20.デート
「し……ししし失礼しましたっ!」
顔を真っ赤にしたゆきは勢いよく扉を閉める。……うん、なんかデジャブ。
ってか大丈夫? 俺腹に贅肉とかついてない? ゆきにぶよんぶよんの腹見せてたとか嫌だよ俺。 不安に思い自分の腹部を見下ろしてみると、日々の訓練のおかげか贅肉はほとんどなかった。それどころか少し筋肉もついており、たくましくなっていた。ありがとうおっさん。修行してよかった……
俺は急いで服を着替え、扉を開ける。
するとゆきが扉を背にして体育座りし、目を閉じ両耳を塞いでいた。
……純粋すぎるっすよゆきさん
同じ状況でガン見した俺が恥ずかしくなって来た……。いやガン見といっても実際の時間的には数秒だったけどね。
とりあえずゆきをこのままにして置くわけにもいかないな。かわいいけど。時々ぷるぷると震えていて小動物のように見える。
「おーい、ゆき。もう俺着替えたから。
もう大丈夫だぞー。見苦しいもの見せて悪かったって」
「み、みみみ見てないよ!
翔太の腹筋割れてたなぁとかパンツ黒だったなぁとかそんなの全然これっぽっちも全く見てないよ!」
ああいや……うん……
ゆきもやっぱりガン見してたんだな……
なんだろう。ひねくれた方向への純粋性?
そういえばゆきは昔から嘘をつくのが苦手だったっけ。……
ってか冴えない男の着替え描写とか誰得だよ。
「わかったわかった。
わかったから落ち着けって。
俺そんなに気にしてないから。」
とりあえず顔が真っ赤になっているゆきを落ち着ける。経験則からわかることだがこの場合は罪悪感が凄まじい。
ええ、本当凄まじかったですよ罪悪感。
「で……でもぉ〜」
「あ〜ほら、じゃあさっき俺もゆきの着替え見ちゃったからそれでチャラってことで、な?」
「うぅぅ……わかった……」
まあ俺の着替えとゆきの着替えじゃ全然価値が違うけどね。それこそ白金貨と銅貨ほどの価値の差がある……もっとか。
「よし、それじゃあ行こうぜ
あんまり遅くなってもあれだからな」
俺は座り込んでいるゆきに手を差し出す。
すると差し出そうとした手が豆だらけなことに気がつき、比較的豆の少ない反対の手を改めて差し出す。
なにを小さなことをと思うかもしれないがせっかくのデートなのだから少しはかっこつけたいんだ。こんなゴツゴツな手を見せたくない。
「うん、じゃあ……お願いします」
ゆきが俺の手を取り立ち上がる。
ああ……これだよこれ、恋人っぽい!
そうして俺とゆきは夜の町へと繰り出した。いや、変な意味じゃなくてね?
「やばい……どの店も全く開いてない…」
そりゃそうだよな、日本とは違うんだもんな……
はりきってゆきを誘ってデートに繰り出したはいいものの、いきなり企画倒れしていた。
そもそも開いてる店がない。
やっているのはせいぜい酒場とか娼館とかだけで、どちらもデートスポットとしては全く向いていない。っていうか論外だ。どこの世界に初デートで荒くれ者の集う酒場に入る奴がいるか。例え異世界でもそれはダメだってことくらい流石にわかる。
事前調査とかしておくべきだった……
「ここ……は酒場か、ダメ。ここは……」
「ねぇ翔太」
「ご……ごめんな……
店がどこも開いてないとは思わなくて……
まさか初デートがこんなことになるなんて……」
「ううん、そうじゃなくて」
「?」
「たのしいね。」
「えっ?」
少しはにかむような笑顔でゆきが言った。
その顔は心より嬉しそうな顔で、頬が少し赤らんでいた。
「翔太とこんな風に一緒に歩くなんて久しぶりだもん。昔から私はそれだけでドキドキして……今もとってもドキドキして……ああ、本当に翔太が好きなんだなぁって実感する。」
「あのね翔太。私は翔太と一緒にいられるだけで楽しいんだよ?」
「…………」
「翔太は違う?」
あどけない表情でゆきが俺に問いかける。
……そうだよな。変に気を使わなくてもいい、常に自然体で居られる。当たり前に隣に居られる。そんな彼女だから。俺は好きになったんだ。
「……いいや、俺だってゆきと一緒に居られるだけで楽しいし、嬉しい」
「そっか、よかった。」
それから俺たちは夜の街をたわいもない会話をしながら歩き続けた。世間一般のデートとしてはとてもつまらないものに見えただろう。手を繋いで、ただただ歩くデートと呼べるかもわからないもの。
でも、俺たちにとってはこの上なく素晴らしいデートだった。そう思う。
いつもなら2話くらいに分けてたのですが話が進展しなさすぎじゃね?ってことでデートを一話にまとめました。
分けたら次の更新明日になっちゃうからじゃないよ?違うよ?本当に違うよ?




