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62.完全復活

「へいらっしゃぁぁい!」


「「「へいらっしゃぁぁい!」」」



 俺とフォウルはニコさんの家の前の店……マルクトに来ていた。マルクトは小さいながらも活気のある店で、隅々まで清掃が行き届いているのがわかる。また、店の外にまで美味しそうな料理の香りが漂って来ておりそれが食欲をかきたてる。



「へいお客さん! 何にしましょ!」



 俺たちが席に着くと、いかにも体育会系といった顔の濃い店員さんが水を渡すと同時に注文を聞いてくる。……うん、濃ぉい……



「この割引券のやつお願いします。」


「拙者もそれでお願いするでござる。」


「なっ……お客さん方正気ですかい?」



 は? なんで注文しただけで正気を問われてるわけ? お前こそ正気か。……いや、まさか……



「いやちょっと待っ……」


「いや、愚問でしたね。かしこまりました。

超ギガサイズステーキ2丁入りマァァァス!」


「「「はい喜こんでぇ!」」」


「「「ウォォォォ!!!」」」



 注文が入ると先ほどまで自分の食事に集中していた他の客達がこちらを見てテンションを上げる。……ハメやがったなあのクソババア……



「しょ……ショウタ殿……これはもしかして……」


「ハメられた……ってことだろ……」



 なんだよ超ギガサイズステーキって……

もう名前だけでお腹いっぱいになるわ……



「こうなったら食えるだけ食って残すしか……」


「ショウタ殿……あ……あれ……」



 俺の独り言を聞いてフォウルが震えながら俺の後ろを指差す。振り返ってフォウルの指差す方を見てみると……


『当店、料理の食べ残し厳禁!

食べ残しをしたお客様はお会計10倍払い!』



「oh……」


「や……やばいでござる……」


「メニュー……メニュー見せて……」



 テーブルにあるメニューを見る。するとそこには……


○ステーキ 銅貨50枚

○超盛りステーキ 銀貨1枚

○超ギガサイズステーキ 銀貨8枚



「超ギガサイズステーキ2枚で……ハハッ、金貨1枚と銀貨6枚だってよ。」


「10%引きでも……金貨1枚と銀貨4枚と銅貨40枚……」


「それを10倍だから……」


「「金貨14枚と銀貨4枚……」」


「お待たせしましタァ!

超ギガサイズステーキ〜気持ち厚切り〜2丁です!」


 さらに気持ち厚切りで来やがった!


 『それ』は巨大な肉の塊だった。

 直径1メートルはあろうかという肉の塊。これはステーキ肉というより切り出す前の塊肉をそのまま焼いた感じだ。……え? これ、え?

 運んでいるウェイトレスさんも一つずつ両手で持って運んでくる。重いのか腕の筋肉をプルプルさせている。……あれを食えと?



「存分にお召し上がり下さいませ」



 肉が運ばれると周りの客達が興味津々な顔でこちらをみている。完全に見世物にされてんなこれ……



「おう兄ちゃん! その肉はな……時間をかけると冷めて硬くなっちまう。早めに食っちまわないと地獄だぜ……がんばんな……」



 盗賊団のボスみたいな風体の男に応援される始末だ。マジか……まじか……



「こ……こうなりゃヤケでござるよ!

うぉぉぉ!!!」



 フォウルが覚悟を決めたのか肉をナイフで切り分けて食べていく。備え付けられているナイフも肉のサイズに合わせて包丁ほどの大きさだ。……ナイフで切ってすぐ食ってるから絵面が完全に盗賊だ。ナイフに刺した肉を食うのは危なくね?



「もしフォウルが完食したとしても俺が残したら金貨7枚と銀貨2枚取られる……テント買い直したり剣買ったりもしたいしそんなに払ってられない……それに実際エネルギーは必要らしいし……」



 ああもう! 震える手でナイフを握り切り分けてすぐに食べていく。肉は筋張ってはいたが、久しぶりの温かくて人並みの飯に感動した。あと全然普通にうまい。



〜〜十分後〜〜

 肉が全く減らない。

まだ暖かく、食べられるがこのペースで行くと何時間かかるかわかったもんじゃない。ってか本当に肉が減らないんだけど。



〜〜三十分後〜〜

 肉が減らない。

 いくらお腹が空いていたと言っても人間の限界もあったりするわけでこの量は明らかに限界オーバーでしょ。フォウルももはや肉を無心で貪っている。……くっ、向こうの方が肉が減ってる……



〜〜一時間後〜〜

 吐きそう……いや? 吐いてる? 今俺飯食ってんの? 吐いてんの? 全然わからん。もはや肉の味とかわからんしアゴもすげぇ痛い。ってかもうこの肉硬くて食えん……でも払う金もない……



〜〜二時間後〜〜

 あと一口……あと一口で終わり……でももう本当無理……もうあと少しでも詰め込もうもんなら胃が破裂する。いや、比喩とかじゃなくてまじで破裂する。

 ここで死んで神様んとこ行く羽目になる……


〜〜二時間半後〜〜

「「ありやとございましたぁぁぁ!」」


 勝った……勝ったけど人として大切な何かは失ったような気がする……もう二度とこの店来ない。めっちゃ体重いし動けん……早く……薬を……


 重くなった体を引きずるように二人でニコさんの家へと戻る。戻るとニコさんが笑顔で迎え入れてくれた。



「おかえり、腹一杯食ったみたいね」


「早く……薬ください……」


「拙者も……欲しいでござる……

傷を治すというより腹を減らしたい……ウプッ……」


「はいはい、これ、飲みな」



 そう言いニコさんが先ほどと同じ紫色の液体を差し出してくる。こみ上げる吐き気を必死でこらえ、その薬を飲む……というよりむしろねじ込む。



「がっ……あぁぁ……」



 変化が起こるのは早かった。体の内側から新しい体が出来ていく感覚……腕の火傷痕が痒くて痒くてたまらない。たまらず包帯をとって腕の火傷痕をかくとボロボロと黒ずんだ皮膚が剥がれ落ちて新しい皮膚へとすげ変わっていく。

 粉砕骨折したであろう足の骨も、筋肉とともに固まっていくのを感じる。添え木もなしに足の骨が固定され、異常な速さでくっついていくようなむず痒い感覚が右足を支配する。さっきまでめちゃくちゃ腹一杯だったのにどんどんと腹のなかの食べ物がなくなっていき、全身の傷跡がまるで早送りのように治って行く。やがて全身の傷跡が完全に消えると、腹のなかの食べ物もほとんどなくなっていた。



「うわ……本当に治ったよ。」



 さっきまで全く動かなかった足も前と同じように動く。外気に触れると激痛が走った両手と脇腹の火傷も元の通りの肌の色に戻り、痛みも全くなくなっていた。



「拙者も怪我がなおったでござるが……

まだお腹いっぱいでござるよ……うぅ……」


「まあ普通そうだろうねぇ。

あの量のエネルギーを使い果たすってのはそっちの子のが異常だよ。よほど傷が深かったってこった。」



 ニコさんが空になったビーカーを興味深そうに眺めながらそう言う。



「すっげ……筋肉痛も治ってる……」



 この薬で治ったのはゴブリンキングとの戦いでできた傷だけではなかった。異世界に来て、剣を振るようになってから毎日悩まされていた筋肉痛の痛みも、闘技場でザハートと戦ってできた火傷や打ち傷も、跡が残りはしたもののダメージは全く残らなかった。



「ってか腹減ってきた……さっき嫌ってほど飯食ったのに……」


「じゃあさっさと出てってなんか食ってきな。

この肉ダルマはうちに置いといてやるから」


「あ……ありがとうございます。」



 ってか肉ダルマって……



「礼なんていいから。あ、あと裏路地には入らないようにね。変なやつらに襲われるよ。」


「あ、はい。わかりました。

行ってきます。」




 ニコさんにお礼を言い家を出ると、気持ちのいい風が肌を撫でる。急に五体満足になったことによる爽快感のせいでもあるのだろうが、とても気持ちいい。



「まずは飯だけど……

野菜的なもんが食いたいな」



 少なくとももう肉は嫌だ。

 肉はもう1週間くらいいらない。


 食事をできる店を探してぶらぶらと歩いていると、この町の汚い部分が嫌でも目に入る。

 表通りはそこまで悲惨ではないのだが、一本道を外れ、裏通りを覗こうものなら大人子供問わず汚い布に身を包み、その手には武器が握られており、互いに睨み合いをきかせあっている。


 さっきの男達の死体も、放置されたままだが誰一人として騒いだりなどしていなかった。むしろ服を剥ぎ、持ち物を奪い取っている始末だ。


 しかし俺にも彼らに構っている暇はない。

 彼らが生きるために必死なように、俺も必死なのだから。人と会ったら極力目を合わせないように早足で側から離れる。俺じゃあ喧嘩売っても売られても負ける。最悪子供にも負けるかもしれない。戦わないで済むならそれが一番だ。


 そうしてコソコソと逃げながらどこで飯を食べるか悩んでいた俺はある建物を発見する。

 この建物なら飯も食わせてもらえるかもしれない……そう思い俺は冒険者ギルドへと入ることにした。





子供にビビって喧嘩を売られないよう、コソコソと隠れて逃げる。……なんていうか主人公として間違ってないかい翔太くん……

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