モノローグ
新連載です!
ただ、書き溜め済みなのでガンガン更新の予定なので、宜しければ更新をお待ち戴ければ幸いです。
良ければブクマなどお願いします!
その昔――――僕は『勇者』という存在に憧れていた。
ただ、そうは言っても十にも満たない糞ガキの頃の話だ。そういう頃ってのはそういう分かり易いものに惹かれ易い。煌びやかに輝いていて、持て囃されていて、人々の象徴たる英雄的存在にこそ自分を同化して、あるいは思索に耽って、それっぽいごっこ遊びなんかに興じてみたりなんかして、自分の欲を満たし続けるのだ。
僕はと言うと台所から無断で持ち出した鍋の蓋を盾代わりにして木の棒やら握りしめ、木なんかに吊るした鉄製の的相手に、少し欲張ると同じく勇者に憧れを抱いた近所の悪ガキを相手にチャンバラごっこに興じて、そして結果はお袋に尻を叩かれたりしていた。
誰にでもある些細な夢。妄想。痛々しいけれど、何処か微笑ましいそんな時期。
しかし誰もが突然気付く――――自分が抱いていたのは空想でしか無い事を。
こんな時、天井を引き合いに出される事が多い。自分が成長していくに連れ、身長が高くなり、そして天井がぐっと近くに感じる。天井ってのは自分の限界値。自分を見つめ直して限界地点が実は直ぐ傍にある事に気付かされるのだ。
まあ全くその通りで。限界地点に気付かされた後は夢なんて馬鹿げた妄想をするのは止めて、現実を受け止めて、自分の傍にある限界に合わせて、自分の矜持ってのを探し出す。
それが一番幸せなのだ――――――見つけるのが困難なくらい小さなものだけど。
僕はと言えば案外、それに気付くのが早かった。
多分、それが僕の人生に置いて最も幸運な事だっただろう。
自分が本気を出せば何でも出来る――――――それはお袋が僕を喜ばす為に、又は甘やかす為に言い聞かせていたでたらめなんだ。世の中ってのは往々にして残酷だ。夢を砕くには自分の無力さを痛感するのが一番良い。
世界が自分の物では無いと気付くのが、実のところ本人にとっては一番幸せなのだ。
だって夢を抱き続けるのは辛い事だから。
夢を知らない、夢を持っていない人間は時折、肩を竦めてこう言うのだ。
やりたい事がある人間が羨ましい、とか何とか。
そんな残酷な事を平気で口にする。してしまう。
多分、そんな事を言う奴は夢ってのが実のところ、自身を食い破っていく魔物である事を知らないのだ。夢という魔物は腸の辺りに巣食っていて、現実を突きつける度に腸から這い出て、肋骨を引っ掻き、喉元に噛みつき、そして口から出て鳴く。
――――慟哭を口にするのだ。
それで魔物に食い破られる奴はまだ良い。それで夢――即ち悪夢が終わるのだから。下手に頑強な輩などはそれでも負けずに、懲りずに這い蹲ってでも夢へと進む。
夢という魔物に侵され続ける。
嘗ての僕は弱かった。
幸運にも――――弱かった。
自分が無力であると、力の無い人間であると気付き。そんな隙を狙って、悪夢は僕を喰らった。喰い散らかされ、その残骸から残ったのが夢破れた僕と言う人間だ。
誰かは言うだろう――――つまらない、と。
しかし僕は反論するだろう――――つまらなくて何が悪い、と。
つまらなくても、平凡でも、劇的で無くても。
それが幸せであるならそれで良い。
蒼い鳥は近くにいて、遠くを目指す必要など無いのだから。
僕はそれを知って、夢を捨て去って、憧れなど無意味と理解して育って。
それで十六になった頃。
僕は――――――『村人A』となった。