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襲撃

ペースおっそ(反省)

 --一方その頃


 ソラは家を出て、リリィを探していた。


 いつもならソラが家を出ようとすると、リリィがズボンを咥えて止めようとしていたが、今日に限ってはリリィが急に家を飛び出してしまったのだ。


「リリィー!! どこにいるのー!?」


 普段とは違う行動をとったリリィの姿に、幼いながらも何か不穏なモノを感じながら、ソラはリリィを探す。


 リリィと過ごした時間は、まだほんの数日だったが、ソラにとってリリィは家族同然に大切な存在となっていた。


 ソラは半分泣きながらリリィを探し続ける。何故かは分からないが、もう自分の元に戻ってこないような不安に駆られてしまったからだ。


「あっ!!」


 ちゃんと前を見ず走っていたせいか、ソラは小石を踏んでバランスを崩してしまう。


「危ない!」


 ソラは危うく転びそうになったが、間一髪のところで抱き留められる。

 振り向いてみれば女性がソラを抱き、なんとも言えない表情をしていた。


「大丈夫?」

「あ、ありがとうございます」


 ソラが自分を助けてくれた女性を見て、凄く綺麗な人だなぁ。と思った。

 街では見たことのない、混じり気の無い金色の髪。

 そして意志の強そうな青い瞳。


 女性にしては大きな剣を腰に下げ、いわゆるプレートアーマーを装備した彼女の姿を見て、他所の街から来た冒険者なのかもしれない。とソラはそう考えていた。


「走るのはいいけど、ちゃんと前を見てね」

「うん、ごめんなさい」


 女性に忠告され、ソラは素直に謝った。


「あ、僕リリィを探さないと……お姉さん、どうもありがとう」

「待って」

「え?」


 リリィの捜索を再開しようとしたソラに待ったをかける女性。

 ソラはまさか止められるとは思っておらず、耳を疑ってしまった。


「いい? しばらくの間私から離れないで」

「えっと……でも」


 それでもリリィが心配だったソラは素直には頷けない。

 そもそも女性が自分を呼び止める理由が見当たらないからだ。


「大丈夫、リリィはきっと貴方のところに帰ってくる」

「お姉さん、リリィを知ってるの?」


 彼女はまるで確信があるかのように、ソラにそう告げた。


「ええ、だからソラ、貴方は私から離れないで。きっとリリィに会わせてあげるから」

「あれ? お姉さんなんで僕の名前を知って……」


 知ってるの? とソラが言い終わる前に、辺りに爆音が鳴り響いた。


「うわっ!!」


 余りの音の大きさにソラが驚き、耳を塞ぎ、目を瞑る。


 その間は数秒にも満たない間だったが、ソラが次に目を開いた時には、信じられない光景が広がっていた。


 --街が燃えている。


 そして数瞬の後、静かだった街は喧噪に包まれる。


 悲鳴、怒号。


 ソラには何が起こったのかが理解出来ないまま、目の前の赤は更に広がっていく。


 そして炎の中から、黒い群れが姿を現した。


「なに……あれ……」


 それは見たことのない異形だった。


 狼、猪、熊。ソラが認識出来たのは絵本で見たことのある動物の形をしたモノがそこにいたという事実のみ。


 そして一つしか目のない、人の形をした巨大な何か。


 それらは街を走り回り、住民達を襲っていく。


 大きな音がして、目を伏せてからまだ数分も経っていない。


 それなのに、異形に襲われた人々が次々と動かなくなり、地面には人だったモノの残骸と、赤い血だけが残されていた。


「見ちゃ駄目!!」


 ソラを助けてくれた女性がソラの目を塞ぐように抱きしめるが、もう遅かった。


 ソラはその目で人が死んでいく様を、食われている光景を見てしまった。


「大丈夫、貴方は私が守るから」

「ダメだよ……逃げなきゃ……」


 ソラはライラから聞いていた話を思い出す。


 街の外にはモンスターと呼ばれる異形がいることを。

 そしてモンスターは人を襲うことを。


「ふん、この程度で滅びるか。全く人間とは脆いものだ」


 急に聞こえてきた男の声にソラはビクッと身を竦めてしまう。

 その声には感情が感じられず、心底つまらなそうな声音だったから。


 そしてあまりにも無機質なその声を聞き、ソラはただ恐怖することしか出来なかった。


「とは言え、何か一つでも手土産がなければ……ん?」


 男は何かに気付いたようだった。


 ソラは今、女性に視界を塞がれており、声のした方を見ることは出来ない。

 だが、その男がこちらを一瞥したことが分かった。


「女と……子供か。ふむ……」


 男はこちらを見て何かを考えているようだった。


「どうやら姫様と同じくらい……玩具にはちょうど良いか」


 呟いた後、男はモンスターに命令する。


「よし、女は殺して構わん。だがその子供は生かして捕えろ」


 男が言い終えるのが早いか、女性はソラを離し、腰に下げた剣を抜き、モンスターと対峙した。

 視界が開けたソラが見たものは、たくさんのモンスターがこちらに向かって一斉に襲い掛かってくる光景だった。


「下がってて」


 彼女はそう言うが、ソラは襲い来る圧倒的な死の気配に一歩も動けなかった。


「リリィ……無事でいて……一緒にいられなくてごめんね」


 ソラから出た言葉はリリィの安否を気遣う言葉。そして謝罪だった。


「大丈夫」


 その言葉が聞こえたのか、女性はもう一度言い放つ。


「リリィは必ず、貴方の元に帰ってくる」

「え……?」


 女性の持つ剣が光を帯びていく。


「だからソラ。貴方は何があっても生き延びて、決して生きることを諦めないで」


 そう言い残し、女性はモンスターの群れに向かっていく。


 そしてソラは見た。


 女性が光る剣を一閃し、光の刃でモンスターを屠る光景を。

 まるで踊っているかのようにモンスターの攻撃を躱し、一つ目の巨人を切り刻む姿を。


(きれい……)


 それは客観的に見て惨殺。

 だがソラはその剣舞に目を、心を奪われていた。


 斬る、躱す、斬る、躱す。


 何十体もいたモンスターが、剣の一振り毎に動かなくなり、一体、また一体とモンスターの死体が増えていく。


 身を翻し、それでも一切後退することなく、女性は男の方へ斬り込んでいく。


「チィッ、本物か」


 男が苛立たしさを感じる舌打ちをした後、女性に向かっていく。


「いいだろう。なら俺が相手になってやる」

「ふっ!!」


 男の言葉など意に介さず、女性が男に斬りかかる。


 どこから取り出したのか、男は剣を手に持ち、女性の剣を受け止めた。


「ふん、貴様が何者かは知らんが、その程度で俺を倒そうなどと」

「くっ!!」


 受け止めた剣をそのまま力任せに振り払う。

 力負けしてしまった女性は思わず倒れ込んでしまう。


「人間が魔族に歯向かおうなどおこがましい」


 倒れた女性にトドメを刺そうと、自らを魔族と呼んだ男が剣を振るう。


 女性はかろうじて剣で防御するが、その剣が弾き飛ばされてしまった。


「この呪いなどなければ……貴様になんか……」


 そして剣を失った女性の身体が闇に包まれる。


「む……これは……?」


 魔族の男は興味深そうに女性を見る。

 ソラも尋常ではないその光景から目を逸らせずにいた。


 そして闇が消えた頃、女性の姿はそこにはなく……


「え……?」


 その場に横たわっていたのは白い子犬。


「リリィ……なの?」


 その姿はソラが探していたリリィの姿に間違いなかった。


「ふむ……獣人……いや、先ほど呪いと言っていたな。まあいい」


 そして魔族の男が剣を振り上げ。


「殺すか」

「だめええええええええええええ!!」


 リリィの姿を認めたソラが走り出し、リリィを抱きしめる。


「リリィを殺さないで!!」

「ガキが……邪魔をするなら貴様ごと……いや」


 魔族の男の口角が僅かに上がり、そして言い放った。


「良いだろう。その犬は助けてやる。だがガキ、貴様とその犬は連れて行く」


 そして魔族の男はソラを蹴り飛ばした。


「うぐっ!!」


 ソラはリリィを抱きしめたまま吹き飛び、意識を失ってしまう。


「ククク……せいぜい楽しませてくれよ」


 そう言ってソラを担ぎ上げ、魔族の男は街から飛び去って行った。




三人称ってなかなか難しい……

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