プロローグ
更新ペースは最初は早めにするつもりですが、比較的ゆっくりとなりそうです。
「魔王、覚悟!!」
「小癪な!!」
剣と剣が交錯する度に甲高い金属音が辺りに響く。
魔法と魔法がぶつかる度に爆発音が辺りに轟く。
そこにいるのは聖と魔の極限。
何人も寄せ付けないその死闘は、既に何時間も続いている。
--勇者リリアーナ
リリアーナは14歳の誕生日に勇者としての神託を受け、王の命によって魔王討伐の旅に出た。
道中で今の仲間達と出会い、この2年間、共に旅をしてきた。
仲間達との旅路はそう長いものではなかったが、まだ幼さの残るリリアーナにとって、仲間達との旅はとても大事な思い出となっている。
だが、リリアーナは魔王ゾディスが待つ魔王城にたった一人でやってきた。
大切だからこそ、決して死なせたくなかった。
きっと仲間達はどうして一人で行ったのかと怒るだろう。
だけどきっと、魔王と倒せばそれもまた思い出に変わるはず。
逆に自分が負け、死んでしまうような事があれば、きっと皆は悲しむだろう。
もしかしたら仇討ちと称し、この強大な力を持つ魔王に戦いを挑んでしまうかもしれない。
いや、きっとそうなるだろう。
だからこそ、自分は負けるわけにはいかない。
リリアーナは残してきた仲間達のことを想い、再度気合いを入れ直す。
「ふん、このままではキリがないな」
ゾディスがそう呟き、手にした魔剣を鞘に戻す。
「どういうつもり?」
まさか諦めたのか、などとは露ほどにも思わない。
「言っただろう。このままではキリがない、と」
ゾディスの周りにマナが収束していく。
「まさか……!?」
「気付いたか。ならこれからオレがどうするかも想像がつくだろう?」
問われるまでもなく、リリアーナは気付いていた。
--アレは大規模な破壊魔法を使おうとしている。
「そんな魔法を使えば、貴方の配下達も無事ではすまないわよ!?」
「知ったことではないな。オレの望みは貴様の死。それが叶うのなら配下の命など幾らでも差し出そう」
狂っている。リリアーナは改めて目の前の男が悪であることを認識した。
「そんなことさせない」
「なら止めてみろ」
(とは言ったものの、どうすれば……)
リリアーナは必死で考える。あの魔法を打たせるわけにはいかない。
けれど魔法を打たせないためには、急いで魔王の命を絶つ必要がある。
相手は今無防備だ。恐らく魔法に必要なマナを集めるまでに、それなりの時間はあるだろう。
(だったら私もこの一撃に賭ける!!)
リリアーナは聖剣を握り直し、正眼の構えをとる。
(精霊よ。お願い、私に力を!!)
リリアーナは周囲からマナを集め、聖剣に流し込む。
(まだ……まだ足りない。もっと力を!!)
「どうした勇者よ。ついに観念したか」
リリアーナは答えない。
「……つまらんな。恐らく一撃でオレを殺そうとしているのだろうが……」
ゾディスの周囲からマナの気配が消えた。
「遅かったようだな。そのまま死ね」
「くっ」
リリアーナは焦燥する。
十分にマナは集めたはずだが、それでもまだ足りない気がするのだ。
(いちかばちか……間に合って!!)
リリアーナは一抹の不安を抱えつつも、聖剣を振りかぶり、叫んだ。
「聖剣よ!!」
リリアーナの叫びを機に、聖剣が強く輝いた。
「来るか、良いだろう。オレと貴様、どちらが勝つか試してみようではないか」
ゾディスが歓喜の表情でリリアーナを凝視する。
「魔王、覚悟!!」
「ははははは!! そのセリフは先ほどにも聞いたな!!」
ゾディスが笑いながら、膨大な魔力を魔法に変え、放とうとする。
リリアーナが魔法を打たせまいと、魔王の元に駆け出した。
「消えるがいい!! <ヘルフレイム>」
「させない!! <ホーリーパニッシャー>!!」
ゾディスの身体から炎が立ち昇る。
そしてその炎は、仇敵を見つけたかのように、リリアーナへと襲い掛かった。
ゴォッ!! と炎が風を切り、焼き尽くしながらリリアーナへと向かう。
それでもリリアーナはそれを避けようともせず、自ら炎の中に飛び込んでいく。
「ハハハハハハッ!! 自ら焼かれることを望んだか!!」
ゾディスは心底おかしいかのように、リリアーナを嘲笑する。
「その炎は闇の炎、ただの炎とは違い、全てを焼き尽くすまで消えはせんぞ!!」
ゾディスの言葉通り、ヘルフレイムの勢いは止まるを知らず、リリアーナを、全てを焼き尽くそうと広がっていく。
「……けない」
「む?」
「私は、負けない!!」
「なにっ!?」
ヘルフレイムの中からリリアーナが飛び出す。
身体は未だ炎に焼かれたままだが、手にした聖剣の輝きは失われぬまま。
「ああああああああああああ!!」
「くっ!! 往生際の悪い」
ゾディスが魔剣に手をかけ、リリアーナの一撃を防ごうとする。
かろうじてゾディスの防御が間に合い、魔剣で聖剣を受け止めた。
「残念だったな。これを防いでしまえば、もう貴様に力は残っていまい」
「まだまだああああああああああああ!!」
リリアーナは更に手に力を籠め、聖剣を強く握りしめる。
「無駄なあがきを……なっ!?」
--ピシッ
ゾディスの手にした魔剣が音を立てた。
魔剣と聖剣の拮抗は数秒も持たず、ゾディスの魔剣が砕け散った。
「……まさかオレの力を上回るとは」
リリアーナは魔剣を砕いた勢いをそのまま、ゾディスの身体に斬りかかる。
「ぐふっ!!」
聖剣がゾディスの身体を通過してから数瞬の後、ゾディスの身体から鮮血が迸った。
そして全ての力を使い果たしたリリアーナは、そのままゾディスの身体を駆け抜け、そして倒れこんでしまう。
「ふん、捨て身の攻撃か」
「私は、負けない……負けられない……」
リリアーナは立ち上がろうとするが、上手く力が入らず立ち上がることが出来ないでいる。
「良いだろう。この場は貴様の勝ちだ」
ゾディスは聞いているのか、聞いていないのか分からないリリアーナに自らの敗北を宣言した。
「だがオレは死なぬ。覚えておくがいい。この傷が癒え、復活した暁こそ人族の終わりだ」
ゾディスはリリアーナに向けて手をかざす。
「そして勇者よ。貴様の存在は危険過ぎる。今のオレには貴様を殺すことは出来ないことが口惜しいが、せめてこれくらいはさせて貰うぞ」
ゾディスの手から、呪詛のようなモノが放たれる。
そしてそれはリリアーナの身体を覆い尽くしていく。
「これ……は? 私に何を……」
「わざわざ教えると思うか。せいぜい苦しむがいい」
そう言い残してゾディスは消えた。
一人取り残されたリリアーナは、ゾディスが消えたことの安堵感により、そのまま気を失ってしまった。
--そして数日後
「リリアーナ!!」
体格の良い男を先頭に、数人の男女が魔王の間に飛び込んだ。
だがそこには誰もおらず、ただ焼け焦げた壁や、砕け散った調度品など、死闘の痕跡のみが残っていたのだった。