不穏
夜勤やらなんやらで時間が空いてしまいました。
なお明日も夜勤でござる。
ソラがリリィを拾ってから数日が経った。
ライラは街の広場にある掲示板にリリィの飼い主を探している貼り紙を掲示し、街の衛士を務める夫のマルロに飼い主と思われる人物から連絡があれば、自分に知らせてもらうように頼んでいた。
だがこの数日間、それらしき連絡は一切なく、本当に捨て犬だったのではないかと思い始めていた。
当のリリィはというと、毎日息子のソラの相手をしている。
最初は仲良く一緒に遊んでいるのだと思っていたが、よくよく見てみるいるとリリィがソラに合わせている様子が垣間見えた。
例えばソラが椅子の上に登ろうとしたり、壁に落書きをしようとしたりすると、リリィはソラの服を咥えて引っ張って止めようとする。
まるでその行為が危険だということや、ライラに叱られるであろうことを理解しているかのようだった。
とは言え、家の中ではソラの兄か姉かといったリリィだったが、ソラと外で遊ぶ時に限っては子供が一人増えたかのようなはしゃぎっぷりだった。
結局は犬だということなのだろう。
そして更に数日が経ち、リリィがすっかり家族の一員として馴染んだ頃だった。
ソラの6歳の誕生日を明日に迎え、ライラは注文していた食材を買うために街の中心部に出て来ていた。
ソラはリリィと家で留守番をさせている。
何か危険なことをしようとしてもリリィが止めるだろうと思ってのことだった。
リリィが家に来てから、まだそれほど長い月日は経っていないが、拾ってから今日までの二人を見ていれば少しの時間くらいは大丈夫だろうと考えていた。
とは言え、リリィもまだ見た目は子犬である。ライラは出来るだけ早く用を済ませて帰ろうと思っていた。
それにしても妙だな、とライラは思った。
今はまだ昼を過ぎたところなのに、街に活気が感じられない。
いつもであれば市場は賑わい、人通りももっと多かったはずなのに、と。
「おい! 急げ西の方だ!!」
何事かとライラは声のした方を振り向く。
そこには夫の同僚であるニコラの姿があった。何かあったのか、非常に険しい顔をしている。
「こんにちはニコラさん。あの……何かあったんでしょうか?」
「ライラさんじゃないか! 良かった。無事だったのか!!」
ニコラはライラの姿を見て安堵する。
だがライラは逆に、ニコラの態度を見て不安を覚えてしまう。
「ええ、無事ですけど……一体?」
「実は……すいません、ちょっとこっちへ」
ニコラが促すまま、ライラは大通りから少し離れた場所へと移動する。
「ここならいいでしょう。手短に話しますが、実はここから西の方に魔物を見たって奴がいたんです」
「魔物が!?」
ニコラの発言を聞いて、ライラは驚愕する。
魔物が出たというだけでも一大事だが、しかも西の方と言えば自分の家がある方角だ。
「いけない! 早く帰らないと!!」
「ライラさん! 待ってください!!」
ライラは走り出そうとしたところをニコラに制されてしまう。
「止めないでください!! 家にはまだソラが!!」
「分かってます! だから今部下を急いで向かわせています!!」
そうは言われてもライラは気が気ではない。
「すぐにマルロも来ます。危険ですからライラさんは私らの詰め所に行って避難していてください」
「でも……!!」
ライラも本当は頭の中では分かっていた。
自分が今からソラの元に駆け付けたとしても意味がないであろうことは。
それでもこれは理屈ではない。理屈で理解して収まるほど、ライラは薄情な母親ではなかった。
「どうしたニコラ、こんなところで」
「ああマルロ、ちょうどよかった」
ライラは声がした方を振り向く。
「あなた! ソラがまだ家に!!」
「ライラ!! 何故ここに!? いや、今はそんなことを聞いている場合じゃないな。ニコラ、ライラを頼む」
「ああ、気を付けてな。俺もライラさんを送ったらすぐに向かう。さあライラさん、こっちへ」
マルロと話が出来たことで幾分か落ち着きを取り戻したライラは、ニコラと共に衛士の詰め所に向かった。
マルロはライラが無事だったことに少しの安堵を覚え、同時に家にいるソラの元へ向かうべく走り出した。
(ソラ……無事でいてくれ……)
少しずつのペースで申し訳ありませんが、どうぞお付き合いください。