8.レベル上げ
「えっ、ちょっと待って聞いてないんだけど。遠征?」
「うん、遠征。3日前にガイラスさんが教えてくれたんだけど……」
「うん、俺まずガイラスさん知らねぇわ
俺は呼ばれてないんだけど行った方がいいのかな?」
「クラスメイト全員でって言ってたし伝え忘れただけじゃないかな? 翔太が思ってるほど皆翔太のこと嫌ってないはずだよ! きっと皆余裕がないだけだよ!」
ああ……笑顔が眩しい……
なんてピュアな子なんだ。でも多分嫌われてるとは思います。ゆきと付き合うと決めた時点で嫌われる覚悟はしてたし。
「それに……私も翔太と一緒がいいし!」
……ハッ! ゆきがかわいすぎて意識飛んでた! 俺と一緒がいいだなんて照れるな〜
でも嬉しいな〜
「そ、それなら俺も行こうかな。何時から?」
「今からだよ。今から」
「え……マジで?」
「マジで。嫌?」
「行きます!」
「そっか〜よかった……集合場所は訓練室だよ。じゃあまた後でね〜」
卑怯だよちくしょう……
あんなかわいい上目遣いで言われたら断れるわけねぇだろ。
ゆきは嬉しそうな顔をして自分の部屋へと帰っていく。俺もさっさと準備しないとな。
部屋に戻り準備を済ませる。
といっても汗をかいた服を着替えるくらいだけど。……一応木剣も持っていくか。
始めてのレベル上げというものに少し期待をしながら、ゆきに教えられた集合場所へと向かう。
「よーし、お前ら集まったか!
お前らなら心配いらんと思うが今日は実戦だ!気を抜くんじゃないぞ!
もしかしたら俺なんかいらないかもしれないな! ハッハッハッ」
ゆきに教えられた待ち合わせ場所にいくとダンディ系イケメンが他のクラスメイト達に警告をしていた。え?なんでここにいるの?
「でも皆ちゃんと気を引き締めろよ、危険であることには違いないからな。」
うん、あれおっさんだわ
まさかおっさんがガイラスさんだとは……思いっきり知ってる人じゃねぇか。
予想外すぎるだろ。何やってんすかおっさん。いつもの無愛想な態度はどうしたんだよ。
そしてクラスメイト達は「何で来たの?」みたいな目で俺を見ている
あ、これあかんやつや。呼ばれてもない誕生日パーティに勝手に出席したみたいな空気になってる。
チクショウやめておけばよかった!
しかしゆきだけは俺が来たのをみて、笑顔でこちらに手を振ってくれた。あ、坂本も気づいたみたいだな。お前らだけだよ俺のこと歓迎してくれてるのは……
集合の時間になったらしく、ガイラ……おっさんでいいや、おっさんが点呼をしている。おっさんは順々に点呼をしていき、やがて俺の前に立つと
「お……おまえなんで……」
「初めましてガイラスさん。
俺は異世界人の大宮翔太と言います
今日はよろしくお願いします」
そう言うとおっさんがすっげぇ驚いた顔をしていて面白かった。やば、笑いが止まんねぇ。あ、おっさんに睨まれた。ごめんて
それから遠征は何事もなく進んでいった。
クラスメイト達は鋭い牙の生えたうさぎみたいな魔物を狩ってレベルを上げている。やっぱり女子はやりにくいようで思うように攻撃できていない。ってか皆の魔法見たけどすごいな……手から火出したり空から雷落としたりしてる。
少し前まで普通の高校生だったのに今では立派な魔法使いって感じだ。
まさか30待たずにこんなに魔法使いが生まれるとは。
少ししたら皆も慣れたようでうさぎにバンバン魔法を撃ちまくってる。バレーボール程もある大きさの火の玉、不可視の風の刃による斬撃、轟音と共に落ちる雷、局地的に発生するブリザードなど本当に多種多様だ。
まあ俺は何もできないから後方で待機だけど。本当何しに来たんだ俺は。
ゆきは坂本と一緒にレベルを上げている。本当は一緒にいようと言われたのだがおっさんが俺に話があると無理やりゆきと引き離されたのだ。おのれ許すまじおっさん
「お前が異世界人って……まぁ確かに外見はそんな感じだけどよ……」
ブレザーは着ていないものの、日本人特有の童顔系の顔立ちに黒髪。これはいないというわけではないがとても珍しい。この世界の人は大柄な体格で金髪がメジャーだ。
「聞かれなかったから言わなかっただけだって。ってかろくに俺と話してくれなかったじゃんか」
「そりゃそうだけどよ……なんか腑に落ちねぇ……聞かなくてもそれくらい教えてくれよ。俺は勇者教育係なんだから」
「俺だっておっさんが勇者教育係だとは知らなかったしな。それこそ教えてくれよ。それに俺は勇者じゃないし」
「ああ……そういえばそうだっけか。
すまん」
「別にいいよ。大して気にしてないし。
それよりもおっさん、点呼の前の『いい上司ガイラスさん』の演技は面白かったぞ。持ちネタ?」
「うっせぇよ! 俺もやりたかねぇよあんなこと!
でも国王様とかがよぉ!」
やっぱおっさんはおもしろいな
からかわれ体質というか。なんというか
内面の人の良さが滲み出てる。
「それで……よ……」
急におっさんが真剣な顔になる
何んだろう。告白かな? 俺にはゆきがいるから無理だよ? いなくても無理だけど。
「その……お前が俺に剣を教えろって言ってきたのはやっぱり……魔法が使えないからか?」
おっさんが聞きにくいことを聞くかのように俺に尋ねてくる。何だと思えばそんなことか。
「いや、違うよ。俺はただ暇だったから剣を教えてもらおうと思っただけ。やることないからな」
「本当に……それだけか?」
「ああ、それだけだよ
別に強くなりたいとかそんな気持ちはない」
「そうか……ならいい……
呼び出して悪かったな。もういいぞ」
そう言いおっさんはレベル上げをしている奴らのところは戻って行く。
去り際、おっさんがどこか悲しげな目をしていたのを俺は見逃さなかった。
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