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第10話

 五日経って僕らはようやく次の目的地であった街、ウルマリンへと到着した。



 ウルマリンは別名を『水の行き交う街』と呼称されている街である。場所を海の傍に面していて、海に流れこむ川が街の真ん中を通っており、河口付近を小さな船が行き来している様は旅人の間でも綺麗だと噂されている。街から海へと出る帆船も多く停留しており、様々な街の交易で以て栄えているところだ。



 街の入り口で簡単な手続きをしてから僕らは街へと足を踏み入れる。潮風が気持ちよく、鼻が海の潮でひり付く。どうにも期待感が高まる街だ。


「話には聞いていたが……。実際に来るのは始めてだ」

「そうなんですか?」

「ああ。噂されている川を行き来している沢山の小舟というのを早く見てみたいな。舟側も見られる事を意識してか派手な装飾を施したものも多いらしい。楽しみだな」

「はあ。私にはちょっと分からない感覚ですね」

 クレアは腕を組んで、うーんと唸る。



「分からない? 何が?」

「綺麗なモノを見て素直に綺麗と言えるような感覚が、ですよ」

「はあ? それこそ僕には理解出来ないな。心にぐっとくる風景や景色は綺麗というより他無いじゃないか」

「違いますよ。綺麗なモノを見て素直に感動するという事が私には無いんです。それよりも人の薄汚い黒い部分だとか肉の切り裂かれた、血が噴き出す寸前のあのピンク色の美しさとか、そう言ったものの方が私は綺麗だと感嘆しますね」

「その感覚が分からねぇよ」

 ついでに言えば理解したくも無いけどな、そんなもん。


 サイコな思考形態にはてんで理解の無い僕である。

 僕らは、と言うか僕のたっての希望によりまずは街を走っている川の河口部分を見に行こうと街を歩き出す。……こいつでも偶には僕の希望を聞き入れてくれるんだな。ちょっとびっくり。



 だが。歩いている内にこの街の違和感に僕は気付いた。


「……おかしくないか?」

「おかしいですねぇ」

 さすがに同じ考えに至ったらしいクレアも僕の意見に同意する。


 ――――街を歩く人影が極端に少ないのだ。



 無人では無いものの、これだけの街の規模でありながら、この往来の少なさは奇妙というより他に無い。更に言えば歩く人々も何処か余所余所しく、その顔は浮かない。


 これが交易で栄えているウルマリンの街なのか? 静か過ぎて波の音が耳に大きく響きわたる。……噂に聞いていた街の様子とは随分違っている。


「…………あ」

 疑問と格闘しながら街を歩いている内にどうやら河口へと辿り着いたらしく。僕は目線を上げて声を漏らす。


 その声は決して感嘆めいた響きなどでは無く、渇いた音だっただろう。

 何故なら河口にはただの一つでさえ小舟が行き来していない、実に静かで寂しい風景だったのだから。



「……これは何やらきな臭い匂いがしますね」

 クレアが冷静に呟いた。僕もそれに頷く。


「ふふふ……これはもしかすれば金を稼ぐチャンスかも知れませんね。ついでに言えば陰気な人々の様子も伺える。これは私好みの展開ですね」

「お前の好みはホント、ろくなもんじゃないな……」

 僕は肩を竦めて溜息を吐く。同行者の欲は黒々しい光沢を放っている。そろそろドス黒い輝きで人々の心を惑わしそうなレベルだ。



 そんな事を考えていると、街の路地から小さな影が一人現れた。その小さな影はフードを被っていて、その表情は確認出来ない。


「あの、もし……」

 その不審な格好に僕は訝しがっていると、人影は話かけてきた。声と体格から察するにどうやら声変わりのしていない少年か、それとも小さな少女か、どちらかであるらしい。



「……何ですか?」

「失礼な質問を承知で申し上げます。お二人様はそのぅ……旅の方ですか?」

「ええ、まあ……」

「では魔物との戦闘の経験もお有りですよね?」

「はい、一応」

 経験はある。結果はスライム相手にフルボッコにされた経験を持っているというちょっとばかし人には言えない経験だけど。


「ならばお強いですよね?」

 その質問に答えようとすると、クレアが身を乗り出してきて僕の口を塞いだ。



「ええ。この男は虫よりも弱いですけれど、私は中々だと自負していますよ。それで? 私達に何か用事でもあるのでしょうか?」

「ええと、はい。実はお強い旅人であるお二人様にたっての願いがあるのです。……少しばかりお話を聞いてはくれませんか?」

 そこで人影は被っていたフードを取って顔を見せた。



 フードの中身は薄い茶色の短い髪に幼さが残っているあどけない少女だった。少女は上目遣いでこちらを見つめて、そして頭を下げた。


「はい。よろしいですよ。お話というのを聞かせて貰いましょうか」

 クレアは実に人当りの良さそうな笑顔を浮かべる。……一体何を考えてんだか。



 眼前にいるクレアの心中を知ってか知らずか茶髪の少女は顔を上げて実に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。僕はそれを見て心が痛む。




 この少女が泣くような展開にならないよう、塞がれた口のまま僕は祈るばかりであった。

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