リリィとの出会い
明日は夜勤で更新出来ないため必死こいて書きました。
「おかーさん、早くこっちー」
「こーら、待ちなさいソラ。あんまり走ると転ぶわよ」
広い平原を子供が駆け回る。
その子供を女性が追いかけていく。
勇者リリアーナが魔王ゾディスを討伐したとされて既に三年が経った。
未だ各地で魔物による被害は報告されているが、少しずつ世の中は平和を取り戻しつつあった。
見渡す限り何もないこの平原にも、かつては魔物が溢れていた。
だが今は魔物の気配もなく、野原には花が咲き、動物も徐々に姿を見せるようになっていた。
「あ、おかーさん、お花が咲いてるよ!!」
ソラと呼ばれた子供が足元に咲いている花を指さし、母親を呼ぶ。
「これはユリの花ね。リリーとも言うのよ」
「へー、僕この花好き! とっても綺麗だもん!!」
緩やかな風に吹かれ、ユリの花はその花弁を揺らす。
その光景は紛れもなく平和そのものだった。
「お母さんもユリの花は大好きよ。ソラもお花さんに負けないように大きくならないとね」
「うん! 僕早く大きくなって父さんと一緒に街を守るんだ!!」
ソラの父は衛士として街を守っていた。
決して武芸に秀でた人物ではなかったが、その人柄から街の人からの信頼も厚い。
「そうね。きっと父さんも喜ぶわ」
「うん!!」
一際大きく返事をするソラを見て、母--ライラの表情にも笑顔が浮かんだ。
(どうかこの平和が長く続きますように)
一方で、魔王が生きていた暗い時代を思い出してそう願う。
「あれ?」
「どうしたの?」
ソラの声で我に返る。
どうやらソラが何かを見つけたようだ。
「おかーさん、この子……」
「あら、子犬……かしらね」
いつの間にそこにいたのか、ソラの足元には子犬がいた。
その子犬は、一言で言って真っ白だった。
「それにしても……本当に真っ白ね」
ライラも記憶を辿ってみるが、ここまで混じり気がなく、正に純白と呼べるほどの毛並みを持つ犬は見たことがなかった。
「どうしたのかな。迷子になっちゃったのかな」
「そうねえ……あら?」
ふとライラが子犬の首にかかったそれに気付く。
飼い犬に首輪をつけることは珍しくはないが、目の前の子犬が付けているそれはまるでネックレスのようだった。
「剣……の形かしら?」
「わー、かっこいー」
ソラははしゃいでいるが、これは首輪代わりに飼い主が付けた物なのだろうか。
だとしたら、この子犬は飼い犬ということになる。きっと今頃飼い主が探しているかもしれない。
「おかーさん、この子どうしよう?」
「うーん……飼い犬だとしたら、飼い主の人が探しているかもしれないわね……」
果たしてここに置いていくべきか、それとも保護して街で飼い主を探すべきなのか、ライラは決めかねていた。
「そうだよね……」
ソラとライラの話を聞いているのかいないのか。子犬はソラにすり寄ってくる。
「それにしても随分人懐っこい子ね」
「へへへ、かわいいなぁ。この子飼いたいなぁ……」
そう言ってソラがライラの方をチラリと見る。
--ほら来た。
と内心思いつつも、子犬がソラに懐いている姿を見て、ライラは考える。
恐らくこのまま置いていこうとしても、この子犬はソラについてくる可能性が高い。
そしてソラも子犬をここに放置していくことを良しとはしないだろう。
ライラは数秒ほど考えた後、この場は子犬を連れて帰らざるを得ないだろう。という結論に至った。
「しょうがないわね。そろそろ帰らないと日が暮れてしまうことだし、今日はこの子を家へ連れて帰りましょう」
「いいの!?」
どうやらソラには家に連れて帰る。という言葉がこの子犬を家で飼うという意味に聞こえたらしい。
「今日のところはね。だけどきっとこの子の飼い主も探しているでしょうし、家で預かって、飼い主が見つかったらすぐに返すこと。いいわね?」
「うん!! よろしくねリリィ!!」
ライラは早速子犬に名前を付けた我が子を見て苦笑する。
「もう名前を付けたの?」
「だってこの子、さっき見た花に色がそっくりなんだもん!!」
確かに、言われてみれば先ほどのユリの花によく似ている。
だけどユリは全部が真っ白ってわけじゃないんだけどね。と思いながらも、決して口には出さない。
自分のライラという名も、元々はライラックの花が咲き誇る季節に生まれたから、という理由だったことを思い出す。
そう考えると、やはり血は争えないな。とライラは思った。
「さあ、それじゃ暗くならないうちに帰りますよ」
「はーい!! 行こうリリィ!!」
ワン! と元気良くリリィが返事をする。
--夫が帰って来たら事情を説明して、飼い主を探して貰おう。街の広場にある掲示板に貼り紙を出してもいいかもしれない。
ライラはそんなことを考えていたが、元気良く駆けていくソラとリリィを見て、もう一度微笑んだ。
半分寝ながら書いていたので誤字脱字があったらごめんなさい……