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71.非才の道

もうすぐ6月が終わる

 魔王、グラムド・ブラン。その拳は大地を砕き、その魔力は大気をも震わせたという。

 彼の持つ技は百を超え、彼の知る魔法は万を超える。女神の寵愛を受けた勇者、ガイラスが幾度もの死を重ねても殺すことが叶わず、封印されることとなった。しかし自力で封印を解いた魔王はどういうわけか以前よりさらに強い力を身につけ王国軍の前に立ちはだかった。


 ……正直ベルナールさんから聞かされた話は冗談だろうと思った。……思いたかった。



「魔王をもう一度封印するってのは……」


「もう無理だね。封印魔法を使った当時の仲間は魔王が復活した瞬間に殺された。もはやあいつを止めるには殺すほかない。」



 くそ、徹底してやがる。そりゃ自分を封印した術者を生かしておくはずはないが復活した瞬間とは……



「……あいつが復活してからまだ一ヶ月ほどしか経ってないけどそろそろ本格的に動き出すだろうね。そうしたら世界は終わる。ガイラスが力を失った今、魔王を倒す術はない。だったら僕たちみたいな古い世代じゃなく、君達のような新しい世代に期待するしかないんだ。」


「ベルナールさん……」


僕たち(勇者)を越えてゆけ、ショウタくん。君達ならできる。」



 そう言ったベルナールさんの表情はどこか寂しげに見えた。……おそらくこの人たちの強さは完成してしまっているのだろう。強さも魔王に知れてしまっている。ならば彼らは主戦力たり得ないのだ。

 (翔太)おっさん(ガイラス)を、坂本はベルナールさんを、フォウルはライアットさんを超えなければ、勝てないということなんだろう。



「まあまだ越えられてやる気はないけどね。とりあえず君はリザードマン討伐だ。

冒険者から奪った剣を使い、魔法も使ってくる万能モンスターだ。やれるかい?」



 そうイタズラげにベルナールさんが俺に向かって依頼書を差し出す。そんなの決まってる。



「……そこまで聞かされてやらないわけにはいかないでしょ。やりますよ。」



 ベルナールさんの手から依頼書を受け取る。

 元々今日クエストを受けるつもりだったし難易度以外は何の問題もない。問題は……ないよね?



「よし! じゃあ行ってこい!」




「グェェェェ!!」



 町外れの草原、そこには何らかの作物が植えられている畑があり、四方を柵で仕切られていた。しかしその柵は目の前の生物によって破壊され、畑が荒らされている。


 目の前で叫んでいるのはゴブリンに似た緑色の皮膚の生物だ。決定的に違うのは全身にびっしり生えた鱗だ。生半可な攻撃など通りそうにない。

 人間とは遠いその手には手入れのされていない粗末な鉄剣とボロボロの丸型の鉄の盾を器用に構えていた。



「はっ!」



 手始めにリザードマンの頭に向けて剣を振り抜く。

 リザードマンは盾でガードを試みるもそれは間に合わず鈍い音とともにヒットした。



「……かってぇ……」



 しかしリザードマンに大したダメージは与えられなかった。魔族特有の皮膚だけではなく、その硬い鱗が俺の攻撃を受け止めている。リザードマンは顔に当たった剣に構うことなく反撃してきた。

 リザードマンによる反撃の一閃は何の抵抗もなく袈裟懸けに俺の体を引き裂いた。





「やあ、よく来たね。」



 見慣れた真っ白な空間、その中心にいた存在が語りかける。



「まさか魔王と関係のないところで死ぬとはね……まあ構わないんだけどさ。」


「……これしかないんだよ。

才能の差を埋めるために使える俺の手札は。」



 知っていただろうに、俺の言葉を聞くとこの世界の中心()が口の端を歪める。狂気を孕んだ笑みだ。



「そうか……それでいい

それこそが僕の望んだ英雄だ。」



 世界の中心()が俺に向かって手を掲げる。

 

 俺の体が白い光に包まれ……




「……っらぁ!」



 リザードマンの剣が俺の体を通り抜け、振り下ろされたところから俺の命が再開する。攻撃後に硬直した所を横蹴りで吹き飛ばし、距離を取る。リザードマンは俺が生きていたことに驚愕したようで、まともに受け身も取れず地面へと吸い込まれていった。



「……っはは、どうしたよ、この程度で俺が殺せるとでも?」



 リザードマンが体制を立て直す、俺の異質さに勘付いたのか前傾姿勢を保ったままこちらの様子を伺っている。俺は剣を構え……



「……こいよ蛇野郎、地獄の果てまで付き合ってやる。」




 リザードマンと真っ向から打ち合う。防御など捨てた特攻だ。幾度も死に、幾度も蘇った。

 この世界(現実世界)あの世界(神の世界)を往復し、時間感覚が間延びする。

 斬る、斬られる、斬られる、斬られる、斬る、斬る……と斬り合う。もはや斬るというよりも叩くと言った方がいいかもしれない一撃がリザードマンに命中すると、フラリとリザードマンが体制を崩す。



「グッ……グェェェェ!」


「はっ! もう終わりか?」



 横薙ぎに剣を振るう。リザードマンの硬い鱗に何度も打ち付けられ、剣の刃は潰れているが剣は真っ直ぐのままだ、曲がらない。いい剣をありがとうよ!

 横薙ぎに振るった剣はリザードマンの盾に阻まれる。これはもう読んでる!



「そこ……だぁ!」



 衝突した剣を支点にリザードマンの反撃の剣閃を回転しながら回避する。そして裏拳の要領でリザードマンの背後から剣を叩き込む。


「グァッ!?」


「まだまだぁ!」



 リザードマンの側面からさらに足払いを仕掛ける。その強靭な足腰を崩すことはできなかったが、グラついた。その隙に下から叩き上げるように体を回しながら四連の剣戟を叩き込む。



「グァァ……」



 何度剣を叩きつけただろうか、何百回叩いても倒れなかったその身体が地面に倒れこむ。そこからは袋叩きだ。寝ているリザードマンを何度も剣で殴りつける。


 2〜30発ほど叩くまではリザードマンはピクピクと動いてはいたが、次第に動かなくなり……死んだ。



「ハァ……ハァ……ハァ……勝っ……た……」



 リザードマンの死亡を確認した後、俺はその場に倒れこんだ。


 

スルーしてたけどリザードマンを蹴るって絶対痛い。足ボロボロやないの。

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