88.本物と偽物
「大丈夫かって……こっちのセリフやわ。その怪我……君は一体何者なんや……」
「あー……その辺はまあ色々あってね?
まあ新田さんが無事ならそれでいいや。」
「わしが無事ならって……それより自分の心配を……」
「そんなことより、さっきの話の続きをしようぜ」
心配し、翔太の元へ駆け寄る新田を、その目を見るだけで静止させる。
そこで空気を察したのか、新田の顔が再び険しいものへと変化する。
「さっきの話かいな……たしかにわしはなりたいよ。正義のヒーローに。それでもわしはなられへん。君を見て、そう思ったわ。君には敵わん。」
それは新田にとって初めて出た本音だった。翔太を見て、憧れた。しかし自分があそこまでできるとは思わない。翔太こそが、自分の憧れたヒーローの完成形なのだ。
「……なれないってなんだよ。」
「そのままの意味や。わしがどうあがいても君以上のヒーローになれる気はしやん。わしが君みたいになれるわけがない。」
「バカやなぁわしも……普通の人やったら小さい頃にそんなこと気づくやろうに……30超えてまだヒーローになりたいなんて気持ちがあったとは……厨二病かっちゅうの」
自嘲するように新田は自虐する。それがどうも翔太には気に入らなかった。
「……小さい頃に気づくってのは、諦めを覚えるって事だ。人が分相応に自分を理解して諦める。諦めを覚えてしまう。」
「そうや。よくわかって……」
「でもそれじゃ何者にもなれない。
月並みなことを言わせてもらうけどさ、夢を叶えた奴ってのは諦めなかった奴だけなんだよ。」
新田が言い切るより先に翔太が被せるように言い放つ。
「『なれないから諦める』じゃなくてさ、『なりたいから諦めない』んだよ。なりたいなら諦めるな。なりたい の反対は なれない じゃない。」
「それはっ……翔太君のなりたいが本物やから……」
「いいや違うね、俺のこの気持ちは紛い物だ。別に俺はヒーローになんて心算はないし誰も彼もを助けようなんて気持ちもない。ただの一般人だ。それでも今だけは、中身のない俺が正義のヒーローの真似事をした。志も信念もない偽物が、だ。」
ボロボロの体で、しかししっかりした歩みを止めず新田の元まで歩み寄る。
そして手の届く距離まで近寄ると新田の胸に拳を当てた。
「だったら本物のあんたは俺なんかよりももっとすごいヒーローにならなきゃならねぇだろ。本物のあんたが、偽物の俺より劣ってちゃならねぇ。本物の正義が、偽物の正義に負けるなんて、そんなことは絶対に許さない。もう今のあんたは なりたい じゃなくて ならなくちゃいけない だ。」
「逃げるなよヒーロー。ここまでお膳立てさせて、逃げられると思うな。」
その言葉を聞くと、新田の悩みは吹き飛んだ。……自分はヒーローにならなくちゃいけない。それは自分をヒーローにする呪いの言葉であると同時になることを認めてくれる祝福の言葉でもあった。
「は……ははは……わしが君を超えるヒーローにか……確かに、人を救いたい気持ちのないヒーローなんか偽物やわな……」
「はっ、そこまで言うならせいぜい偽物じゃ成し遂げられないようなことを成し遂げてくれよ? 本物」
「君こそ……君のやりたいことは知らんけど、わしにそこまで言うなら自分のやらなきゃならないことを果たして本物になりや、偽物」
二人は手を取り誓い合う。一人は全てを救うヒーローとなるために。もう一人は大切なものを救えるヒーローとなるために。
今回短いです




