52.理由
ぽーん
どのくらい走っただろうか。サリア達に追いつくことはなかったが、ゴブリンキング達に追いつかれることもなかった。しかし応急処置もしていない脇腹の傷がついに限界を迎え、どこともしれぬ森の中で一旦休憩を取ることにした。
「これはひどいでござるな……
止血をしようにも道具がなくて厳しいでござるよ」
「マジ? どーすっかな……」
そう言っている間にもドクドクと大量の血が流れ出ている。意識もだんだん朦朧としてきた……
「……ショウタ殿、御免!
《フレイム》!」
そう言うとフォウルは俺の傷口に炎をあてがい皮膚を焼き出した。
朦朧としていた意識が一気に覚醒し、脇腹を膨大な熱量が焦がしてゆく。周囲に肉が焦げる香りがたちこめ、自身の皮膚が収縮していくかのような感覚に襲われる。
「がぁっ! はっ!?」
「すまないでござるショウタ殿。止血する用具がない故、傷口を焼いて塞いだでござる。荒療治故しばらく安静にしておくでござるよ」
「あ……荒療治過ぎんだろ……
でも助かった。お言葉に甘えて休ませてもらうわ……」
「拙者も少し休むでござる。
さっきので魔力がもう空になってしまったでござるからな」
そう言ってフォウルは弱々しく笑った。……まああんなでかい炎の壁作ったりしたらそりゃ尽きるわな。
俺たちは言葉もなく座り込んだ状態で体を休ませる。もう朝なのだろうか、森の中は霧が立ち込めており、微かながら明るくなったようにも感じられる。ひんやりとした寒さと、肌にべたつくような湿気により不快になる。
「あー……なんだよあれ。どうしようもねぇよ」
静かにしていると意識が飛びそうになる。なんでもいいから会話をしようとした結果出た言葉は絶望だった。
「剣ももうボロボロになってるし……
剣先欠けるわハンマーで刃が潰されてるわ。」
「……フォウルはこれからどうするつもりなんだ? 合流についても置いてきたテントについても」
「合流は……森を出て次の街でござるな。テントは諦めるしかないでござる」
「つっても道を外れちまってるから森を出ることすらできねぇよ。ここがどこだかもわかんねぇ」
「……拙者逃げてきた道は覚えてるでござるよ。ただ道中には……」
そこまで言ってからフォウルは口ごもる。言わなくてもわかる。ゴブリンキングのことだろう。
森から出るためには正規の道に戻らなくてはならなくて、しかし正規の道に戻るにはゴブリンキングを退けなくてはならない。どう考えても詰みだ。
「フォウルはさ、仮に俺たちが最高のコンディションだとしてあのゴブリンキングを倒せると思うか?」
「……無理でござろうな。希望的観測含めて勝率は1%ないでござろう」
「じゃあゴブリンキングから逃げて逃げてそれで森を出られる確率はどのくらいだ?」
「…………0% 。まず間違いなくゴブリン達に追いつかれて殺されるでござる」
「じゃあ決まりだな。ゴブリンキングを殺そう。」
「なっ……! 無理でござるよ!
勝てっこないでござる!」
確かにその通りだ。万全の状態でも1%ない勝率に賭けるのは無謀すぎる。でも……
「……なあフォウル。せっかくの機会だ、俺の話を聞いてくれないか?」
「話……でござるか?」
「ああ、俺がどこから来て、なんで魔王を倒したがるのか、だ」
「それは……」
「俺は異世界から来た人間だ」
それから俺は全てを話した。
勇者召喚で王国に召喚されたこと、勇者じゃない上に魔法が使えないこと、王国が魔人に襲われてゆき達がさわれたこと、それを助けるためにステータスを失ったこと、全て。
「だから俺はこんなところで止まらない。止まってられない。またゴブリンを殺して吐くことになろうと、全身を穴だらけにされようと、命ある限り止まらない。いや、命尽きても止まらないんだよ。」
「…………」
「もちろんこれは俺のわがままだ。
フォウルが逃げたいってんなら逃げてもいいって言ってやるべきなんだろう。でも……ついて来てくれ。一緒にゴブリンキングと戦ってくれ」
「ふふふ……あーっはっはっはっ!
そうか、やっとわかったでござるよショウタ殿!」
「は?」
突然フォウルが狂ったように笑い出す。
「拙者は今までショウタ殿のことが全くわからんかったでござる。実力もないのに拙者やリリア殿やグレン殿、サリア殿出会う人を皆助けようと思う理由が。」
「戦力増強……それにその勇者を救えなかった罪悪感。なるほど、ショウタ殿の行動の根幹は『ゆき殿』だったでござるな!」
「……ああ、そうだよ。
俺は全部ゆきの為に……いや、俺がゆきに会いたいがためにやってることだ。罪悪感も……たしかにあったかもな」
「気に入ったでござる。
拙者改めてショウタ殿の『仲間』になるでござるよ。ゴブリンキングの件も賛成でござる」
「い……いいのか!?」
「構わないでござる。
拙者は全てを救いたい、全てを幸せにしたいというような『人間』よりも大切な一人を救いたい、大事な一人を幸せにしたいという『人間』の方が好きでござる。」
「ありがとう……」
フォウルが手を差し出してくれる。
俺はその手を取り、立ち上がる。
戦おう、ゴブリンキングと。




