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77.タドムとヤドム

「……ショウタ殿、大丈夫でござるか?」



 街外れの廃屋へと入ると、ベッドに転がったままの翔太殿が目に入る。応急処置だけは済ませてあるものの、回復はしていない。あいも変わらず両肩には穴が空き、足は砕けてあらぬ方向に曲がっている。このままでは体を動かすことは不可能だろう。



「……」


「食料、買ってきたでござるよ。いっぱい食べて、早くその傷治すでござるよ。」


「……俺のやってきたことって、」



 こちらに見向きもせず翔太殿が話す。掠れたような声だが、一言一言が心に響いた。



「俺のやってきたことって、全部無駄だったのかな。努力はしてきた。この世界に来てから誰よりも努力はした。それでも……それでも仲間(ベルナール)に守られて、仲間(タドム)を死なせて、挙句仲間(フォウル)の足を引っぱってる。結局さ……」


(努力)じゃ、お前(才能)に届かないんじゃないのか。どんなに足掻いても……全部無駄だったんじゃねえかって……」



 翔太殿は涙を噛み殺して自身の考えを吐露する。普段の姿からは考えられぬほど弱気で、過去のゴブリンキング戦よりも絶望的に感じているのだろう。……でも、



「とう!」


「んぐっ!?」



 そこから先は、拙者が聞いてはいけない。翔太殿の口に無理やりニコ殿の丸薬をねじ込む。



「な……なにを……ふぐぉっ!!」



 翔太殿の喉奥まで無理やり丸薬をねじ込む。両手が使えない翔太殿に抵抗することはできず、そのまま吸収されてゆく。すると翔太殿の体がドクンと跳ね上がり、みるみるうちに体が再生してゆく。ちぎれ掛けた腕も、新たな肉が発生し、繋がってゆく。おそらくこれが翔太殿の言っていた死からの生還なのだろう。ニコ殿の丸薬の副作用を無視している。



「よし! 回復したでござるな!

じゃあ行くでござるよ」


「え……ちょ、待っ……」



 怪我の治った翔太殿を無理やり起き上がらせ、連れて走る。向かう場所は……







 フォウルに手を引かれ、慣れていない足で必死についてゆく。フォウルに連れていかれている方角……そんなはずはないと、そこへ向かっていて欲しくないと思いつつも、走るに連れてその願望は裏切られる。



「おおっ、これが昨日の魔人の爪か!

これを抜いて売れば俺様大金持ちよ!」



 昨日俺が磔にされた場所を通り過ぎ、さらに走る。するとすぐにフォウルの目指す場所にたどり着いた。そこには小さな石を重ねただけの簡素な墓と、1人の男が佇んでいる。そして男は俺たちに気がついたようで、こちらに向き直って話しかける。



「……ショウタか」



 そこはタドムの墓だった。






 タドムの墓はタドムが燃やされた場所に建てられることになった。骨すら残さず燃やし尽くされた為、墓に入れるものがなかったのだ。

 そしてその場所で俺に声をかけてきたのはタドムの兄、ヤドムだった。



「ヤ……ヤドム」


「どうしたんだショウタ。お前なんでここにいるんだ。」



 ヤドムは枯れ果てたような声で俺に問いかける。その声に普段のうるささはなかった。



「お前……こんなところで何をしてるんだ。魔王討伐隊はどうした。今日出発だったはずだろう。」


「それは……」


「タドムのことならお前のせいじゃない。あいつは自分を守り通した。命を……魂を失おうと失えないもののために最後まで戦い抜いたんだ。」


「……だから気にするなってのか?」



 そんなことは妄想だ。タドムの本心はタドム本人にしかわからない。いくらヤドムがタドムの双子で生まれた時から知っていようと、全てがわかるわけではない。



「それがお前の足枷になるならタドムのことは忘れろ。あいつはお前の足枷になるために命をかけたわけじゃない。」


「そんなの……簡単に割り切れるかよ!

タドムが死んだんだぞ! 悲しくねぇのかよ!」


「……悲しくないわけがないだろぉぉぉがぁぁぁ!!!」


「……っ!?」


「20年! 俺とあいつは一緒に生きてきた! どんな汚い手だって使った! 卑怯だと言われようが生きていくことに必死だった! ……生きていくためならなんだってした!」


「でも……それでもタドムはいつも言ってたんだよ! 『自分の目的だけは遂げる』って! あいつはそう言ってたよ!」


「それなら……俺には何も言えるわけないだろ……あいつは自分のために死んだんだから……」


「その……タドムの目的ってのはなんだ……?」


「……魔族との共存。」


「……っは?」



 あまりに素っ頓狂な答えに変な声が出る。しかしヤドムはそんな俺を気にすることもなく続けた。



「あいつは魔族にだっていい奴はいるはずだ、話が通じるなら、分かり合えないわけがないっていつも言ってたよ。魔族はレベルが上がるほど知能が高くなり人間に近づく、ならば人間も魔族も、そう変わらないはずだって。手を取り合って生きていけるはずだって言ってたよ。」


「でも……魔族は敵だろ! 現にあいつらはこの街を……」


「それは人間だって同じだ。人間にだって人殺しをする奴はいるし、街を襲う奴だっている。」


「だからあいつは魔王と交渉するつもりだったらしい。人と魔族との共存を目指して。」


「……なら何で俺のために死んだんだよ。

その目的の為ならなおさら死ぬわけにはいかないはずだろ」


「あいつは……お前がサカモトと話をしたいと言った時どこか嬉しそうだった。自分以外にも魔族と話し合いをする奴がいたのかと、こいつとなら自分の夢が果たせるかもと思っていたんだろうな。」


「あいつはお前に託したんだよ。自分の夢を。だから…………頼む」



 そこまで言うとヤドムは地面に手をつき頭を下げた。不恰好ながらも、なぜか俺はその姿から目を離すことができなかった。



「……俺は魔族を殺したぞ。」


「それはヤドムだって同じだ。分かり合えない魔族も人も殺していた。」


「……俺にも俺の目的がある。魔王も殺すことになるかもしれない。」


「……頼む。」


「…………」



 頭を下げるヤドムに背を向け、歩を進める。そして地面に座り込んでいる冒険者の横にかがみこんで、地面に刺さった爪に指をかける。力を込めると爪はゆるゆると抜け、冒険者達から感嘆の声が上がる



「しょ……ショウタ殿……」


「行くぞ、フォウル。」


 

タドムって書くと予測変換でハァハァって出てくるんですけど。何やのハァハァって。シリアスなシーンで笑いそうになるやろ

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