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6.剣

「ああクソッ、眠れねぇ」



 俺はさっき見たことを忘れようとすぐに布団に潜り込んだが、全く眠れずにいた。頭の中で何度もあの現場が再生される。おそらく本気でゆきのことを案じていたのであろう福田の顔、ゆきのことを心から好きなのであろう告白、……そして悲しそうな顔をしたゆきの顔を。なぜあんなにもモヤモヤした気持ちになったのか……このままだとゆきが誰かに取られるから俺は焦っているのだろうか?


 結局、その日はモヤモヤの原因も分からぬまま、朝を迎えてしまった。


 朝といってもまだ早朝。しかしこんな状態でもう寝ることもできない俺は部屋を出て、この世界に来てから通い慣れた図書室へと足を運ぶ。

 その道中、ふと窓の外を見ると城の中庭に人影を見つける。こんな早朝に何だろうかという好奇心に釣られ、俺は中庭に出て人影に近づいていった。


 近づいて行くとだんだんその人が何をしているのかがわかるようになってくる。

 剣だ。鈍色に光る鉄製の剣を振っていたのだ。

 魔法の練習をする人ならこの世界に来て何人も見てきた。しかし剣の練習をする人など初めて見る。

 この世界では奇妙なその行動に俺はますます好奇心が掻き立てられ、見てるだけのつもりがつい俺はその男に話しかけてしまった。



「なんで剣なんか振ってるんですか?」



 俺の口から出たのは率直な疑問。

 唯一にして無二の疑問である。



「……なんだ? また笑いに来たのか?」



 こちらに背を向けたまま男は素っ気ない返事をする。渋い声だ。



「別に笑いませんよ。ただなんでこの魔法至上主義の世界で剣なんか振ってるのかなって、純粋な疑問ですよ」



 男のそっけない返事に少し気を悪くした俺は、今度は男の正面に回り込み、顔を向かい合わせて問いかける。


 男は引き締まった筋肉を持つダンディなおっさんだった。鋭い目つきに少し剃り残されている髭。髪の毛は短く切りそろえられており、全身から汗を流している。身長は2メートル近く、ハリウッド俳優のような彫りの深い顔つき。こんな感じに年を取りたいと思う理想のようなおっさんだった。



「って城のやつじゃねぇのか

悪いな。またいつもの冷やかしが来たのかと思ってよ」


「冷やかされるんですか?」


「ああ、そりゃもう。

剣なんて魔法には遠く及ばないだの色々と言われんだよ。まぁ実際そうだがな」


「ならなんで魔法を使わないんですか?」


「俺の魔力量は普通のやつの半分以下なんだよ。だから普段は魔力節約のために剣で戦えるよう鍛えてるんだ。」


「剣なんかじゃまともに戦えないって聞きましたけど」


「そうだな。でもないよりマシだろ?

魔力量が少ない俺には少しでも手札が多い方がいいのさ」


「なぜそこまでして戦おうとするんですか?魔力量が少ないなら別の仕事をすればいいじゃないですか」


「嫌なこというガキだな……

なんでお前なんかにそんなこと教えてやらなきゃなんねぇんだ」


「別に、ただ気になっただけですし」


「ならほっとけ」



……

………



「おい、なんで座り込むんだよ」


「暇なんで」


「見物する気満々かテメェ!」


「だめっすか?」


「……静かに見てろよ」



 そう言うとおっさんは素振りを再開した

おっさんの素振りは日本で見たことのある剣道やアクション映画なんかの剣術とは全く異なるものだった。

 ただひたすらに実戦的で、機能的で、無駄な動きがまるでない。剣を振り下ろしたかと思うと手首を返しそのまま切り上げる。

切り上げた体勢からバックステップを取ったかと思うと、着地と同時に地面を蹴り前に飛び込み突き技を放ち、仮想の敵を蹴り飛ばす。そのように一撃一撃が致命傷となるような攻撃を流れるように繋げていく。

 見せるためでも当てるためでもなく本当に戦うため、殺すための剣術の美しさに、俺は魅了されていった。



「ふう……」



 しばらくしておっさんは剣を止め、休憩に入る。どれだけの時間剣を振っていたのかはわからないが、決して退屈することはない時間だった。



「……すげぇ」


「あ?」


「おっさんすげぇな!」


「誰がおっさんだ! 蹴り飛ばすぞテメェ!」


「な、な、おっさん。

俺にもそれ教えてくれよ!」


「話聞けや! さっきまでの丁寧な口調はどうしたよ!」


「そんなのいいから!

俺にもその剣教えてよ!」


「うっせぇ!

誰が教えてやるか!」



 そう言い、おっさんは走って逃げてしまった。ってかおっさん足速っ!


 これが、俺が唯一尊敬する師匠との初めての出会いだった。


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