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72.憐憫

お待たせしました

「はは……やれんじゃん、俺。」



 誰もいない草原で、仰向けに俺は一人呟く。隣に寝ているのはリザードマンの死体だ。



「……何やってんだろ、俺」



 多くの血を流して物理的に頭が冷える。、

 ……乗せられたなぁ……。何をはしゃいでんだ、俺。こんなのゆきを助けるのに関係ねぇのに……張り切ってリザードマン退治に乗り出した自分が急に滑稽に思えてくる。

 俺は強くなりたいんじゃない、ゆきを助けたいだけだ。



「……帰ろ」



 一時間くらい倒れていただろうか、リザードマンと戦い始めた時は真上にあった太陽が沈み、空が赤みを帯び出した。いつまでも寝ているわけにはいかない。俺は重い体を起こし、そばに転がっていた剣を持ち上げ帰り支度に取り掛かる。



「剣と盾……あとは牙を持って帰るんだったか」



 ボロボロだが使えそうな剣と盾、それに加えリザードマンは討伐達成の証拠に牙を切って持って帰らなければならないらしい。魔物の牙を切れるのかとも思ったが死んだら魔族の体に巡っていた魔力も抜けて行くらしい。個体にもよるが、リザードマン程度なら30分ほどで刃が通るようになるそうだ。ちなみにこの方法でリザードマンの鱗を剥いでスケイルメイルとして鎧とすることもできるらしい。魔力が抜けても軽くて可動範囲が制限されない上、リザードマンを倒したという冒険者としての箔がつくため、冒険者でも自分で倒したリザードマンからスケイルメイルを作る人は多い。……俺はかさばるから持って帰らないが。



「……翔太」



 リザードマンの装備を剥いでいるところで街の反対方向から坂本が現れる。ほとんど傷はないが、所々に激戦の跡のようなものが感じ取れた。



「おお、坂本。お疲れ。

どうだった? ゴブリンは殲滅できたのか?」


「ああ、それは問題ないけど……

それよりもだ」



 坂本は真剣な顔をして話しかけてくる。……もしかして戦闘見られてた……のか?



「翔太、もう辞めろよ。

ゆきちゃんは俺やベルナールさん達が助けに行く。だからもう……戦うのをやめてくれよ……」



 坂本は悲痛な表情で俺に語りかける。



「……なんで?」


「……お前には戦いは無理だよ……

俺は……お前に死んでほしくない。」



 坂本は相変わらず悲しそうな顔で話す。

 ラビッツの時と同じで、本気で心配してくれているのだろう。でも……



「死なねーよ。俺はゆきを助けて一緒に生きるんだ。そのためには俺も死ねねぇしゆきも殺させねえ。」



 それはダメなんだ。 他の誰でもない、俺が、ゆきを救わなければならない。



「どうして……どうしてそこまでするんだよ……

お前はゆきちゃんしか知らないから……だからゆきちゃんばっかりに目がいってるんだよ……他に可愛い子だって……」



 そこで坂本の言葉が途切れる。言葉を続けようとした坂本の喉が翔太によって襟ごと締め上げられているからだ。


「お前……喧嘩売ってんのか?

それともバカにしてんのか?」


「ちがっ……純粋にお前のためを思って……」


「だったら放っておいてくれよ。

俺にはゆき以外見えない。見る気もない。

あいつじゃなきゃダメなんだ。他の奴でもいいなんて絶対にありえない。」



 そこまで言い切ると翔太は坂本の襟首を離す。すると坂本は腰から剣を抜き、翔太に向ける。



「……俺を敵に回してでもか?」



 刀身を激しい炎が包み込む。以前にフォウルがやったような不完全なものではなく、坂本の手を焼かないようにコントロールされた魔法だ。



「……それでも俺は進まなきゃなんねえんだよ……」



 坂本の宣戦布告に反応するように翔太も剣を構える。上半身に剣を構える青眼の構えを取る坂本とは対照的に翔太は下半身を守る脇構えの構えをとる。



「なら……もう言葉はいらない。」


「ああ……」



 二人の間に冷たい空気が流れる。じりじりと二人の間の距離が詰まって行き、やがて剣を伸ばせば相手に当たるほどの近さで睨み合う。



「「ぶった斬ってやる!」」

青眼……剣道における最もメジャーな構え。両手で喉の位置に剣先を構える。上半身をガードするには最も適していると言える。


脇構え……剣を腰の位置まで下げ、剣先を地面に向ける。自分の体の線の延長線上に剣を構えるため相手からは剣が見えない。下半身をガードしやすいため、地の構えとも言われる。なお剣道で使ったらブチギレられる模様。

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