78.ニタニタ笑う男
「し……ショウタ殿……」
「もう、迷わねぇ。」
「……?」
「俺はもう迷わねぇよ。フォウル。迷ってる暇なんてねぇんだよ。タドムの思いも、タドムの人生も、全部背負って生きていく」
堂々とした立ち姿の翔太が真剣な目をして言い放つ。日本にいた頃は恥ずかしくて言えなかったようなことを言い切れたのはこの世界に来て与えられた影響だろう。
「……拙者の思いは背負ってくれないでござるか?」
「生きてる奴の思いまで背負ってられるか、自分で背負え。」
「なら拙者の思いをショウタ殿に背負ってもらうことはないでござるな。」
「ああ……違いないな」
フォウルの言葉に翔太は薄っすらと笑みを浮かべ答える。その顔は昨日までの面持ちとはまるで異なり、憑き物が落ちたかのようだった。
「それでショウタ殿、その爪はどうするでござるか?」
「これな……これって剣に打ち直したりとかできねぇもんかな?」
「できるとは聞いたことがあるでござるが……そんな技術を持つ職人がいるかどうか……」
「だよなぁ……かといって」
「なぁ君、その爪是非俺にくれんかな?」
ニタニタと笑みを貼り付けたような男が迫って来ていた。ってか爪を引き抜いた時からずっといた。迷わないとか言ってた時もずっといた。
「こいつにやるのもな……」
「こいつって何やのん。ワシにはニッタっていうちゃんとした名前があるんやからね、ニッタさんって呼んでくれてええで」
ニッタと名乗った大阪弁の男は、見た目30代ほどのおっさんだった。おっさんといってもあのおっさんみたいにかっこいいおっさんではなく、髪も服装もだらしない感じだ。酒瓶とかすげぇ似合いそう
「ニッタさんは何でこの爪を欲しがってるでござるか?」
「そら金やな。その爪って魔人族の爪やろ? それもドラゴンの。それやったら武器にしたら龍の鱗を貫き、インテリアにしたら周囲の憧れの的や。そんなもん買いたいってやつはいくらでもおるやろ……こんだけでどや?」
そういってニッタさんは指を三本立てて見せて来た。
「金貨3枚くらい?」
「アホ抜かせ! 白金貨30枚や。それで買うてもまだ利益出るわ!」
「ふーん30枚……って白金貨ぁ!?」
白金貨30枚ってことは金貨にすると3000枚で……3000万円!? 坂本の爪ごときが!? 嘘だろ!?
「『はくきんか』ってなんでござるか?」
「白金貨っちゅーのは金貨の100倍の価値ある奴やな。つまり白金貨1枚で金貨100枚っちゅーことや。あ、もちろん金貨3000枚でも構わんで」
「き……ききき金貨3000枚でござるか!?」
「どや? だいぶええ話やろ?」
「確かにいい話だけど……ごめんなさい。
俺にはこれが必要なんだ。」
そういって頭を下げる。正直白金貨30枚は惜しいけど、すっごく惜しいけど仕方ない。
「なっ……じゃあ50枚……いや、60枚出すで! それでどや!?」
「ろろろろろくじゅうまい!? 60枚でござるよ翔太殿!?」
「……ごめんなさい。無理です。」
どれだけ言われようとこればっかりは仕方ない。魔物と戦える武器が作れるなら、それは金に換えられない価値がある。
「ぐぬぬ……しゃーないのう。あーあ、惜しいのう」
「大体ニッタさんにそんな大金あるのかよ。」
「あたりまえやがな! 今手持ちは……金貨16枚ってとこやな」
「全然足りねぇじゃねぇか!」
白金貨一枚すら足りねぇ!
「今はあれへんくてもワシは期日までにはどないな手つこてでも用意するで!」
「いや無理だろ……」
金貨1〜2枚ならともかく白金貨60枚は無理すぎる。
「それで兄ちゃんその爪武器にする言うてたな。それやったらワシええ職人知ってんで。」
「おっ、マジで?」
「その紹介料と言ったらなんやけど、もし武器作るのに一本でも爪余ったら売ってくれんかな……このとーりや!」
そう言って手を前にして、拝むようにニッタさんは頭を下げる。
「余ったならいいんじゃないでござるか? ショウタ殿。」
「まあ……余ったらな。」
「ほんまか! さすがや兄ちゃん話がわかる……よっ! 国王様!」
国王様って……大統領みたいな感じか?
「そうと決まったら善は急げや、さっさ行くで〜。今ちょうどええ鍛治師がこの街に来てんねん。」
「そういえばニッタさんは何やってる人なの?」
「ワシは商人やっとる者や! せやけど最近赤字が続いとっての……兄ちゃんがその爪売ってくれれば大金持ちでウッハウハや!」
「余った分だけだからな。」
「嫌やなぁ兄ちゃん、わかっとるよ。でももし十本全部売ってくれたら……」
「売らねぇっつうの」
「いけずやなぁ……」
いけずとか初めて聞いたわ。ってかそれ大阪弁なわけ?
「それよりもニッタ殿はなんか……変わった話し方をするでござるな。」
お前が言うか。
「殿て! 君の方がよっぽど変な話し方やないか!」
「そんなことないでござるよ! この話し方かっこいいでござろう?」
「いーや変やわ! なんやござるて。そんなん言う奴初めて見たわ! 自分おもろいな!」
「ニッタ殿の方が変でござるよ! ショウタ殿もそう思うでござろう!?」
「ぶっちゃけお前のが変だわ」
「ほら見てみぃ!」
「そんなっ!?」
大阪弁は確かに珍しいけどクラスメイトにそんな話し方のやつがいたような気がする……確か名前は……青海だったか? 大阪から転校してきてクラスメイトにも好かれるいい奴だった気がする。まあこっちに来たら漏れ無く無視して来たけど。
「それにしてもあれやなぁ、ショウタ君そこまで太い腕してるわけちゃうのになんであの爪抜けたん? 不思議やわぁ……ちょっと触ってええ?」
「ああ、別にいいよ」
そう言って軽く腕を曲げ、力を込める。
「おおきに……ってうわぁ、ガッチガチやないの。ほっそい腕やのに筋肉質やねぇ。」
「そうかな?」
そこまで褒められるほどの筋肉じゃなかった気がするけど……
「って何これすげぇ!?」
自分の腕をちょっと触ってみると思っていた以上にガッチガチだった。岩かって思うほどだ。
「えっ、ちょ……なんで? 俺の腕こんなに固くなかったはずなんだけど……」
「そうでござるか? ショウタ殿ほど鍛えていればこの位になるのは当然のことだと思うでござるよ。」
「そうは言ったって坂本と戦った時だってこんな筋肉はなかったぞ?」
腕だけじゃなく腹筋も、足の筋肉も固くなってる。なにこれレベルアップ?
「……ひょっとしてニコ殿の薬のおかげじゃないでござろうか? ズタズタに裂かれた筋肉が以前より強くなって回復したとか……」
「超回復ってやつか?」
「よくわからないでござるが多分それでござる。」
「何何? なんかお金儲けの匂いするわぁ……」
「なんでもないでござるよ!」
「なんや怪しいなぁ……まあええわ。ともかく着いたで。ここが言うてたええ職人かおるところや。」
そう言ってニッタさんがテントを指差す。テントは質素なものだ。
「あの有名なポキューズ工房の名職人! ポキューズ・フラムベルのテントや!」
……は?
80話




