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Another World On-line  作者: 乙女恋
START&GAME
2/8

MAJIC&BEAST

第二話

【ヘリコプター内】

僕は生まれて初めてヘリコプターに乗った。

まあ、普通ヘリコプターに乗ることなんてないだろうけど。

飛行機とは違って、プロペラの音がうるさい。

乗ってみて分かったけど、揺れで酔うというより、プロペラの音で耳がおかしくなりそうだ。

さて、恋くんに魔獣のことについて全部説明を受けよう。


「今のところ分かっているのは、魔獣が例のゲームとまったく同じ動物であること。そして、そのゲームを開発した会社は最初から地球上に存在していないことだ。ちなみに、かけるとレンレンが戦ってた魔獣の名前は『Dark Wolf』、見た目的には普通の狼とほとんど変わらないけど、違うところはかなり好戦的で狂暴的な所。普通の狼はどっちかというと『White Wolf』に近いかな。あいつらは、滅多に人を襲わないし、かなり温厚的な性格だ。ゲーム内で買う動物でもかなり人気があったような気もする。今の時点で分かってることはこんなもんかな。ほかに何かある。」


「じゃあ、もしかしたらまたどこかでその狼に出くわすかもしれないってこと。」


「そういうこと。しかも、ゲーム内に出てきたほかの魔獣も出現するかもしれない。」


なにそれ、魔獣なんてものに実際に出会うのは異世界にでも転生してからだから今は焦らなくて大丈夫だって思ってた。

ほらよくあるでしょ、死んで異世界に転生したら、魔法があったり、魔導士が居たりだとか。


「そうだ、大事なことを言い忘れてた。カケルとレンレンといくは明日から新設した学校の寮で生活してもらうから。三人だけじゃなくて、僕もだし、あとほかの所で魔獣と戦って勝った人たちもだから。」


へえ、学校に寮ができたんだ。

めっちゃうれしい。

だって中学校の時からずっと寮に住みたかったんだもん。


「部屋の鍵は渡しとくから、学校についたら勝手に寮に行っていいから。ああ、あとこれも。これIDカードの代わりだから無理だと思うけど、勝手に外さないでね。」


そういって、こいくんは僕には左手首、レンといっくんは右手首に黒や白の輪のようなものを付けた。

この輪は、IDカード以外にも、この今の世界で暮らせるように出来るだけゲームと同じようにするために、買い物の際に割引やポイントが付いたりするらしい。

そのほかにも魔獣を倒した数や種類で変わるライセンス、携帯やスマホと同じように通話やメールの送受信ができる。


「一つ言っとくのを忘れてた。ここの学校の先生たちにはほんとに変な人が多いから、学校についたときに驚かないでね。防衛設備を設営するだけだったのに半分要塞と化してるから。十分すぎる防護壁なんてものも造っちゃったみたいだし。」


防護壁がある学校もそれはそれで面白そうだけど、魔獣にそれだけの設備がいるのは少し不安だ。

確かに防護壁があれば防護壁内は安全かもしれないけど、逆に言えば防護壁が必要なくらい強い魔獣もいるってことだ。

もし、防護壁が魔獣の攻撃に耐えられなかったらどうなるんだろう。

よく海沿いの津波用の堤防があるけど、あれもその堤防の高さくらいの津波は来る可能性があるってことだ。

でも実際、それを余裕で超えるような津波や堤防を一瞬で決壊させてしまう津波が来ることも少なくない。


【剣零高校付近】

何とか無事に生きてる。

あんな訳の分からん魔獣とも戦ったのに。

ちょっと安心した。

だって、アニメで一話から死んでしまうキャラだっているじゃない。

僕はそのキャラじゃなかったってわかったんだから。


「わあ、何あれ。あそこに本当に学校があったの」


そう、いっくんの言う通り、昨日まで学校のあった場所は一変して小さな町と化している。

上から見た感じ、防護壁らしきものが円状に五重に立っていて、その中に、小さいが小学校や中学校、大学まであるし、一番真ん中には警察や病院まである。

恋くんが言うには、この山の麓に住んでいた人たちが学校の防護壁を見て、ここに逃げ出してきたそうだ。

幸い、学校にはそれだけの人数を収容できる建築物があった。

それに余っていた校舎は病院や警察の仮施設になっている。


「で、無事学校についたわけだけど、まだ時間あるけどこれからどうする。」


「俺はどこでもいい。カケルが行きたいところに行け。」


「分かった、なら一番外側に商店街らしきものがあったからそこに行こう。いっくんはどうする」


「出来たら一緒に行きたいんだけど、先生たちから今日の魔獣について説明をお願いされてるから行けない。」


「商店街は手首についてるやつで生産できるから。ただし、一人ひと月五万円までだから気を付けて。それ以上は魔獣やアイテムの売買でお金を増やして。」


「じゃあ、レンと二人きりか。なあ、レン魔獣はほかにもたくさんいると思う?」


「いないこともないだろうけど、なぜいきなり異世界の動物のようなものが出現したのかが気になる。それに、最初カケルは魔獣を怖がっているように見えたけど本当は楽しんでるだろ。だって、商店街に行く理由も魔獣がいる世界を楽しむためだろうし」


うそ、なんでそこまで分かってんの。魔獣を目の前にし楽しんでたら、さすがに不謹慎だと思ってあまり表に出さないようにしてたのに。それに、今から商店街に行くのだって、その中に鍛冶屋があると聞いていたからだ。そこで魔獣のいる世界を楽しむために必要な武器をそろえようと思っていた。確かに銃も便利だが、専門は剣の方だ。



【防護壁内第三・四区画 剣零商店街】

やはり、商店街の分は校舎が足りなかったらしく、ここ一帯だけ簡易のテントになっている。校舎を貸し出したのは、病院や警察や消防の公務をするためと、一か月だけ住民が住むためだ。生徒の寮は何とか間に合ったようだが、ほかの人の分は建物を造るための材料が不足しているし、集めるにも魔獣がうろついている可能性があるし、都市部は壊滅しているのか連絡が取れないらしい。


「じゃあ、まず新しい服でも買おう。急すぎて何も服もってこなかったし。それに朝の戦闘で今着てる服も土や魔獣の血で汚れて汚いし。」


レンの服も探さないと。レンといると楽しくてワクワクする。女子と話すのってなんか難しいけど、男の子なら簡単に話せる。特に、レンみたいな子は。


最近気づいたけど、意外と服をちゃんと選んで買うのって難しい。確かに、何も考えずに買うなら簡単な話だけど、このズボンに合う服は、とか考えると悩んでなかなか買えない。でも今はそれなりに服のセンスがあるレンがいるから安心だ。


服を買った後、食料品店で今日の夜ご飯を買った。ここはもともと山だっただけあって、第三地区には畑と田んぼがある。そこでは、防護壁内で暮らす人の食料が栽培されていて、商店街の食料品店で売られるようになっている。


「で、十分服とか要るものは買ったけど、レンが行きたいところはある。」


「ああ、あそこの武器屋で銃の予備弾を買っておきたい。いつ必要になるか分からないからな。」


え、こんな商店街に武器屋なんてあるの。本当にあったら、そこの店主は賢い。だって、魔獣が出現して、一人で身を守るために武器が必要だが、こんな銃規制の厳しい国じゃそう簡単に手に入らない。ただ、魔獣が出現して国がその対策で銃規制の方まで手が回っていないだろう。


「なら、僕はこの銃もう一つ欲しいな。」


なぜか僕はなんでも二つないと満足できない。今は銃だが、もし剣だったとしても二刀流か、予備でもう一つ持っていただろう。だから、携帯も二つ持っている。今じゃあんまり役に立たないかもしれないが。


「じゃあ、すぐに行って、イクと一緒に晩飯食べるぞ」


【防護壁内第一区画 剣零高校】

防護壁内のほぼ中心にある剣零高校は、もともとそれなりの進学校であったが、魔獣が出現した今、ある意味魔獣に対する対策に関しては最も進んだ学校だ。政府は国民の安全を考えてはいたが、前代未聞の魔獣出現にはどこの省庁も対応できず、都心部などでは多数の死傷者を出したうえ、町は壊滅状態だ。インフラがほとんど断絶されてしまい、電力や水道が止まり、生活できない人が多数出ているが、剣零高校では地震対策で導入した太陽光発電と多数の貯水槽でインフラ設備には支障なく過ごせている。


「今日はいろいろあったけど、全員無事でよかった。」


「ああなった原因はカケルだからな。普通なら死んでてもおかしくなかったぞ。」


「カケルの衝動的で次の行動が読めないのは何とかならないのか。このままじゃ死ぬのも時間の問題だ」


「分かったよ、次から気を付ける。そのお詫びに、今日の晩御飯はそれなりに豪華にしたつもりだから」


普段は野菜か魚ばっかだけど、今日は久々に肉にした。滅多に肉を使った料理をしないので僕の中では豪華だと思う。久々だからか、いっくんは肉ばっかり食べてるけど、僕はいつも通り、野菜ばっか食べてる。


「ここにある肉は全部俺のだ!」


「いっくんはもっと野菜を食べたほうがいいよ。」


「うるさい、カケルはもっと肉を食え、肉を。」


もともと少食の僕でもこんなに食べたのは初めてだな。やっぱたまに食べたらおいしいな。


「そういえば、恋はまだ帰ってこないんだ。どうせまた先生たちにでも呼ばれてるんだろ。」


「じゃあ、俺たちは明日から、魔獣討伐にでもしに行こう。」


「え、外に出れるの。よっしゃー!レン、どっちが多く討伐できるか勝負しよう。もし僕が勝ったら、レンに何かプレゼントする。」


「レンが勝ったらどうするの。」


「好きなもの買ってあげる。」


おいおい、それじゃ勝っても負けても一緒じゃない。勝負する必要あるのかな。


「カケルには負ける気がしないな。」


「僕もレンには負けられないな。」


「カケルたち、早く寝ろ。外まで声が漏れてうるさいぞ。」


「恋!やっと帰ってきたんだ。遅かったね」


「大人って話長いから面倒なんだよな。次からはカケルが行けよ。リーダーさん!」


は?何言ってんの。リーダーってなんかチームでも組むのか。まあ、明日になれば全部分かるだろうし、今日はもう眠いから寝ようっと。


【剣零高校 生徒寮】

「...ける、...ける、...カケル!早く起きろ!生徒会長から呼びたしかかってるぞ。」


一応この学校には、生徒会らしきものがある。まだ設立して二年しかたってないが、それでも十分な権力を持っている。文化祭や体育大会などイベントは生徒会が責任をもって開催することになっている。それにしても、なんで生徒会長が。実際にあったことはないが、噂によるとかなりの(イケメンorカリスマ)らしい。本当なら入学式で在校生代表として何かを話していたはずだから、ほとんどの人は知っているのだが、僕はその日、科捜研にいた。理由はまたいつか話すとして、生徒会長に会うのは僕だけ今回が初めてなのだ。生徒会長なんかに呼び出されたら、大概何か怒られるようなことをしてたからだと思いたくなるが、ここの生徒会の場合、そんなことをしてる暇はないだろう。出来立ての生徒会とはいえ、あらゆるところに手を出してるせいで、いつも大忙しだ。


「はんへ、へいほかいひょうが、僕を呼びだしたんだ(なんで、生徒会長が僕を呼びだしたんだ)。」


「知るか、レンも一緒に呼ばれてるから一緒に行ってこい。」


【剣零高校 生徒会室】

『私は、絶対に反対です。彼らにいったい何ができるんですか』


『カケルとレンは、魔獣を倒した生徒の中でも優秀な生徒だ。間違ってはいないと思うが』


これ絶対、僕たちのことだよね。なんか入りずらい。


「呼ばれてきたんだが、何の用だ。」


おいおい、先に勝手に入るなよ。


「ほら、会長。敬語も話せないものを入れる必要はありません。もい一度考え直してください」


「いや、これは決定事項だから変更することはできない。やってくれるよね、カケルとレンだっけ」


「は、はい?」


いきなりやれと言われても何をするのかわからないのに、それは困るんだけど。


「カケルには副会長、レンには今年は書記で来年は生徒会長をしてもらいたい。」


さすがに、反対するのもわかるな。できれば、断りたいんだけどな。


「分かっていると思うが、生徒会長は命令しているのだ。これに拒否権はない。」


「そうそう、私も反対だけど会長が決めたことだからもうどうしようもない」


「えっとね、命令したつもりはないから。一応、お願いしてるだけだから」


「分かった。書記に関しては引き受ける。ただし今年だけだ。」


「ありがとう、レン。カケルはどうするの」


「では、条件が一つだけ。レンとそこでまったくしゃべらない空を会長の下ではなく僕の下に置かせてください。それでなら、副会長を視野に入れましょう。」


レンと空だけでもいないと僕が動けなくなるのもあるが、空にはここでハルさんの下にいるより、僕の下の方が良い。空は生徒会にいるが、本来はここにはいないはずだった。空は魔獣が苦手で、いまだに低級魔獣くらいしか倒せない。低級魔獣は、大概どこのゲームにでもいそうな弱い魔獣だ。例として、スライムなどがいる。そんな状態で普通に過ごしていたら、もし魔獣が防護壁内に侵入したら大変なことになるので、生徒会が空を特別に保護している。でも、ここにいるからって、特に何もされない。逆に言えば、魔獣嫌いを克服すらできないのだ。このままでは空自身に何かあっても、空は自分を守れないということになる。僕はいつも何もない限り暇だ。そんな僕にとっても空にとっても必要なことなのだ。余計なお世話かもしれないが、せめて自分のみぐらい自分で守れるようになってほしい。


「それは、レンと空を俺の監視下から外すということだな」


「はい、そういうことです。ないとは思いますが、生徒会長である晴さんが、レンや空に制限をかけた場合僕としても困ることがあるかもしれませんので。」


「いいだろう。今から体育館でこの魔獣騒ぎについて説明をするのだが、それをカケルたちに任せても構わないか。」


「はい。今の段階で分かっていることは全部説明します。」



【剣零高校 体育館】

この学校の体育館にはエアコンがついていない。だから、六月になればここは蒸し暑くなる。今の現状では電力は防護壁内の発電機分しかないので、エアコンなんていう贅沢なものは使えない。もしいろんなところで付けてしまったら、停電してしまうかもしれない。今は全部扇風機だ。


「では、まず初めに生徒会長よりお話があります。」


「生徒会長の晴です。皆さんご存知のように各地で魔獣の出現が確認されています。そのため、今まで空席になっていた副会長を決めることにいたしました。副会長は高校一年の駆くんです。なお、書記の空席も同学年の零くんに決まりました。では、駆くん、零くん挨拶を。」


「今朝いきなり言われたので今もまだ驚いていますが、副会長として役割を果たすつもりです。なお、この後魔獣の判明している情報について僕から話します。一年間よろしくお願いします。」


「まだこの学校には慣れてないが、魔獣にはもう慣れた。書記という役割でも生徒会で出来ることは何でもする。一年間精一杯頑張ります」


「では、これより副会長駆より魔獣について説明があります」


「魔獣とは、魔力を持った動物という意味です。今のところ確認されている魔獣は、狼、大型犬、猫のようなものですが、ほかにもまだいると考えています。この学校の周りに建設された防護壁は魔獣から身を守るためです。今日からの生活用品はすべて北東にある商店街で買うことができます。畑などの設備もありますので食料品は必ず購入できます。なお、防護壁内で使用する通貨はすべて皆さんの右手首に装着されている装置に入っています。学校側より毎月五万ほど支給されます。なお、それでも足りない場合は、友達同士で貸し借りはできませんので、注意してください。ただし、生徒会より許可が出た場合のみ、防護壁の外へ出ることが出来ます。その際の武器の携帯許可もすべて生徒会に一任されています。もし質問がある場合はこの後個別に受けます。ではこれで魔獣騒動の説明を終わらせていただきます」


はあ、緊張した。しすぎて言うこと半分くらい飛んでたような気がするんだけど、ずっとこのままじゃさすがにダメだな。


【生徒会室】

「会長、僕とレンに防護壁外への外出許可と、銃の携帯許可をお願いします。」


「あれ言ってなかったけ、生徒会は緊急時のため武器の所持は許可されてるんだ。ほらそこの武器金庫に入ってるよ。ただ、防護壁から出るのはさすがに許可できない。まさか、自分から外に出たいという人間がいるとは思っていなかったけど」


「もし、魔獣と戦って怪我でもしたら困るからですか。それなら大丈夫です。だってここには...」


「会長大変です!第五防護壁を魔獣が攻撃しています。」


「外出許可は出す必要なさそうだな。全員武器を持て。これから魔獣を殲滅する。」


「カケル、生徒会に指示を出すのは生徒会長だ。魔獣が来たからって興奮しすぎだ。」


「ハルさんすいません。魔獣と戦えるのがうれしくてつい。」


「君も珍しいな。死ぬかもしれないのに、魔獣と戦いたがるって。」


「も、というのはハルさんもですよね。では、剣をひとつ貸してください。さすがに僕は銃だけでは魔獣と戦うのには不利すぎです。それに、僕は銃よりも剣の方が専門なんで。」


「ああ、構わないが、今ここにはそれほど良い剣は無い。あくまで予備用のものしかないが、それでいいならそれをもっていってくれ。」


「ハルさん、これ、例のあのゲームの剣を模したやつですか。それならこの剣使い方がそれなりにわかるんで大丈夫です。」


「俺にもよく分からないんだが、魔獣が出現したと同時にこの学校の各所に様々な変化が出た。誰も何もしていないのにだ。その剣は、その変化で出現したものだ。もしかすると、駆が言ってる剣なのかもしれない。」



【第五防護壁】

うわ、魔獣がいるのは分かってたけど、これほどの数とは。こんなの生徒会だけで片付くんだろうか。今見えているだけで、百匹以上、もしかすると、どこからかまた来るかもしれない。とりあえず、今できることだけしよう。このまま、ほっておいても手が付けられなくなるかもしれないし。銃の使用不可な国家で銃を好きなように使えるとは。もちろん、人を撃つようなことはないけれど、一度銃を持てるようになったら、使いたくなる。


「ハルさんと、えっと誰だっけ。」


「空ですよ。さっきは覚えてたのにどうして忘れてるんですか。」


「あれ言ってなかったっけ、僕人の名前覚えるの苦手だから。今同じクラスのやつの名前で覚えてるの、レンと恋だけだし。」


これは本当のことだ。実際、どんなに頑張ってもレンと恋以外名前を思い出せない。それどころか、今年の一学期の記憶すらほとんどない。覚えてるのは、入学式くらいだ。それ以外、何をしたのか全く覚えていない。


「じゃあ、ハルさんと空はあっちのを。恋といっくんは、僕とレンを援護。あとの残りは空いてるところに行って。」


これだけ大群のくせにやはり大半は低級か中級の魔獣ばっかだ。空なら低級は大丈夫だろうし、何かあってもハルさんがいるから安心だ。空には少しでも魔獣に対する恐怖心をなくしてほしい。で、中級くらいなら、僕とレンの腕なら倒せるはずだ。戦ったことはないから、一応いっくんと恋には援護についてもらうことにした。


「レン、僕とどっちが多く倒せるが勝負だ。負けた方が勝った方のいうことを一つ聞く。僕が勝ったらちゃんとした剣を一本作る。これでどう?」


「勝負はする。だが、カケルのいうことは聞かないし、カケルには何も頼まない。」


えっ、なんか残念。負けず嫌いのレンなら勝負に乗ってくれると思ったのに、条件なしじゃないとしないってか。まあ、いいや。負けるはずがないけど、もし負けた時の場合のことを考えなくて済むし。


「じゃあ、地面に足がついた時から勝負開始ね。じゃあ行くよ」


よいしょっと。相変わらずこの防護壁高いな。一番外側だから多分三十メートルはあるだろう。今いる所でも十メートルくらいはあるだろう。まあ、このくらいなら全然怖くないし、どっちかというと魔獣と戦う方が怖いと思うけど。さて始めるとするか。全弾二百発、一体あたり二弾で行っても百体だけか。もし玉切れになったら最終あれを使うか。


一体、二体、三体。よく当たるな、やっぱレンにもらったこの銃が一番いいな。撃てば撃つだけ当たるし、その上ちゃんとダメージを与えてる。うわっ、こいつら毒針を飛ばしてくるのか。危ないな、もう少しで掠るところだった。ったく、面倒くさい魔獣だ。でもやっぱこういうのって楽しい。今まではただ単に生きてても、死ぬのは交通事故か病気くらいだった。そういうのは大概は防ごうとすれば防げる。でも、今は死ぬなら魔獣に襲われたっていう可能性が一番高い。今まで一度も目標なんて持たずに生きてきたけど、今ではきちんと目標がある。それは、魔獣の中でも一番強いやつと戦うことだ。そのためなら。こんなところでは負けてられない。やばっ、だんだん倒した魔獣の数が分からなくなってきた。倒しすぎて一つか二つずれてる気がする。それに、残弾があと五十数発しかない。倒してるのに数が全然減ってる気がしない。


「いっくん、魔獣は少しでも減ってるのか。ここからじゃ全然分かんないんだけど。」


「減ってはいるんだが、あまりに数が多すぎて分かりにくい。そっちもそろそろ玉切れじゃないのか。」


も、ってことはいっくんたちもか。


「レン!あれ貸してくれ、持ってきてるよな。」


「ああ、カケルお前は銃弾を無駄に使いすぎだ。俺はまだ百発くらい残ってる。でも魔獣は、とっくに二百体以上倒してるぞ。」


最初の残弾は僕と同じはずだ。それでも残弾がある上に二百体以上倒してるってことは、素手でも戦ってるのか。さすがレンだ。僕にはそんなことはできない。だから僕は...


「初期武装ロングソードで、魔獣を全部倒してやる。」


魔獣を倒して手に入れたお金でもっといい剣を買うんだ。これだけの魔獣がいれば十分貯まるだろう。そのためには、もっと速く、もっともっと速くこいつらを倒す。


「おいおい、なんかいつものカケルとなんか違うような気がするんだけど。気のせいかな」


「そりゃ、カケルはレンレンと勝負してるんだし、それに今はカケルの好きな魔獣と戦ってるんだからそうなるよ。恋がいろんな服が発表される秋をいつも楽しみにしてるのと同じ感じだよ」


ああ、そういうことか。でもあのままでカケルの体が大丈夫なんだろうか。普段から何かと無理をしてるのに、これじゃ精神的にっていうより、肉体的にダメージを受けそうだし。


「カケル、レン!もうすぐ魔獣の最後尾が見えてくるよ。」


こいつらで最後か。よし、これで終わりだ!


はあ、何とかこっちは終わった。えっと今日だけでもう三百体は倒してるようだ。


「カケルたちも終わったか。こっちも十分片付いたぞ」


「空は何体倒したの?まさかゼロとか言わないよね」


「ちゃんとハルさんの邪魔にならないように百体以上は倒した。低級魔獣なら一部を除いて倒せるから困らなかった。」


こう言われると本当に魔獣が嫌いなのだろうかとつい思ってしまう。でもまだ 倒したのは低級魔獣だけだし、嘘とは限らないな。


「そうだ、ハルさん。防護壁内に剣零医大ってありましたよね。そこに今日倒した魔獣に一部を運んで魔獣の生態を調べてもいいですか。」


「確か今日は医大は閉まってるはずだ。ここでいる分だけ採って、科捜研で調べてもらうことならできるんだが」


えっ、ここに科捜研もあったの。相変わらず、この学校はどうなってるんだ。防護壁があるとはいえ、いろんな施設が集まりすぎだろ。これでは要塞化した小さな街と言えなくはない。


「科捜研があるならそこの法医学の所だけ貸してもらえるようにすぐに生徒会長からお願いしておいてください。科捜研の施設なら一度使ったことがあるので、大体使い方は分かります。その間に僕は、魔獣からいろいろ採取しておきます」


―1時間後―


「カケル、喜べ。使用許可が出たぞ。はい、これ使用許可証。あと、調べ終わったら、その結果を生徒会に報告後、学校側にも報告しろということだ。」


「はい、わかりました」



【防護壁内第二区画 科捜研】


「それで、なんでいっくんやレンがここにいるわけ。ここに来たんなら、手伝ってもらうよ。いっくんは魔獣の毛からDNAの分析、レンは僕と血液からDANや生態を調べて。やり方は全部教えるから。」


「いや、その必要はない。昔誰かに教えてもらったことがある。」


「レンの知り合いに、科捜研か科警研で働いてる人がいたんだ。確かCERNやCIAにもいたはずだよな」


「えっ、レン。どういう生活してきたの。」


「分からない。覚えてない」



【剣零高校 校長室】

なんで、冬夏がいるんだろう。校長とかがいるならまだいいんだけど、なんで冬夏がいるんだ。別に何もしてないけれど、ちょっと、いやかなり不安だったのでレンに付いて来てもらった。何かとレンがいればいつも困らない。レンは異常なほどの天才児で、一応すでに旧帝大の修士課程は終えている。ただ博士課程は終えられるだけの学力はあるのだが、わざと修士課程で止めている。噂では、一緒に博士課程を終えたい人がいるだとか、大事な誰かを追い抜くのが怖いだとか、いろいろ言われいる。レンについてはよく分からないことが多々ある。


「冬夏さん、なぜあなたが今になって出てくるんですか。」


「魔獣の解剖終わったんでしょ。ほら、解剖報告書を。」


やっぱり、この人とは上手く馴染めないな。誰か何と言おうと、自分が決めたことにしか従わない人と付き合うのは難しい。


「こんなの見て何かわかるんですか。ただの常勤教職員なのに。」


「ほう、どの魔獣もこの世界の動物とはDNAの共通は無し、か。おお、これはこれは。また奇妙なものを見つけたな。それで、魔獣の名前はどうするんだ。まさかだが、新種の生命体を見つけたというのに、名前を考えていなかったとでも言わないだろうな」


「一応、名前はすべて漢字で命名することにしました。例えば最初のは『軟泥』で、次のが『毒鼠』という感じです。」


「では、私は用が済んだので帰ります。そうそう、本題は彼女から聞いてくれ。彼女には無礼の無いようにな」


隣の部屋と繋がっている扉から異国の民と思われる少年がいた。外見から推測するに僕らと同じくらいの年齢だろう。


「初めまして、カリストア帝国第二王子です。」


何だって、なんでこんなただの高校に王子が来るんだよ。大体国名も全く聞いたことないし、どこにあるんだよ。

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