55.一筋の希望
……特に言うことないな
ゴブリンキングが針を飛ばす。
遠距離から数百にも及ぶ土針は魔力により推進力を得、さながらマシンガンの如く針山から乱射される。
俺とフォウルは近くの木を背に土針をしのぐが、細い土針が太い大木の幹をじわじわと削りとって行く。貫通するのも時間の問題だろう。
「フォウル! こっからどうする!?」
「逃げる! と言いたいところでござるがそうはいかないのでござろう?」
「ああ! もちろんだ!
フォウルはあとどれくらい戦える!?」
「魔法はもう無理でござる!
魔闘流をあと数分ってところでござる!」
「だったらあの針が尽きるのを待っ……」
言い終わるより先に木の幹がへし折られる。その衝撃で俺の体は前方に吹き飛び、ろくに受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
「ショウタ殿!」
そして飛び出すようにフォウルが木の幹を折った張本人……ゴブリンキングに殴りかかる。
腹部に右拳で一撃、ゴブリンキングが放つ左拳を身を回して躱し、その反動で後ろ回し蹴り、蹴りで怯んだゴブリンキングに蹴った場所を支点にもう1発回し蹴りで脇腹を蹴り抜いた。
フォウルの怒涛のラッシュによりゴブリンキングの巨体が揺らぐ。
そこへ飛び出した俺が木の幹に刺さっていた土針を引き抜き、ゴブリンキングの足に刺し、ゴブリンキングを地面に固定する。
「GYAAAAAAAAA!!」
足を貫かれたゴブリンキングは痛みからか高らかに雄叫びを上げる。
そして針を刺した後ゴブリンキングは反撃としてか拳や固定されていない足で蹴りを放ってくる。しかしそれは予想していたことだ。剣にて横から叩き、軌道をそらして回避する。途中、火傷の痛みからか攻撃を逸らしきれずに肉に、そして骨に着実にダメージが蓄積されてゆき肉体が悲鳴をあげる。しかし攻撃をそらしきれなくとも確実に隙はできる。その隙を狙い脇腹、背面、足などをフォウルが連打する。フォウルの連撃が途切れると同時に俺とフォウルはバックステップでゴブリンキングから距離を取る。
「ハッ、剣ももうほとんど使いもんにならないな。ひしゃげちまってる」
俺が死ぬほどの戦闘についてきてくれていた剣は焼き、斬りつけ、叩かれ続けた限界がきたのか、もうボロボロになってしまっている。直剣だった面影はまるででなくなり、刃が潰れ、剣背が曲がり、柄の部分の金属が燃えて露出してしまっている。
「……来るでござるよ!」
「GYAAAAAAAAA!!」
土針が足に刺さった状態のまま、ゴブリンキングが発光する。土の槍、流星群、土針ときて次に来たのは土石流だった。
地面がうねり、まるで液体のように波打つ。波打った地面は圧倒的な質量によって俺たちを飲み込まんと加速し、襲い掛かってくる。
「ショウタ殿! 登るでござる!」
「はぁ!?」
フォウルの方を見て見るとフォウルは近くにあった高い木に登り土石流から逃れようとしている。……あぁ、『木に』ね。一言足りねぇよ馬鹿野郎。
一拍遅れて木に登った俺はギリギリ逃れきれず足が土石流に飲み込まれる。
足が折れるほどの衝撃に木から手を離してしまい、土石流に体ごと持っていかれゴブリンキングから離されてしまう。流されながらも見たものははゴブリンロードやゴブリンリーダーの集団が歩み寄って来る光景だった。
死んだ……と思っていたが次に見た景色は土石流によってへし折られた木々だった。土石流に飲み込まれ右足が使い物にならなくなってなお俺は生きていた。
目を閉じればすぐにでも命尽きそうだ。しかし死ぬわけにはいかない。フォウル一人で耐えられるはずがない。
土に埋まった右足をひしゃげた剣を使って掘り出す。右足の感覚はほとんどなくなっており、まともに動かない。そこでふとある考えが脳をよぎった。
ここで逃げ出せば俺はゴブリンキングと戦わずに森を抜けられるかもしれないんじゃないか?
しかしすぐに先ほどのことを思い出す。ゆきのため、己のためと言っていた俺がフォウルの隣に立ちゴブリンキングと戦ったこと。勝ち目なんて0なゴブリンキングとの戦いに、フォウルは最後まで付き合ってくれたこと。
「ここで逃げたら……男じゃねぇよなぁ……」
俺の足は自然とフォウルの方へと向かっていた。折れた右足を引きずって、ひしゃげた剣を杖にして前へと進む。ようやくゴブリンキングの頭が見え、先ほどまで戦っていた場所が視認できるようになる。そこでは全身から血を流し満身創痍となったフォウルがゴブリンキングとゴブリンロード、ゴブリンリーダー、そして数百にも及ぶゴブリン達と一人で戦っていた。
「は……ははは、やっぱすげぇよ。お前は」
もう俺の頭に逃げるなんて言葉は欠片も残っていなかった。
折れれていない左足で全力で踏み込み、フォウルの元へと跳躍する。途中、飛び出す俺を叩き落とさんとするゴブリン達を切る、というよりも叩いて押しのけフォウルと背中を合わせる形となり、地獄のような戦場に再び舞い降りる。
「遅いでござるよ! ショウタ殿!」
「悪いな! 戦況はどうよ!?」
「最悪でござる! ここまでくると笑うしかないってレベルでござるな!」
目前に迫るゴブリン達を斬りつけながらも会話を続ける。ゴブリン達に傷はなく、斬られてもすぐに復帰して襲い掛かってくるが、それを上回る速度で斬りまくる。途中剣が折れ、腰に差していた木剣へと持ち替えまた攻撃を続ける。
「ゴブリンキングは!?」
「上でござる!」
返答を聞きすぐにその場から離れる。すると俺たちが立っていた場所にゴブリンキングが轟音を立て着地する。目の前にはゴブリンキングが、そして周囲にはゴブリンロードを筆頭とするゴブリン達が囲んでいる。
「あー……終わり、でござるな」
フォウルのその声と共に、ゴブリンキングが巻き上げた石飛礫が、流星群となった石飛礫が俺とフォウルを襲う……はずだった。
俺たちとゴブリンキングの間に一人の男が割り込み土のドームを展開する。360°囲んだ土のドームは流星群どころかゴブリン達の攻撃をも全て防ぐ無敵の盾となった
土のドームによって陽光は遮られこのドームを作った人の顔は見えないがどこか懐かしい感じがした。この人がいれば大丈夫だ……そんな気分にさせられる
「待ってな、すぐに終わらせてやる」
土のドームがボロボロと崩れ落ち、男は目にも留まらぬ速度で飛び出す。
その男は流麗な所作で腰より剣を抜刀し、ゴブリン達を薙ぎ払う。抜刀された美しい剣はゴブリン達の血を浴びて美しく輝き、陽光を反射させその男の顔を鮮明に映し出す。
「全く……心配させやがって。お前がまだこいつらに勝てるわけねぇだろうが。」
その男には見覚えがあった。忘れるはずもない、見惚れ、憧れ、妬んだその剣技。美しい金色の髪に彫りの深いその顔は……
「あとは……任せな」
間違いなく俺の師匠、ガイラスのものだった。
ということでガイラスことおっさんが再登場しました。久しぶりー!
あ、あと明日からおれさま学校始まっちゃうんで投稿がこれよりも遅くなるかもしれません。……遅くならないかもしれません。




