40アーユーオーケイ?
ハッピーバレンタイン!
遅くない!
まだ遅くないはず!
一歩、また一歩と地面を踏みしめ闘技場の舞台を中央まで進む。すると目の前にさっきの大男の姿が映る。
胸や脇腹などの必要最低限の重要な部分を保護する革の鎧を身に纏い、その手には俺の背たけほどもある大きな木槌が握られている。
さらに内面の闘志を表すかのように逆立てられた頭髪、こちらをじっと見据え、僅かな油断すら存在しない。
ギルドで絡んできたハゲとは大違いだ。
「レディースエーンドジェントルメェェェン! 本日お集まりいただいた紳士淑女の皆々様方に心から感謝を、そして最高の試合をご覧入れましょう!」
俺が大男の正面に立ち止まると同時に、実況と思われる若い男の騒々しい声が闘技場内に響き渡る。
そしてその声に呼応するかのように観客席からも大きな歓声が巻き起こる。
この闘技場の舞台は半径10メートルほどの円形のフィールドに、砂が敷き詰められただけの非常にシンプルなものだ。
また、舞台の周りは5〜6メートルほどもある高い壁に包囲され、むしろ穴と呼べるような場所である。観客席はその壁の上に設置されており、四方から人に見られている。
何も不正を働く余地がない、正々堂々を体現したような場所だ。
「本日は急遽組まれた戦いとなります!
なんと! 久方ぶりの決闘が行われるとのことです!」
予定調和。打ち合わせをされていたようなセリフを実況の男が叫ぶ。
するとさきほどよりも一層大きな歓声が響き渡り、周囲に異様な熱気が充ち満ちる。
「ルールはいたってシンプルな共通闘技場ルール! HPの半分を失うと負け! 制限時間は30分!
HPが半分失われた場合選手の背後の魔水晶が光り輝く! つまり水晶が輝いた方の負けだ! アーユーオーケイ?」
アーユーオーケイ? って……
スタッフといいこの世界日本語だけじゃなくて英語もあるんだな。
実況の男がさっきサリアが言っていたルールと全く同じことをまるで観客達を煽るかのようにゆっくりと声を張り上げて説明していく。…………HPないんだけど……
「イエス! オーケイ!
じゃあ早速選手の紹介ダァ!」
「西に武器を構えるのは、グリンの町の新進気鋭冒険者! 登録してから2年でCランクにまで駆け上がり、その暴虐性から『悪鬼』の異名を取る期待の超新星、そう、彼こそがぁぁぁぁ! ザハード・アルバートンだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
するとまたも歓声が響き渡る。
どうやらこの大男……ザハードは結構な有名人のようだ。ランクは上から4つ目のCランクの冒険者。それもたった2年でということだからランク以上の強さを持つ可能性も否定できない。ザハードの紹介文だけでも俺に勝てる要素は皆無に思えてきた。
ああ……どうするかな…………
「対して東に剣を構えるのは先日冒険者登録をしたばかりという新人冒険者! クエストクリア数0というドドドド新人! その名はぁぁぁぁぁショウタだぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の情報を聞くとまたも大きな歓声が上がる……はずもない。
観客席からは困惑したかのような声と嘲笑がかすかに聞こえてくる。以前瀬川との戦いで感じたものと同じアウェイ感を感じーー
「ショウタさーーん! 頑張れぇぇぇ!!!」
「ショウタ殿ぉぉぉ!! ファイトでござるよ!」
その状況で場違いと言える声が観客席から聞こえてくる。ふふっ、そうか。
訂正する。あの時も、そして今も応援してくれる人はいた。アウェイでもなんでもない。
「ではいよいよ……
試合開始だぁぁぁぁぁ!」




