92.忘られぬ過去
夢を見ていた。幼い頃の夢を。
目の前で泣く子供の頃のゆき。それを俺は無表情で見ていた。やがてゆきが俺に気づくと途端に表情を明るくし、飛びついてくる。
こんな光景は記憶にない、なのにどこか懐かしい光景だったーー
「お? 起きたでござるか?」
目を覚ますとフォウルが俺の顔を覗き込んでいた。男だというのに無駄に綺麗な顔が夢の中のゆきと一瞬重なって見える。
「ああ……」
無理やり上半身を起こすと全身に激痛が走る。昔ならもうこれで立ち上がろうなんて思わなかっただろうがもう痛みには慣れた。
起き上がって周囲を見渡すとどうやらここはテントの中のようで、金槌などの鍛治道具やポキューズさんの打ったものであろう剣や槍などが乱雑に散らばっていた。しかしどこを見てもポキューズさんの姿はない。
「ポキューズさんは?」
「用事があるとかでどこかへ行ったでござるよ。すぐ帰るって言ってたでござるからもう少ししたら帰ってくると思うでござるよ。」
「そうか……それにしてもポキューズさん強すぎだろ! なんだあの人!」
「本人が言うにはAランク冒険者だそうでござるよ。」
「それでか! そりゃ強いわけだわ……勝てる気が全くしなかった」
「何を言うでござるか、ショウタ殿の勝ちだったじゃないでござるか。」
「あんなもん勝ちって言えるか」
木剣じゃなければ何度も斬られていた。武器を奪えたのだって木剣だったおかげだしそれに……
「あの人多分手ェ抜いてやがった。俺に戦い方を教えてくれてただけってことだろうな……」
ほんと……この世界のおっさんどもはどうしてこうも荒々しいコミュニケーションをとるのかね。めちゃくちゃためにはなったけどこんなことしてたらそのうち死ぬわ。
「そうだったでござるか……うーん……」
「何? どうしたよフォウル?」
俺の言葉を聞いてフォウルは何かを考えるかのように顎に手を置いた。
「ショウタ殿……今これからとはいわないでござるがこれから旅を続ける途中拙者と手合わせしてくれないでござるか?」
「あー……うん、そういうことな……」
フォウルの言いたいことはよくわかる。基礎を鍛えるのも大切だが実戦で得られる経験もかなり大きい。その相手がフォウルともあればなおさらだ。
「魔王を倒すなんて大それた目標を達成するには今のままではとてもじゃないでござるが足りないと思うのでござるよ。それこそポキューズ殿を越えるくらい強くなってもまだ。」
「だから俺たちも互いに強くなり合うことが大切だと……わかった。こちらこそ頼む。」
「さて、それじゃそろそろ行こうぜ。」
「ん? ポキューズ殿を待たないのでござるか?」
「うん。正直俺は一刻も早くゆきを助けたい。無駄な時間を食いたくねぇんだ。」
今この瞬間もゆきが苦しい思いをしてるかと思うと胸が締め付けられるように痛む。ゆきの痛みは俺の痛みだ。
「ゆき……ショウタ殿の想い人はゆき殿と言うでござるか。」
「ああ、そういや言ってなかったっけ?」
「前にも聞いたような気はするでござるが……それにしても……ふふっ」
「何いきなり笑ってんだよ気持ち悪い」
「いや、前までは自分のことなんてろくに教えてくれなかったのに最近色々教えてくれるようになったなぁと。信用されてる気がしてうれしいのでござるよ。」
……まあ確かに。この間あったばかりなのに俺はもう親友と言って差し支えないほどにフォウルに心を開いている。正直ゆき以外のクラスメイトとならフォウルを選ぶだろう。それくらいこいつはもう俺の中にいるんだ。
「ああ……信用してる。お前バカだし、裏表とかなさそうだしな。」
「ばっ……バカじゃないでござるよ! 拙者よりショウタ殿の方がバカでござるよ!」
「なんでだよ! お前のが天然……」
「ショウタ殿、ポキューズ殿への支払い忘れてるでござろう?」
……あっ。
1/8日訂正
ゆきのことをフォウルが初めて聞いたという描写を入れましたが翔太は以前ゴブリンキングとの戦いで説明していましたためセリフを少し弄りました。




