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70.冒険者

お茶が美味しい

「じゃあ今日1日は皆好きにしていてくれていいよ。僕は冒険者ギルドで参加者を募集してくる。各自装備を整えておいてほしい。」



 ベルナールさんがそう言うと冒険者達全員がワイワイとその場を去って行く。しかしライアットさんとフォウルは見当たらない。まあ多分授業だろう。



「んー……疲れたぁ……

どうする? 翔太。宿で休むか?」



 坂本が伸びをしながら話しかけてくる。まるで学校の昼休みの一言のようで少しほっとした。



「いや……ちょっと付き合ってくんね?

ギルドで適当な依頼受けて修行するわ」


「お前……あれだけ普段から戦っといてまだ戦おうってバトルジャンキーかよ……おっかねえ……」


「いや、強くならなきゃいけねぇしな。

クラスメイト全員でも魔人に勝てないのならそれより俺は強くならなきゃ駄目なんだ。」


「…………そうだな。付き合うぜ、相棒」



 俺と坂本は冒険者ギルドへと向かう。途中武器屋にて坂本用の剣や非常食を買ったおかげで俺の所持金は尽きてしまった。……金貨、まだあったのにな……



「お前さぁ……幾ら何でももう少し安い剣でよかったんじゃね? 俺もう金ねえよ」



 そう言って俺は坂本の持つ剣を見る。金貨4枚相当の剣だ。



「いや、せっかく奢ってくれるって言うしいいやつ買おうかなって。あ、あとこの間貸した金貨も返せよ」


「タイミング考えてくれる!?」


「はっはっはっ、まあ稼いで何とかしろってこった。」



 こいつ……



「お、あれが冒険者ギルド?

なんかファンタジーっぽくてワクワクするなぁ」



 そんな俺の気持ちを無視する様に坂本がギルドを見て目を輝かせている。やだぶん殴ってやりたい。



「お前な……」


「いいじゃんいいじゃん。やっぱファンタジーといえばギルドだよな! ルーキーが入ってきてベテランに絡まれる……やってみてぇ!」


「あ、それもう俺やった。」


「嘘ぉ!?」



 ぐぎぎぎと羨ましそうに坂本が俺を睨む。

 ……別にそんな羨むことじゃないだろうに。確かに憧れはしたけど実際に巻き込まれたら割と恥ずかしかった。



「はん! いいよいいよ! どうせ俺だってここですぐに絡まれてやるもんね!」



 そう言って坂本は冒険者ギルドの扉を勢いよく開ける。バァン! という激しい音とともに扉は開き、ギルド中の注目を集めた。



「あれ? ショウタ君にサカモト君、君たちも来たのかい?」



 しかしそんな俺たちに最初に絡んで来たのはベルナールさんだった。まあそりゃ冒険者ギルドに行くって言ってたんだからいるよね、当然。



「あ……はい……」



 すると坂本のテンションが明らかに下がって行く。あいつの憧れていた冒険者に絡まれるというイベントを完全に潰されたからだろう。事実ベルナールさんの強さを知っているであろう冒険者達は遠巻きにこちらを観察しており、喧嘩を売ろうなんて奴は一人もいなかった。ドンマイ。



「あ、もしかして依頼を受けに来たのかい?

ショウタ君もなかなか……」


「まあその通りなんすけど……なかなかってなんすか」


「いや、言うほどのことじゃないよ。

でも依頼を受けるならこれなんてどうだい?」



 そう言ってベルナールさんは依頼版から一枚の依頼書を引きちぎって俺に渡してくる。その依頼書の内容は、『Cランク依頼、町付近に発生したリザードマンの撃破』と書いてあった。……ばかじゃねーの?



「どう?」


「いやいやいやいや、Cランクって、

明らかにキャパシティオーバーでしょう。

Fランクの俺じゃ受けることもできませんよ」


「その辺は大丈夫だよ。僕はSランク冒険者だから。僕が受けて君たちがやればいい。」


「いや……だとしても俺は……」


「ガイラスの弟子だとしたらそのくらいできないとね。」



 ……は?



「え?」


「え? え? どういうこと?」



 坂本が戸惑っている。そりゃ坂本には言ってないことだけどそれどころじゃない。



「あいつだったらこのくらい暇つぶしの鼻歌交じりに突破してた。それこそ剣だけでね。」


「いやそうじゃなくって……

なんで……おれがお……ガイラスさんの弟子だって……?」


「え? マジで?」



 少なくとも言った覚えはない。このことを知ってるのはフォウルだけだ。



「そりゃわかるよ。君の剣筋はガイラスそっくりなんだもの。僕がどれだけあいつの剣を隣で見て来たと思ってるのさ。」



 ベルナールさんが笑いながらそう言った。



「そう……ですか」


「うん、まあまだまだ拙いものだけど、

それにどうせ魔王と戦うならリザードマン程度に苦戦なんてしてられないよ。」



 それはもはや「やってみないか?」の提案ではなかった。「やらなければならない」。そのくらいは突破してみせろというものだった。

 おっさんもライアットさんもニコさんも、勇者パーティは皆スパルタだ。



「俺はやるっすよ」


「坂本!?」



 俺が答えるより先に坂本が答える。



「いいじゃねぇか、

リザードマンくらい俺一人でもボコボコにしてやんよ」


「あー……ごめんね、サカモト君にはこっち」



 そう言ってベルナールさんが坂本にも依頼書を渡す。すると坂本の顔が目に見えて青くなっていった。



「これって……」


「君ならこれくらいやれるだろうっていう最低ラインだよ。もちろん一人でね」


「どんな依頼だったんだよ」



 坂本の後ろから依頼書を覗き込む。するとそこには『Aランク依頼、町外れの森に発生したゴブリンロード、ないしゴブリンの集団の討伐。』



「いやいやいやいや、ベルナールさんこれは……」


「大丈夫さ、サカモト君ならこの程度には負けない。けども数が多いから魔力操作が必要になってくるだろうね。」


「つってもこれは……俺がいないと翔太もやばいですし」


「甘えるなよ。」


「……は?」



 ベルナールさんが断ろうとする坂本を遮る。



「ゴブリンロードは確かに強敵だ。本体はそれほどではないにしても付属としてゴブリンが大量についてくる。今回確認されてるのは500くらいだそうだ。」


「それはまた……」



 500……その数はゴブリンキングの時と同じくらいの取り巻き量だ。あの時はまだまだ数はいたようだが集まりきるには至らなかったからよかったものの今回は全滅目的なので全てを倒さなければならない。



「でもそれは十分安全圏内だ。君の魔法……フレイムディザスターだったっけ? あれをまあ2発でも放てば半壊はするだろう。そうすればもう90%勝ったようなものだ。それなのにまだ君は安全、安心なんてものが欲しいのかい?」


「……当たり前じゃないですか。

フレイムディザスターを2発も打てば魔力は尽きる。魔力が尽きたら何も出来ない、ただ殺されるだけだ。」


「それをショウタ君の前で言うのかい?」


「……ッ!」



 ベルナールさんの発言に坂本の言葉が詰まる。



「彼は魔法を使えないんだってね。それでも彼はここまで生きている。」



 いや……俺の場合は何度も死んでる。俺が出来ているわけではない。



「ねぇ……いくら仲間がいたとしても魔力のないショウタ君がここまで戦ってきたってのは本当に凄いことなんだよ。その彼の隣に立とうと言うのに君はまだ未熟すぎる。魔力があるとか、魔法が使えるとかそんなものは関係ない。一度限界を超えてみなよ」


「……ははっ、……これは俺、煽られてるんですか?」


「まあそんなとこだね、正直君たちには期待しているんだ。だからこそこの先折れられたら困る。限界を超えてもやっていけるのか……それが僕は知りたい。」


「いいですよ、乗ってやりますよ」



 若干キレ気味に坂本はベルナールさんの持つ依頼書を奪い取り、ギルドから出て行ってしまった。……この場に残ったのは俺とベルナールさんだけだ。



「ベルナールさん、厳しいですね。」


「……そうかな? これでも僕はガイラス達の中で一番甘い方だと思うんだけど……」


「……比較対象がおかしいでしょ。あの人毎回HP1桁になるまで木刀でボコボコにしてくるんですよ……」


「まああいつも大概だけど一番厳しいのはライアットだね。」



 えっ、ライアットさんあれ以上に厳しいの?



「ライアットの場合手を抜かないからね。

才能があるやつしか弟子に取らないけどその分ボロボロにしごかれるんだよ。その上あいつほとんど喋らないからね、技は食らって覚えろみたいな教え方してるよ」



 それはひどい……何も言われずにいきなり全力でボコボコされる……そりゃ才能がないやつだと何もつかめないだろう。……フォウル大丈夫かよ……



「……まあライアットも薄々勘付いてはいるんだろうね。このままじゃ魔王に勝てないって」


「そんなに……そんなに強いんですか?


魔王って。魔人三人に無傷で勝てるライアットさんが勝てないと思うほど……」


「……強いよ。この世界の誰よりも。」


多用されるゴブリンロード。

ごめんやで!

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