83.温かいご飯
行間の正解がわからない……
「……はぁ、……はぁ。」
やりきった……子供達が満足するまで何度も振り回した。多分3周どころか4周5周はした……はずだ。ぬくもりハウスの子供達でも遠慮して2周目は頼んで来ないというのに……この子らには遠慮という概念がないのか……
「おつかれさん。それにしても案外ショウタ君体力あれへんのな。」
「開口一番嫌味とか……」
「いやちゃうちゃう。単純に筋肉量と比べて体力あれへんなと思て。」
……そうだろうか? 確かに俺は体力がない。持久走とか大嫌いだし。なにが悲しくて3000メートルも走らなきゃならんのじゃ。……いや、今はそれくらい余裕だけどね。確かに筋力に比べれば体力の伸び幅はあまり良くない気はする。ステータスがなくなったからなんとなくでしかわからんけど。こういう時ステータス消したのが悔やまれるな。今のところステータスなくなった恩恵とか全くないけど。
「……まあ多少体力がないのは自覚してるよ。持久戦とか、長期戦には向いてないんだろうな。」
向いてないだけで、やらないとは言わない。俺の戦い方は千日手のような気の長くなる戦い方なのだから。まああれは死んだら体力も戻るから大して疲れないのだが。不死身マジチート。
「それが多少と言えるもんか……走り込みしたらどうや? そしたら体力つくんとちゃう?」
「もうやってる。毎日10km」
3000メートルでへばっていた頃とは比べ物にならない距離だ。最近慣れてきたからもうすこし距離を伸ばそうかなと考えてる。
「あ……そうなん……じゃあ筋力トレーニングとかは? 腕立て伏せとか、そういうやつ。」
「それも毎日やってる。腕立て腹筋背筋スクワット各200回3セット」
最近この辺の筋トレもようやく慣れてきた。始めの方は吐きそうになってたけど。
「えぇ……じゃあ素振りは……」
「……毎日5時間全力で。」
「なんでそんな体力ないねん!
ありえへんやろ!」
俺の話を聞いてニッタさんが詰め寄りながら叫ぶ。言われてみれば俺もなんでこんなに体力ないのかわからなくなってきた…
「いや流石にな、そんだけ訓練してたら体力つくわ! ってかどこにそんな時間あるねん!」
「いや……付かないんだからしかないだろ。
時間はまあ……寝る時間削ればこのくらいは、自由時間があればもう少し訓練に使ってる。」
向こうの世界にいた頃は8時間くらい毎日寝てた気がするけど最近は4時間くらいで大丈夫になった。疲れてるせいか入眠までもめちゃくちゃ早いし。
「いやぁ……それでもやろ。冒険者やったら魔法の訓練の時間も要るやろうしえらい大変なんちゃうの?」
「いや、俺は魔法の訓練はしたことないな。ってか魔法の訓練とかあるのな……どんな感じなわけ?」
「魔法の訓練しやんのかいな……やっぱり一番メジャーなんは使える魔法をより低魔力で使えるようにする訓練やな。あの勇者ガイラスは複合上位魔法を通常の半分くらいの消費魔力で撃てるらしいで。」
「ニッタさんは?」
「ワシは普通や。普通って言うても地属性の初級くらいしか使われへんけどな。そりゃあワシも昔は英雄とかに憧れて訓練したけど全然伸びんくてなぁ……まあ言うてもうたら才能があれへんかったっちゅうことや。」
「才能がないねぇ……」
「せやせや。この世界は才能があるやつとないやつに別れとるねん。ワシみたいなないやつは分相応に生きていくしかあれへん。そんで才能があるやつが……お、ちょうど帰ってきあったな。」
そう言ってニッタさんは教会の玄関へ向かって歩いていく。
「え? 帰ってきたって何が?」
「エリスちゃんやエリスちゃん。あとドイルくんもやな。」
「じゃなくて、なんでニッタさんがそんなことわかるんだ? 監視カメラでもつけてるわけ?」
それを聞くとニッタさんは驚いたような顔をする。そこから一拍置いたのちに吹き出した。
「ちゃうちゃう。ワシはちょっと他人より五感が鋭いんや。なんで帰ってきたってわかったかって言うとエリスちゃんとドイルくんの足音が聞こえたってだけ。」
「なにそれすっげぇ! それどんくらい遠くの音聞こえるんだ?」
「わかってくれるか! そうやねん誰に言うてもこのすごさわかってもらえんくて……。まあそれでも人よりちょっと良いってくらいやからな。聞こえるのは……せいぜい壁二つ隔てた先くらいまでやな。せやけどここから教会の敷地に入ってきたらわかるで。聴覚だけじゃ無理やけど。」
「は? どういうこと?」
「それはな……ってエリスちゃんやエリスちゃん! まずそっちの手伝いしたらな! あの子かなり重いもん持ってるで!」
そこまで言うとニッタさんは玄関口へと走っていった。
「ちょっと待って! それどうやってんの!?
ねぇ!」
「それでは、ほらみんな手ぇ合わせて。……合わせたか? 合わせたな? いただきます!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
その号令の後に、子供達は食卓に並んだ料理に飛びつく。肉料理に野菜料理など大量に並べられているが、子供達はやっぱり肉が好きなのだろう、肉料理の方が早く減っていく。
並べられた料理を一口食べてみると、素朴で、ありふれたような料理だが、どこか懐かしいような温かみがある。うん、美味い。
「どうですかショウタさん、美味しいですか?」
「うん。美味しい。料理上手いな。エリスちゃんは。」
こっちの世界に来て驚いたのだが料理なんかは結構向こうの世界にあるのと同じのもある。もちろん材料の違いこそあれ料理としてはとても似ている。トンカツとか、唐揚げとかもある。だから王宮にいた頃はそこまで食事に苦労はしなかった。
「えへへ……ありがとうございます! ……って、私だけで作った料理じゃないんですけどね。子供達にも少し手伝ってもらいました。」
「おー! おれも手伝ったぞー!」
「うん、ありがとうね。ドイル。助かったわ」
意外……というかドイル君も手伝ったっぽい。口の中に色々詰めたまま喋ってる彼の姿からは料理ができるなんて想像もできない。どう見ても食べ専だろ……お前。
「ほう! ドイル君も手伝ったんかいな!
ドイル君はどれ作ってくれたんや?」
「おれはねー、これとー、あとこれー」
ドイル君がいくつかの料理を指差す。指差した料理の総数は10近くあり……ってか俺がさっき食った料理も指差してね? え? 嘘でしょ?
「にーちゃんがさっき食ってたりょーりもおれが作ったんだぜー! 美味いだろー」
「……ほんとにこれドイル君が作ったの?」
その料理は見た目も、付け合わせも綺麗に盛り付けられているハンバーグのような料理だ。まあソースが違うだけで料理としてはハンバーグとほとんど同じだ。そのソースもハンバーグと合うようになっており、とても美味しい。
「あーっ! にーちゃん信じてねーな!?
ほんとにおれが作ったんだぞ!」
「本当なんです。ショウタさん。ドイルは料理がとても上手で……料理だけじゃなく洗濯、掃除なんかもどれも私より上手なんですよ。」
そう言ってエリスちゃんはふふっと笑う。
口の端にソース付いてるよ。
「掃除洗濯もとか……その年ですげーな。全部俺できねぇよ。」
洗濯は洗濯機だったし掃除はルン○、料理に至ってはまともにしてなかったからな。……つくづく終わってる一人暮らしだな。完全に独身男の生活じゃん。
「ほぇー、ドイル君すごいなぁ。どれも美味しいで!」
「だろ! 今おっちゃんが食ったの俺の自信作だぜ!」
「ほんまか! 嬉しいなぁ……ありがとーー」
そこまで言って、ニッタさんの顔が一瞬凍りついた。
「……ごめんな、ワシちょっと食べ過ぎちゃったわ。ごちそうさま。外散歩してくる。」
「えー……もっと食ってくれよー」
「ごめんなー。ほんまもうワシお腹いっぱいや! ありがとう。めっちゃ美味しかったわ!」
そう言ってニッタさんは食卓から去っていった。
ぬくもりハウス……神城ゆきが現代日本で暮らしていた孤児院。番外編.エイプリルフールで登場。




