアがしていた中期百年戦争に巻き込まれ、カリストアにもある程度の損害を受けました。幸い、防衛力の高さを生かし、何とか防ぎ切りれたと思っていたのだが、その最中に、何者かに魔獣の転移を許してしまいました。通常は結界が張られているため、内部では如何なる魔法も使うことはできません。ですが、防衛に専念しすぎたあまりに結界の穴に気付かず、そのせいで魔獣転移をさせてしまいました。」


「その転移させられた魔獣が今ここらに出現している魔獣ということか。」


「はい、我々の不注意でこんなことに巻き込んで誠にすいません」


「おいおい、一国の王子がそんな簡単に頭を下げてはいけません。大体僕たちは、全く損したと思っていません。僕たちは魔獣のいる今を楽しんでいるから大丈夫です。それより、あなたは外と中、どちらの王子ですか。」


「それは、事務中心か、魔獣との戦闘中心かということかな。それなら、後者だ。事務をするのは苦手だ。事務は全部側近に任せてある。」


へえ、意外と魔獣と戦う王子っているんだ。皇族ってずっと王宮とか城にずっと籠って事務的なことをしてるもんだと思ってた。外に出ることがあっても、国内を見るだけで、魔獣と戦ったりしないもんだと思ってた。


「カケル、それ完全に思い込みだから。ここと同じようにいろんな国があるけど、ほとんどの皇族は事務なんてするかって感じの方が多いよ。」


「そういえば、カケルたちが独自に魔獣を鑑定した報告書見た?あれにはここじゃありえないことばかり書いてあったはずだけど」


「ええ、もちろんです。報告書のおかげでこっちの魔獣についてもよく分かったよ。カケルが『軟泥』と名付けてた魔獣はこっちじゃ居ないみたいだな。でも、なんで居ない魔獣について書かれた書物が存在してるの」


「その書物って、図書館か本屋で見たんじゃない。もしそうなら、それは、全部誰かが勝手に考えた動物なだけで、それが偶然カリストアにいただけだと思うんだが」


「そうですか。この前ここから勝手に抜け出したときに見たのでよく覚えていませんが、そんな気がします。あっ、一番大事なことを忘れる所でした。これ、魔獣の調査に対するお礼です。受け取ってください。」


この封筒って、まさか...。いや、まあそういうことか。


「金銭関係は受け取らないんで。あっ、でも魔獣関係とかなら、いくらでも欲しいんだけど。すいません。」


封筒の中身があれじゃ、受け取ってもこちら側としても困るだけだし。第一受け取ったところで、何か特があるような物でもない。


「あっ、カケルどこに行くの。すいません、ちょっと失礼します。」


「カケルがいつもあんな感じじゃないんだけどな。一体何を渡そうとしたんだ。」


「これこれ、特設騎士団団長任命書。あんまり気に行ってくれなくて残念。それに防護壁内の案内もしてほしかったんだけど、それを言う暇はなかったな」


「分かった。カケルに全部伝えておく。」


「ありがとう、レンくん」



【生徒会室】


「あのね、いくら副会長だからって、王子なんかにあの態度はどうかと思うよ」


「封筒を渡されたのに、中身を確認して返したんだって。中身は何だったの」


「これだ。確かにカケルにはほとんど興味のないようなものだな。もしかしたら、逆に邪魔になるものかもしれない」


「レン、それどういうこと。騎士団団長になって、邪魔になることってなんかある」


「責任、管理、それにプレッシャー。第一カケルはもともと複数よりも一人の方が好きだ。今は何とか俺とイクだけが一緒に居れるような状態だ。副会長も前もって説得させていたから、ここにきてすぐに呑んだんだ。」


「なら、その騎士団自体を完全にカケルの管理下にして、だれの指示も関係なくしちゃえばいいんじゃないの。」


「どっちにしても同じだ。」


『カケル!』


「僕の管理下であっても、根本的には何も変わっていない。本来必要ない騎士団をなぜあの王子は作ろうとしているのか、なぜ僕が騎士団長なのかがまったく分からない。それに、僕はあの王子とは仲良くなれる気がしない。」


「カケルくん、あれか、団長になったら部下の心配をいなくちゃいけないからってこと」


「そ、そう。僕なんかにそんなことできるわけがない。それどころか、危険にさらしてしまうかもしれない。」


「へえ、カケルは僕たちをなんだと思ってる。そんな簡単に死ぬようなバカじゃないってわかってるだろ。それにどっちかというと、カケルの方が死ぬ確率高いと思う」


「そうそう、カケル一人ならまだしも、レンもイクもいるんだし。四人いればカケルが死ぬ確率倍でも五分の二なんだし、どんなに頑張っても百にはならないんだから大丈夫。そろそろ、他人を心配するより自分を心配するべきだと思うな。いまだに、恋愛経験なしのくせに」


最後のは余計だ。自分から恋愛を拒んでるだけだ。あんなのしたところで時間と金の無駄だし、それに一番大事な事をするのに毎回気が散りそうでいやだ。


「分かった。レンたちを信じてやってみる。でも、一回もしたことがないから一切どうなるか分からないよ。」


「あの、それはいいんだけど、王子が今どこにいるか分かってるんですか。」


「さっきの部屋じゃないのか。」


「いえ、王子は体が鈍るといって、防護壁外西第二十三区域の森に行きました。」


あそこって、まだ完全に何が起こってるか分かってないところなんじゃ。


「以外にもカケルと同じような人がもう一人皇族なんかにいたとは」


「僕とあいつを一緒にするな」


【防護壁外西第二十三区】

たく、なんで他国の王子を探すためにわざわざ魔獣のいる所に行かなきゃならんのだ。自分で行ったんだから、自力で帰ってこれるだろ。王子なら自分で帰ってこれないところに行くわけがないだろうに。


防護壁内は一応五区に分かれているが、防護壁外は南西と北東、南東と北西を結んだ対角線を境界線にして東西南北四区域、一方位大体二十区域から三十区域に分かれている。一区域の平均面積は大体一キロ平方になっている。


「ほっといても自力で帰ってくるだろ。何でわざわざ探しに行くんだ」


「カケルと違う種類なら問題ないかもしれないが、今のところ共通点が沢山見つかってるからな。迷ってなきゃいいんだが」


「それはどういう意味だ。」


「あれ、忘れたの。カケル、小一の時勝手にどっか行って迷子になったじゃん。忘れてないよね」


「おい、それは禁句だ。あの王子の前では絶対に言うなよ。わかったな。」


恥ずかしい話はここまでとして、この森以上に静かすぎないか。いくら、前までいた鳥たちが食べられたとか考えたとしても、一切、木の揺れる音や、虫や鳥の鳴き声が聞こえない。せめて魔獣の鳴き声くらい聞こえてもいいと思うんだが。


「なあ、こんなに静かだったら魔獣に誘い込まれてる気しかしないんだけど」


「こっちから行かなくても魔獣が出てくるんなら、王子を探しながら金も稼げるからいいんじゃない」


「魔獣の調査ができるのも忘れないで」


「何、今の音」


「この音、王子が持ってた銃の音だ。この近くにいるんだ。行くぞ」


えっ、何あれ。あれは魔獣なのか。魔獣の定義は魔力を持つ動物なので間違いではないのだろうが、あまりに大きすぎて今まで見てきた魔獣を魔獣と言っているとこいつはどうなるんだというほどだ。推定全高八メートル、全長二十メートルといったところだろうか。体は全面岩で覆われていて、擬態するかのように背中には期のようなものが生えている。


「何あれ、なんでこんなところにあんな魔獣がいるの。」


「そりゃ、魔獣なんだから、森に、空に、海に、川にいるよ。もしかしたら街にも、誰かが連れ込んでるかもね」


「そうじゃなくて、なんであんな巨体なやつが、こんな所に誰にも気づかれずにいるのかって事。」


「正確には、あの王子は気づいてたようだけど。いいじゃない、お金も稼げて、魔獣を倒す楽しみも味わえて、お得じゃない。ね、ハル。ハル?」


「あ、ああ。そうだな、ここを異世界と想定した場合、ほかにもこんなやつがいるかもしれないし、一度くらい戦ったことがある方が次に出会ったときにもだいぶ安心できるし。」


「最初の十分だけ、ハルさん以外に頼んでいい。十分すぎるほどの腕の王子がいるから大丈夫だと思うけど、無理はしないで。僕はハルさんとあの魔獣専用の武器を作るから」


「はあ?お前は一応リーダーなんだぞ。そのリーダーがどっかに行ってどうする。指示はどうするんだ。」


「指示は王子に頼む。行けるよな王子なら」


「了解。カケルよりうまくできるから安心して武器作れよ」


「じゃあ、あと頼むね」



「で、ハルさん何か悩みでもあるわけ。さっきも目の前に魔獣がいるのにぼーっとしてたし。」


「いや、大丈夫だ。ただ単に、魔獣の大きさに驚いただけだ。早く戻るぞ」


「ハルさん、僕ね一応いろんな資格を取れるだけの勉強はしてるんでね、ある程度今ハルさんが何を考えてるのかわかるんですよ。魔獣に驚いたって嘘ですよね。驚いたんじゃなくて怖かったんでしょ。昔どっかで似たようなのを見たことあるの」


「ああ、そこまで分かったなら隠さなくてもいいな。あれは確か小五の時だ。家族で山にキャンプに行ってた。山の中で山菜採りをしていた時にあいつに出会った。俺は怖くて気絶してしまった。気が付いたら、病院のベットの上だった。医者や看護師には、動物に襲われ、親はもういなかったといわれたが、あいつを見てないからそんなことを言えるんだ。それから、急に親の顔も何もかも思い出せなくなった。覚えているのは親がいたということだけだ。まっ、今は親がいなくても、生徒会のみんながいるからまったく気にしないけどね。カケル、これは内緒にしといてよ。こんな恥ずかしい話聞かれたくないからね。じゃあ零たちのところに――」


「誰だ!そこで何をしている。」


微かではあったが、確かに人のにおいと足音がした。


「さすが、副会長なだけのことはある。だが、特務機関で働いてた僕によく気づいたね。」


「こっちも、特務機関に匹敵するようなところにいたからね。ある程度の自信はあるよ。ね、冬夏さん、何しに来たの。まさか、魔獣を倒すのを手伝いに来たとかいうんじゃないでしょうね」


「そんなわけないじゃない。何でわざわざそんな面倒臭い事をしないといけないの。よく言うけど、魔獣を倒す暇もないほど忙しいんだよ。王子の護衛役もしてるし、生徒会の管理もしないといけないし。」


「じゃあ、なんで忙しいのにわざわざ来たわけ。」


「ここには王子も生徒会もいる。だから来ただけだ」


「じゃあ、せっかく来たんだから、金稼ぐついでに魔獣を倒すのを手伝ってくれればありがたいんだけどね。報酬は百万だ。どうする。」


「どうやってそんなにも集めた。本当にあるんだろうな。」


ブレスレットの所持金額を見せてやった。もちろんそこには百万以上の金額が表示されていた。正確には二百六十三万二千六十五だ。別に貯めたわけではなく、減る額より、手に入る額があまりにも多すぎただけだ。魔獣出現の初日、レンにもらった銃で何とか魔獣には勝てたが、剣では満足できるほど戦えなかった。だから、夜中に近くの低級魔獣を倒しまくって、剣の腕を磨いた。低級魔獣一体当たり五ポイント、中級魔獣なら二十、上級で五十、超級で二百、そして今目の前にいる師団級で五百ポイントだ。師団級以外は倒したプレイヤーが複数の場合、ポイントは人数で割られてしまうので、夜中だけでもソロで魔獣討伐をしている。


「分かった、百万で師団級魔獣討伐援助だな。何か方法でもあるのか。見た感じ剣も銃もろくにダメージが与えれてないようだが。」


「あるにはあるが、実際持久戦とほとんど変わらないだろう。魔獣の強化装甲をなくさないと話は変わらないしな。」


とりあえず、夏冬と取引はできたし、あとはあいつをどうやって倒すかだが、考えるより先に行動する方が良いかな。でもその前に。


「ハルさん、あの魔獣と戦うの、それともここでじっとしてる」


「どんな親か覚えてないけど、一応親を殺した魔獣だから逃げるわけないでしょ。カケルといろいろ話してあいつと戦う勇気が出てきた。絶対にあいつを殺す。」


別にハルさんが倒さなくてもいいんだけど。まあ、このまま暴走しなきゃいいんだけど。変にやる気が出たりしたらよく暴走してる気がする。


さて、銃弾は完全に弾かれてるし、剣で戦っても今の剣じゃ剣は折れはしないだろうが、役に立たなくなるほど削れてしまうだろう。やっぱ考えてても、いい案が出てこない。時間の無駄だし突っ込んでやる。


「おい、カケル。何を考えてる、そのまま突っ込んだって...」


あれだけ硬くて剣が効果なくても、関節の隙間にさえ刺されば何かできそうなんだけど。とりあえずやってみよって、わあ。あいつ、見た目は岩と木しか無いくせに、なんで火を噴けるんだよ。あっぶね、少し立ち位置が悪かったら絶対当たってたな。まああれだけの攻撃をすればしばらくは火を吹けないだろうし、今のうちに行くべきだな。よし、ちょっと高いけど、この程度なら、少し無理すれば。おっ、関節に刺さりはしたが確かに硬いな。これじゃ、ほかの場所じゃまったく刺さらないだろうな。もしかしたら、剣が折れてしまうかもしれない。とりあえず、あまり動かないうちにこのまま背中まで登ってやる。


「なあ、あいつの無茶ぶりはいつものことだが、あれ大丈夫なのか。あそこから振り落とされたりしたら、死ななくても、無傷では済まないだろ。」


「まっ、あんなに適当に突っ込んでそうに見えるけど、意外と考えてるからな。多分わざわざ自分から突っ込んでいったのも、僕らをあいつの気をこっちから逸らすためかもしれないし」


「へえ、カケルのことをなんでも知ってる風に言うんだ。少なくともあいつは放って置いても大丈夫なのは確かだ。おそらくあんなのが十体や二十体いたところで大丈夫だろ。」



よし、何とか上に登れた。こっからどうしよ――

危ない危ない、なんだよいきなりでっかく吠えやがって。てか、なんで落ちてないんだ。えっと、魔獣の背中で足を滑らして、とっさに賭けで剣で背中に剣を刺して...あっ。そうか、魔獣の背中にちょっとだけ亀裂があってそこにたまたま県が刺さったのか。ここになら、っと。

僕は何か役に立つと思って持ってきていた、それなりに丈夫なピックを亀裂に沿って刺していった。これくらいなら、細いし短いから、外層だけで神経には届かないはずだから、気づかれないだろう。それに、このピックはよくできていて、一度刺したら五十キロぐらいまでなら力をかけても、抜けない代物だ。僕の体重は四十五ぐらいだから、まだぎりぎり大丈夫なはずだ。僕はピックに紐を括り付けてたいていの魔獣にある弱点を狙うことにした。

あっ、こんな時にだけど大事なこと思い出した。この前、防護壁の近くで魔獣と戦った時に、空の魔獣克服をしようとしてほとんど意味なかったけど、今回も連れてこればよかった。別に戦わせなくても、運動が大嫌いな僕でもこんなに楽しめるって教えられたのに。まあ、もしかしたら逃げ出してこの森の中にでも逃げ込まれたら探すのも大変だし、連れてこなくて正解だったかもしれないけど。

それは、今更考えたってどうにもならないし、とりあえずこの魔獣をどうやって倒すか考えよう。下は下で中級上級の魔獣の相手をしてて、師団級に攻撃する暇はないようだし、こいつの相手を出来るのは僕だけだから、僕が責任をもって倒さないと。じゃあ、始めるとするか。


「まずは、左目!」


魔獣は自分の上からいきなり人が下りてきたので驚いて目をつぶろうとしたが、すでに遅かった。目をつぶるより先に目に剣が刺さった。魔獣はあまりの痛みに大きな声を上げた。まあ、目に剣が刺さってたら人なら失神しててもおかしくない。だが、さすが師団級と言われるだけのことはある。目に剣が刺さっていながら、ダメージを受けているようには全く見えない。こいつに弱点というもの自体存在するのかと思えてきた。体は固いし、関節もほとんど攻撃が効かないし、目も視界が減るだけでさほどダメージを食らっていない。一人なら諦める事も出来るのだろうけど、僕はレンやいっくんがいる限り諦めれない。僕が死んででも、こいつは絶対に倒さないと。それに今の僕の目標は、どんな魔獣であっても、絶対に負けない。そして、すべての魔獣の生態を調べ、すべての魔獣と共存できるようにすることだ。だから...


「カケル!こいつを使え!」


「空!良い時に来た」


空には前もって、それなりに高級品の剣を頼んでおいた。防護壁内の店にも鍛冶屋はあるのだが、値が張るし、時間がかかるし、何といっても質が全然違う。新しい剣は、ちょっと重いような気もするが、大概は重い方が固いものも切れるからそこは我慢しよう。この件なら、魔獣の固い体にも攻撃が効くだろう。


「これでとどめだ!」


魔獣だろうが、何だろうが動物である限り、どこかに必ず心臓は存在する。そしてこの新しい剣なら、この程度の大きさ固さの魔獣なら、心臓くらいなら余裕で届く。それに、大体の魔獣の心臓の位置は外からでも音を聞けばわかる。

実際、心臓にまっすぐ刺さって、魔獣は動かなくなった。おそらく、心臓に刺さった剣が致命傷となったのだろう。こんなに大きな魔獣が本当に倒せたんだと驚いてしまった。僕は、念のため完全に魔獣の心臓が止まったのを確認してから剣を抜いた。

それと同時にレンや恋たちが戦ってた上級中級魔獣は全部どこかへ逃げてしまった。


「よくあんな無茶ができたな。最終的に魔獣を倒せてるから全く問題ないけど、もし空がその剣を持ってきてくれなかったらどうするつもりだったの」


「それは、その時に考えるつもりでした。最終、目に刺さった剣で目を取って魔獣の中に入るって方法もあったんだけど。」


「そんなことしようとしてたの。やっぱ空が来てくれてよかった。てか、空は魔獣が怖いんじゃなかったの」


「あれ前に言いませんでした?僕が怖いのは魔獣自体ではなく魔獣と戦うことだって。ここにはカケルや零、恋たちもいるから戦う必要はないと思ってきたんですよ。もしいなかったら絶対にこんな所になんか来ませんよ。」


「あっ、ハルさん。この魔獣は一応僕が倒したんで、僕の所有物にしてもいいですか。この後また科捜研でいろいろ調べたいことがあるんですが。」


「そうだな、どうせこのまま置いて、他の魔獣にでも食べられるなら、何かに使われる方が良いだろう。好きに使えばいい。それと科捜研に行くなら、その前に医科大で一人外科医を連れて行ってほしい。なんかカケルの魔獣調査に興味を持ったようだからな。カケルみたいにならなきゃいいんだが」


おい、最後のはどういう意味だよ。僕が外科医と一緒ならまだしも、今の言い方だと完全に僕が変人みたいじゃない。別にその外科医が変人であろうと全く持って問題じゃ無いんだけど、僕が変人だっていうのは少しどうかと思うな。


「分かった。その外科医の名前を教えて」


【科捜研 生物学室】

僕は一応言われた通り外科医を連れてきた。確かに僕がどうかは置いといて、彼女は僕以上に魔獣に興味をもっているかもしれない。


「なあ、先生。魔獣のどこが一番面白いと思う」


「それは外科医としての見解か、それとも個人的にということか」


「それはもちろん、個人的にどう思ってるかですよ。僕はやはり骨だと思うんですけどどうですか」


「確かにそこも興味深いが私の一番は外層の皮膚だ。カケルだったよな、あの師団級魔獣を倒したの。それなら分かると思うが、あいつの皮膚は通常の剣ではほとんど歯が立たなかったそうじゃないか。どうやったらあれだけの硬度を保てるんだろうと思ってね。」


「話している間に、一つ奇妙なことに気付きました。」


「私もだ。胃というべきなのか分からないが、そこの内容部が少し変わってる」


普通、胃の内容物は少しくらい混ざっていてもある程度食べた順番は分かる。この魔獣の場合、下の方には、ここには存在しない植物が入っていた。異世界から来た魔獣だからその辺はおかしいとは思わない。まあ、あんな固い皮膚を保っているくせに、草食魔獣なのには驚いたが。ただ、一つおかしいのは、その異世界植物の上にこっちの植物があって、その上にまた異世界植物があったのだ。これは、明らかにこっちの世界に異世界植物が魔獣と一緒に来てしまったことを表している。


「これって、まさか」


「そのまさかのようだな」


今まではずっと魔獣はこっちの世界で餌を見つけない限りは生きていけないし、もし見つけてもこっちの植物には魔獣の攻撃エネルギーになるような植物など一切ないはずだった。だが、異世界植物がどこかに生えているとなると、話は別だ。


「どうするんだ。魔獣を殲滅する意味も無くなったぞ」


「殲滅するつもりだったのか。僕は魔獣と戦うのを楽しんでただけなんだけどな」


「魔獣と戦うのを楽しむだと。分かっているのか、やつらは魔法を使えるのだぞ」


「だから楽しいんじゃない。この世界には最近も新種の動物が見つかっているのに一種たりとも魔法を使える動物など一種たりとも見つかっていない。別に魔法を使える動物が異世界の魔獣であっても、動物であることに違いは無いんだし、問題はない」


「あまり理解できないな。カケルが楽しんでるならそれでいいかもしれないけど、けがしたりしないようにな。知っているか、『深淵を覗けば深淵もこちらを見ている』という言葉を」


「何事も関わりすぎるな、と言いたいんですか。それならそれは無理でしょうね。どうせハルさんから聞いてるでしょ、僕は衝動的で先が読めないやつだと。自分でも分かっていても、それを止められない」


「私の子供の頃みたいだな」


「あっ、六時になったんでまた明日。ここに七時くらいには来るから、その時に続きを。おいしい、いっくんの料理を食べられなくなったらもったいないからね」


【生徒寮】

「あ、おかえり。遅かったな」


「悪かったな、可愛くないレン。例の外科医の先生の話が長くてな。」


そうだ、よく考えたらあの外科医の名前まだ知らないな。会話中もずっと先生としか呼んでないし。まあいいか、どうせ名前を聞いたところですぐに忘れるだろうし。僕は大概の人の名前を覚えるのが苦手だ。今の時点で覚えてるのは、生徒会のメンバーだけだ。


「そういえば、レンとカケルってなんでも真逆だよね」


「真逆だと。どこが」


「ほら、レンだったら、何があっても時間になれば強引にでも自分が決めたことをするけど、カケルは相手に合わせるでしょ。それに、レンはロボットを造る事には興味があるけど、魔獣の死体なんかには全く興味がない。でも、カケルはロボットを造る事なんかには興味はほとんどなくて、魔獣の死体なんかの方がいろんなことが分かるってよく興味を持ってるし。一番わかりやすいのは、普段レンは丁寧に集中して何かをするけど、カケルは適当とまでは言わないけど、全然集中してないし。てか、なんでも飽きるの早すぎだし」


確かに、なんでもすぐに飽きる。ゲームをしても、アニメや映画を見てもすぐに飽きる。今興味があるのは、魔獣とレンが造ったロボットだけだ。他のものは全くとは言わないがあんまり興味がない。


「レンはコーヒー派だけど、カケルは紅茶派なのもだよね。あと好きな数字がなぜかいつもカケルは不足数で、レンは過剰数だし」


あ、ほんとだ。レンとはいろいろ似てると思ってたけど、意外と逆だったんだ。別に好きな数字が不足数になるように考えてるわけじゃない。それに、レンはコーヒーが大好きみたいだけど、僕は苦いのが嫌いでなかなか好きになれない。だからいつも紅茶を飲んでいる。似てる所って意外と無いのかな。


「確かにレンとカケルはほぼ真逆だけど、それは別に悪い事じゃないと思うよ。どっちかというと、その方が良いかもしれないし。だって、レンとカケルが一緒にすれば一番最強だし。二人がいれば欠点とか弱点なんて打ち消してしまうし」


そういえば、元々僕は剣だけで戦っていたけど、レンがいるおかげで銃使えるし、そのおかげで魔獣を倒しやすく...なったの、かな。なんか、レンによく、無駄に銃弾を使いすぎだって言われる分役に立ってるのかよく分からない。一つだけ確実なのは、やっぱり、銃よりも剣の方が僕的には落ち着くってことだ。なんでかな、銃って軽すぎるし、小さすぎるんだよな。持ち運びがしやすいってのはいいんだけど、戦闘時は軽すぎるおかげで違和感を感じる。でも剣は重さも大きさもちょうどいい。恋には今持ってる剣が重すぎるんじゃないかと言われた事がある。でも僕はこの程度の重さじゃないと満足できない。初めてもらった剣はあまりにも軽すぎて思う存分戦えなかった。もちろん今は満足できる剣だからそんなことにはならないけど。


「黒の魔王と白の死神だな」


は?どういう意味だ。黒がレンで、白が僕だとしても、魔王と死神ってどういう意味なんだ。


「何、意味が分からないような顔をしているが、そのままだよ。カケルは魔獣を倒すのが好きだし、死体を見ても全然怖がらない。レンは、大体は何を考えてるか分かるけど、カケルと話してるときは何をするか分からない。そういうところが魔王と死神だと言ってるだけだよ」


死神か、なんかあんまり違和感がないのはどうしてだろう。それにレンも魔王というのには全く不満が無いというか嬉しそうだ。


「Black and White」


「さすがハルさん。英語の発音だけはいいね。まっ、あくまで英語だけだけど」


「だけって、こう見えても一応フランス語も大丈夫なんだけどな。」


じゃあ、英語以外話せないのは恋といっくんだけか。


「そういえば、レンとカケルって二つで一つって感じじゃない。二人がいれば無敵だし、なんでも作れるし」


それはあくまでレンが大概のことが出来て、出来ない一部のことが僕がたまたまできるだけであって、それほどすごい事ではない。数学と科学が得意な人と、英語と国語と社会が得意な人が一緒に試験を受けるようなものだ。


「無敵って思ってるかもしれないけど、弱点もあるんだよね。じゃあ、ヒント。首都圏や都会が嫌いな理由もこれ」


レンと僕は大概は真逆である意味長所だけど、数少ない共通点はほぼ必ず短所だ。長所になることはなかなか無い。


「答えは、人混みや人の多いところ、でした」


「そういうことか、それで首都圏に行くのを嫌がってたのか」


「まあ、最近は魔獣による人口減少であんまりそんなことを考えなくて大丈夫だけど」


でも月一回大嫌いなのがある。そいつの名は魔獣対策等報告総会。魔獣についての情報収集と開示などをするのだが、毎回なぜか僕が前で話さないといけない。いつも思うのだが、こういうのは生徒会長である、ハルさんにしてほしい。


「もう、こんな時間だ。僕はいつも通り部屋で骨格標本でも作ってるから、何かあったら来て」


「俺も部屋で何かしてる」


動物の死体が大嫌いなレンが僕と同じ部屋に居れるのは、レンの鼻が悪いからだ。もちろん、その代償?はある。僕の耳が良いように、レンは目がすごく良い。この前船に乗ったときに地平線上を巡航していたイージス艦の艦番号を読み取った。もちろん双眼鏡なども無しにだ。せめて艦種ぐらいなら分かるかもしれないが、さすがに艦番号は裸眼では到底見えるものではない。


「で、なんで全員僕の部屋にいるわけ」


「お前の部屋じゃない。俺とお前の部屋だ」


確かにそうだけど、そんなことはどうでもいい。


「だって、この部屋広いんだもん」


確かに広いかもしれないけど、その分物はかなり置いてある。一応、この部屋の半分は僕の部屋、残り半分はレンの部屋となってはいるが、実際は仕切りが無いせいで、僕がレンの方に侵入し始めている。僕の方は大半は、魔獣の死体を入れた箱や、暇なときに読むつもりの本でほとんど足場がない。でもレンの方は、物が少ないからかきれいに片付いている。


「なんで、カケルの部屋はこんなに本が多いんだろうな。本棚でも作れば片付くだろうに」


「ああ、本棚なら一回使ったことあるが、あれは意外に不便なものだった。本が増えれば増えるほど、本棚の板の分の体積がもったいない。だから、こうやって床に本を積み上げてるんだ」


「うわ、何これ。死体はすべて平等とは限らない、だって」


「それ、どっかの医科大の先生が出してるやつ」


「あれ、この本の著者、この前カケルが科捜研で魔獣の鑑定を一緒にしてた人じゃない」


「あっ、ほんとだ。全然気が付かなかった」


「へえ、そうだったんだ。今初めて知った」


てか、勝手に僕の本を触るな。この部屋にある本はたいてい、内容はすごくて、タイトルが変な奴ばっかだ。


「今から、この前の師団級の骨格標本作るけど、空以外でやりたい人いる?」


「俺は遠慮しとく」


「俺も」


「もちろん、僕も」


動物の死体を嫌う人は多いけど、それはただ単に骨格についてよく知らないからだ。骨というのは、体を支え、体を守っている。そう、骨は生の象徴だ。骨格標本は個々の動物がどのように体を支えているのかを知るために作るものである。断じて怖いものではない。確かに一部の動物は死臭が強いことがあるが、それは時間がたてば、我慢をせずとも臭くなくなる。たまにそれでも臭いという人がいるが、それは我慢するしか方法は無い。というか、我慢するのであれば、骨格標本を作らなければいいだけの話だ。


「じゃあ空、どれでもいいから適当に箱を選んで。選んだら、今回はそれを作ろう」


「それじゃあ、あっ。これ、かけるん何の動物」


か、かけるん?その呼ばれ方は初めてだな。いつもカケルとしか呼ばれないからなんかちょっと違和感がある。多分僕が郁をいっくんって呼んでるのと同じ感覚なんだろう。


「えっと、それは猫の骨だ。動物霊園が無くて処理に困ってたのを引き取ったやつだね。えっと確かこの辺にも」


あれ、どの箱だ。この辺にあるはずなんだけどな。標本を作るのよりも死体の数が増える方が早くて全然片づけてないからだな。どこにもない。多分どっかに埋まってるだろうけど。


「いや、ごめん。見つからないからさっきの話忘れて。えっと、猫の骨ってところまで言ったね。一人で出来るだろうから一回できるところまでやってみて。やり方は教えるから」


骨格標本を作る方法はいろいろあるが、この際そこまで時間をかけてやる必要はないのですぐにできる簡単な方法を教えてあげた。沸騰した水の中に死体を入れて肉を柔らかくする。この時、鹿とかだったらおいしいシチューを作ったりもできる。今回の猫は出来るシチューの味は知らないからおいしいか分からない。そうだ、大物を捕まえた時のために大きい鍋を買っておかないと。あとで、ハルさんに頼んでおこう。で、えっと肉を柔らかくしたら、腹を切って内臓や肉等を取り出し、大体骨が見えるようにする。あとはウジに食わせるでも、頑張ってきれいになるまで肉を丁寧にはがしていくかだ。まあ、楽をしたいならウジだな。


「簡単でしょ。すぐ戻ってくるから一人で出来るところまでやってて。怪我はしないようにね」


一緒にいて気づいたことがいくつかあった。もともとは魔獣が怖くて生徒会に無理やり入れたんだけど、生きてたら怖いくせに死んでたら襲われないからか、怖くないどころか楽しそうだ。生きてる、魔獣も怖くなくなればもっと楽しそうに出来るのに。


「あっ、ハルさん」


「カケルか。どうした、空はほったらかしで大丈夫なの」


「それなら問題なし。ただ、今後の空が心配で」


「防護壁が壊れた時のことか。カケルのことだからいつか言い出すとは思ってたけど」


「じゃあ、話は早いね」


「大丈夫だ」


「あの、まだ防護壁が壊れた時の空のことをちゃんと言ってないんですけど」


「どうせ、空が魔獣と戦えなかったらそのうち生きていけなくなるだろうって話だろ。カケルは空の親か。そのうち空が自分で何とかできるようになる。勝手に手を出したらそれはそれで嫌われるぞ」


うーん、そういうもんなんだろうか。あんまり自分では納得いかない。そりゃいつかは魔獣が怖く無くなるかもしれないけど、それで防護壁崩壊までに間に合うんだろうか。


「カケル、ここからどうするんだ」


「今行くからちょっと待ってて」


「じゃあ、続きはまた後で」



【三帝国評議会】

ここは軍事帝国、経済帝国、中立帝国の三帝国による共同開催の評議会である。帝国間での争いごとはすべてここでの話し合いで片づけられていた。


「カリストアの代表はどこだ」


「俺が代役を務めさせていただく。国防長官シルバディア・キュービックだ。カリストアを代表してここに宣言する。我々は中立国を脱退する。そして、ドルガナ、レドニア双方に宣戦を布告する」


「なっ、何を言ってるのかわかってるのか。中立国ごときが大国などに勝てるわけがない。取り消すなら今のうちだぞ」


「我々は何があろうと引き下がらない。ここに総理の署名もある。よって、これより全勢力をもって双方に進軍する!」


そう、カリストアの宣戦布告は全く冗談ではなかった。海陸空、そして宇宙からも攻撃をし始めた。中立国であったカリストアは本来、自衛の武器しか持っていないはずだった。しかし、双方を攻撃しているのはどう見ても自衛ではなく、攻撃を主とした武器であった。

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