66.壁
お昼寝したい
「後方右翼! ギザメルが指揮してガルム達を退けろ! 前方は僕達が切り開く!」
平穏な草原にベルナールさんの指示が飛ぶ。
レドの街を出て少し歩くと、青い二足歩行の豚……オークに、1メートルほどはあろうかという巨大な鉢、ニーホーネット、それにガルムなどの複数の魔物達と遭遇した。
普通のパーティなら危機に陥るような状況だが、しかし慌てた様子もなく、ベルナールさんが陣形、戦術を指揮する。
その指示に合わせて全員が動いて行く。クセの強そうなメンバーだが、ベルナールさんの実力は信用されているのだろう。誰も文句を言わずに従っていた。
後方にいた俺はガルムの突進攻撃を受け止め、仕留めやすい位置に受け流して行く。剣が軽い。そのくせして全然折れる気配もなく魔物の皮膚と正面衝突しても大丈夫だ。これなら直線攻撃は余裕だ。
受け流されたガルムは他の皆の魔法などで仕留められて行く。炎、風、地、時々水や固有魔法と思われる攻撃も飛び交っている。今はこれでいい、今は……
「小僧! 邪魔だ! どいてろ!」
俺がガルムの攻撃を受け止めていると後ろから怒声が聞こえる。ギザメルだ。
「俺たちが魔法で仕留める!
魔法使わねえなら邪魔だ! 下がってろ!」
前線に出ていた俺はギザメルに背後から襟首を捕まれうしろに投げ飛ばされる。くそ……折角攻撃受け流して手伝ってたのに……もう知らん。
「《トルネード》!」
俺を後ろに投げるとすぐにギザメルが魔法を放つ。その魔法は広範囲に暴風を巻き起こし……魔物達を切り裂き舗装された道に血の雨を降らせる。
……まだ遠い……か。
「えー、ショウタ17歳なん?
見えねー」
魔物達の群れを抜けた後、近くにいた変な奴に話しかけられていた。チャラチャラした雰囲気の男で、あいも変わらず美形だ。……なんなのこの世界。美形しかいねぇの? いや、モヒカンもいるからそんなことないってわかるんだけどさ。
「……ってかお前誰だよ。」
「えー? ひどくねー? 自己紹介したじゃん
レドの街の人気者、タドム君だぜ☆」
そう言って目の横でピースをしながらウインクを連打してくる。う……うぜぇ……
「んで俺っちはヤドム。よろしく頼むぜぇぇぇい!」
こっちの男……ヤドムは俺たちの手を取りブンブンと上下に振り回してくる。う……うぜぇ……
この二人……タドムとヤドムは双子の冒険者らしくめちゃくちゃ似てる。どっちがタドムでどっちがヤドムかももはやわからない。ヤドムがタドムでタドムがヤドムで状態だ。
「わかったわかった。うざい。あと熱苦しい。」
「ほんとに?」
「ほんとにほんとにほんとにぃ?」
「じゃあ俺っち達シャッフルしてぇぇ?」
「どっちがタドムでしょぉぉう!」
「いや……そっちだろ……」
せめて喋り方くらい変えようか。
シャッフルの意味がねぇ。
「「すげぇぇぇぇ!!」」
「……頭痛くなって来た……」
「拙者フォウルでござる! よろしく!」
「いえーいフォウルいえーい!
聞いてるぜぇぇぇい!」
「確か拳士だってね☆
珍しいじゃん!」
「拙者も二人のこと聞いてたでござるよ!
炎と風でござるな!」
「せいかぁぁぁい! ふぅぅぅぅう!!!」
「いぇぇぇぇい!!!」
「ふぅぅぅぅう!!!」
……もうなんなのこいつら……
フォウルまで感染ったぞ。いまちょっとフォウル置いてきたらよかったかなって後悔してる。
「ふぅぅぅぅ《フレアァァァ》」
しかしこんなふざけた態度を取りつつも実力は確かなようで、移動中に何度もガルムが襲いかかってきているが、全く相手になっていない。タドムの放ったフレアによって燃やして終わりだ。
「すごいでござるな! タドム殿!」
「マジ? やっぱり? 俺最強? みたいな?」
「そうだぜぇぇぇぇぇ!!! タドムは最強なんだぜぇぇぇい!」
「ごめんうるせぇ」
「確かにあれはすごいね。どう見ても下級魔法の威力じゃない」
確かに……あんなうるさい詠唱はないがフレアは火系統の下級魔法のはずだ。坂本が使っているのを見たことがある。けどあんなに火力は出ていなかった。そこんところどうなって……って、ん?
「あー! ベルッチじゃん! やほ☆」
「ベルナァァァァル!! よろしくぅぅぅぅ!!」
「うん……キャラ濃いね君たち……」
いとも自然に会話に混ざってきたのはこのパーティのリーダー、ベルナールさんだ。何というか……常識人の匂いがする!
「よろしくお願いします。ベルナールさん。」
「うん……いきなりどうしたんだい?」
俺はベルナールさんの手を取り強く握りしめる。せっかく捕まえた常識人だ! 逃すものか!
「ま……まあいいや。確か君は……ショウタ君……だったね。改めましてベルナール・エテュードだ。よろしく。」
「あ……あぁぁ…………」
「ど……どうしたんだい!?
体調でも……」
ベルナールさんの手を掴んだまま崩れ落ちる。
「常識人だ! 完全無欠の常識人だ!!!」
「う……うん……? 褒められてるんだよね……?」
「ショウタ殿も中々におかしくなってきたでござるな。」
「ふぅぅぅぅう!!! やっぱり同類だとおもってたぜぇぇぇい!」
失敬な! お前らにおかしいって言われるほどおかしくねぇよ!
「それよりも……ショウタ君にフォウル君、君達は中々面白い戦い方をするね。ライアットも気にしていたよ。」
「ライアットさんが?」
「うん、まあ彼が気にしていたのは……」
「小僧……来い。」
突然俺の背後から気配もなくライアットさんが現れ、フォウルの襟首を掴み引きずって行く。
「え? ちょ……待つでござる……」
フォウルは抵抗するも、ライアットさんは気にせず引きずる。……まあ取って食われやしないだろう。頑張れ。
「君は剣にこだわりがあるのかい?」
俺がファウルを見送っていると、ライアットさんが話しかけてくる。
「いや別にこだわりってわけでは……」
実際魔法を使えるなら使ってる。
「そうなのかい? 僕には剣を振っている君は楽しそうに見えたんだけどね。」
「そんなことは……」
そんなことはない。
剣はあくまで戦いの手段だ。王城にいた頃は剣を振るのが楽しかったが今は楽しむ余裕もない。嫌いになったことなら何度でもあるが。
「おかしいな……君は僕と同じタイプだと思ったんだけど。」
「ベルナールさんと同じって……まあ剣の才能でもあれば楽しかったのかもしれませんけどね、どうやら俺にはそんなもんもないらしいですし。ベルナールさんみたいに盾の才能があれば今からでも転向しますよ。」
「ははは……僕の努力を才能の一言で片付けないで欲しいな。」
「え?」
温和に話していたベルナールさんから一瞬だが威圧のようなものが飛んでくる。
「……少し昔話をしようか。
僕はね、勇者……ガイラスの幼馴染なんだ。」
知ってる。傭兵っぽい奴に聞いた。
「昔からガイラスは何でもできた。読み書き計算、魔法、果てにはかじっただけだが剣術まで。その才能は地元の村でもズバ抜けていた。」
……だいたい予想はつく。あのおっさんは生まれながらの天才なんだろう。
「僕はそんなガイラスのことが……大っ嫌いだった。」
…………は?
一気に3人くらい新キャラ出ましたね。
彼らと関わりどんな物語が生まれるのか……
乞うご期待!




