84.クズの終着点
ニッタさんが去った後も子供達は嬉しそうにご飯を食べていた。いや、ドイル君は少し寂しそうだったけど。
「ごちそうさま! 俺ももういいや。ありがとね。本当に美味しかった。」
「えー! にーちゃんももう食べねーのかよ!
もっと食ってけよー! にーちゃんのおかげでこんなに飯が食えるんだぜー? ほら、このステーキとか、自信作なんだぜ?」
「……非常にありがたい誘いだけどごめんなー。ちょっと用事を思い出しちまって。またすぐ来るから。」
「しょうたおにいちゃん帰るのー!?」
「やだー! もっといてー!」
「それでまたあのぐるぐる回るやつやってー!」
「ははっ、帰ってきたらまたやってやるよ。ただ今度は一人一回だからな、それ以上は無理だ!」
「わかったー」
「まってるー」
「早く帰ってきてねー」
「おう! 用事を済ませたらパパッと帰って来るよ」
「本当に大したおもてなしもできなくて申し訳ありません……子供達の大恩人だというのに子供達の面倒まで見てもらったみたいで……」
「何言ってるんだよ。十分もてなしてもらったさ。こんな美味い料理も食わせてもらって、俺はもう満足だよ。」
「でもそれだけじゃ……他に私にできることがあればなんでも……」
「あー……じゃあ一つだけ。」
「はい! このエリス、どんな頼みでも聞き入れてみせます」
両手で握りこぶしを作りふんす! と気合い満々だ。いや……そんな大したことじゃないんだけどね。
「その敬語、なしで頼むわ。エリスちゃんもまだ子供なんだから。気ぃ使わなくてもいいんだぜ?」
そこまで言ってリリアにも敬語で話させていたことを思い出した。あいつにも次会えたら敬語じゃなく話してくれるよう頼んでみようかな……
「……!? そんな……いえ。
わかりました……いや、わかった。ショウタお兄ちゃん。気をつけて行ってらっしゃい。」
「おう! 行ってきます!」
翔太は別れの挨拶を終えて、孤児院を出る。外には電灯も車もなく、澄んだ空気の中、瞬く星々の光でぼんやりと明るく照らされている。綺麗な星だ。
「……あんたらがこの教会を強請ってたっちゅう冒険者か。」
夜の静寂に、ニッタの静かな声が響いた。いつものようなおどけたような話し方ではなく、落ち着いた話し方だ。
翔太が声のする方にそろりと近づいてみると、大きな男と、小太りのずんぐりとした男の二人の冒険者と思われる男達と言い争っているようだった。
「強請ってたとは人聞きの悪い……ちょっと金もらってただけだろ?」
「さすがビリクさん! 悪人だなぁっ。」
「おいおい、お前も同じことやってたじゃねーか!」
「おっと、こりゃ一本取られたっすね。」
小さい方の男がおどけるようにそう言うと、二人は大声で笑いだす。何がおかしいのか、男二人の不快な声が広く教会に響いた。
「というわけだからさー。さっさと金払ってくんね? おっさんもまだ死にたくねえだろ?」
ヘラヘラと笑いながら男はニッタにナイフを突きつける。ロクに研がれてもいないナイフでところどころ錆びてはいるが、人を殺すには十分だろう。……が、そのナイフは誰も殺すことはなかった。
「…………へ?」
男がニッタにナイフを突きつけたと思うと、次の瞬間には男のナイフはその手に握られたままくるくると宙を舞っていた。それから一瞬後に男の腕があった場所から大量の血が滲み出てくる。それを見たニッタ以外は、反応できずに硬直した。
「腕……え? おれ……おれ、の腕が……」
「お前らが犯人やったってわかればもうええわ。死ねや」
崩れるように地面に膝をつき、落ちた自身の腕を拾おうとしていた男の首をニッタは何のためらいもなく切り落とした。いつのまにかその手には何の変哲も無い……しかしどこか他とは違う禍々しさを感じさせる短剣が握られている。
その短剣を振るい、大きい方の男の首が地面に落ちると同時に、硬直していた小さい方の男は腰を抜かして地面に尻餅をつく。
「ひぃっ……や……やめっ……?」
「やめろ? ようそんなこと言えたな。
お前らがうちの子供らにしたこと、わかってんのか? 金がないばっかりに子供達が乞食みたいな真似して、ユーリさんが頭抱えて、エリスちゃんが大切なものを手放してんぞ。それやのにお前はそんな腹ブクブク太って……ぶち殺すぞ!」
そこまで言ってニッタさんがまた剣を振りかぶった。先ほどまでとは違い、恐怖心を煽るためにゆっくりとした動作で男に向けている。
「待ってくれニッタさん! やりすぎだろ!」
「……ショウタくんか。おるのはわかってたけどそう動くのは予想外やったな。」
ニッタさんの剣を剣で受け止める。受け止めた後もニッタさんはじりじりと力を加え、俺ごと後ろの男を切ろうとする。
「ショウタくん。退いてや。せやなかったら君ごと斬り殺すことになってまう。」
「嫌です! これはどう見てもやりすぎです
こいつから金を限界まで毟り取るとか、それでいいじゃないですか!」
「あかん。そんなん、絶対にあかん。
こいつは殺す。限界まで恐怖を、痛みを、苦痛を、絶望を、地獄を見せて殺す。さっきの男はすぐ殺してもうたけど今度は死んだ方がマシってくらい痛めつけて殺すんや。」
さらにニッタさんの剣に込める力が強くなる。鉄でできている剣が少しずく切れ、中ほどまで切り込みが入っていく。
「そんなことしてもっ……エリスちゃん達は喜ばないでしょ!」
「せやろな。これはワシの個人的な復讐や。ユーリさんを苦しめたこいつを絶対に許されへん。子供達を泣かせたこいつを絶対に生かしておきたくない。全部わしの都合や。こいつには死と苦しみで償わせる。」
「そんな……死ぬことだけが償いじゃないでしょう!? 生きて償わせる道だってあるはずだ!」
「何を甘いこと言うてんねん……君だってこの世界に来て、誰一人……何一つ殺さんかったわけやないやろ? 今更ええ子ぶるのはもうやめーや。」
そこまで聴くと脳裏にこの世界で殺した存在がよぎる。ラビッツにゴブリンにあの魔人。タドムだって俺が殺したようなもんだ。
「この世界にまともな法なんかない。だからわしはわしの法でこいつを裁く……わかったらどけぇっ! ショウタァ!!!」
ニッタさんの怒鳴り声とともに、俺の剣は真っ二つに叩き切られた。
視点チェンジが難しいです




