2.懇願
「おぉ!よく来てくれた!
救国の勇者達よ!」
先ほどまで教室で授業をしていたのに、気がついたらクラスのみんなと共に映画やテレビなんかで見る西洋の宮殿の一室のような場所に立っていた。
赤い絨毯が中央に敷かれ、その脇には胸にいくつもの勲章をつけ、華美な装飾で着飾った男達が身の丈ほどもある杖を持って直立不動の状態で立っている。
普通はこういうのってフルプレートの甲冑をつけて槍持ってるもんじゃないのかな?
そしてさらにその先、俺たちの眼前には宝石などで細やかな細工がなされた玉座を背に、赤いマントを羽織りこの部屋の中でも一層煌びやかな服を着、長いヒゲをたくわえた恰幅のいい初老の男性が両手を広げてこちらに笑顔を向けていた。
状況を受け入れられず、ざわつくクラスメイト達、そんな様子を気にすることなく初老の男性は言葉を続ける。
「混乱するのも無理はない
ここはグリモリア王国。お主達が暮らしていた世界とは違う世界に存在する国家である。」
その言葉に全員大きな衝撃を受けたようで、「異世界……!?」だの「えっ? えっ? どうしよう翔太」と言った声が聞こえてくる。
うん、やっぱりゆきは可愛い
まあそれは置いといて、かく言う俺もかなり動揺している。今ネット小説とかでこういうの流行ってるらしいから聞いたことはあったがまさか自分が体験することになるとは思わなかった。 内心ビックビクだよ。なにこれ超怖えよ。
そうは見えないって? ゆきの前でカッコ悪いとこ見せられないからだよ。
「そしてワシがグリモリア王国38代目国王、エリモール・グリモリア38世である。お主達にはこの世界に現れた残虐な魔王を討伐してもらいたいのだ。」
いかにもな名前を名乗った初老の男性……王様がいきなり爆弾発言をする。
討伐って……これに異を唱えたのは瀬川だった
「僕たちは勇者なんかじゃないですし戦ったりもできません、これはきっと何かの間違いです。どうか僕たちを元の世界に帰してもらえませんか?」
瀬川が発言すると同時にクラスメイトが急に静かになり、瀬川と王様に注目する。さすが瀬川。こんなわけのわからない状況でも落ち着いて自分の意見を伝えている。
しかし王様は申し訳なさそうな顔になり、瀬川の問いに答える
「すまぬがそれはできぬのだよ
この世界とそちらの世界を繋げるのは我が国が誇る優秀な魔法使いがやってくれた。しかしその魔法の代償により命を落としてしまったのじゃよ……召喚魔法を使えるのは死んだその魔法使いだけ。故にもう我々にはお主達を元の世界に戻してやる方法はないのだ……」
「なっ……そんな無責任な!」「ふざけんな!」「帰して!私達を家に帰してよ!」「そうだそうだ!」
王様の言葉に一拍置いたあと、怒号と共に色々な反論が飛び交う。
そりゃそうだろう。ほとんど誘拐だもん
家族と会えなくなるのは……辛い。
「本当に申し訳ない! 誠に身勝手な頼みとは思うが我々に力を貸してはくれぬだろうか! そなたらは我が国の希望なのだ。もちろん最上級のもてなしもする、元の世界に戻れるように手も尽くす、だからどうか……どうか頼む!」
「なっ!? おやめください国王様!
一国の主がこのような場所で頭を下げるなどと……」
多くの罵声が飛び交う中、王様が俺たちに頭を下げて頼み込む。国の王がこんな場所で頭を下げるなどありえないことらしく、周りの家臣達が必死に止めている。まあ悪い人ではない……のか?
その雰囲気に押されたようで瀬川が少し弱々しくなった声で続ける。
「で……でも僕たちは平和な世界から来たんです。戦う力なんて……」
「いや! お主達の世界の人間はこちらの世界の人間より魔力の貯蔵量が数倍は多い! そして各々が特別な魔法を持っているはずだ! その魔法を使えば魔王とも戦えるはずである!」
その言葉に、瀬川は少し考えるような仕草を見せた。どうやら迷っているようだ。
まあそりゃ特別な魔法とか言われたら気になるわな。ってかやっぱあるんだな。魔法。
「……わかりました。僕でよければ協力させてもらいます。」
瀬川が折れたように肯定をする。
しかし少しワクワクしたかのような顔をしている。わかるよ、男の子だもんね。
「みんなも協力してくれないか!
みんなの力を合わせて戦おう!」
「瀬川くんがそう言うなら……」
「そうだな! やったろうじゃねぇか!」
「ここでやらないとか男じゃねぇよな!」
「ありがとう! みんな!
一緒に魔王を倒そう!」
「「「「おー!」」」」
……何この青春ドラマみたいな展開
いや別にいいけどさ、協力するならするでいいけども、ゆきもやる気っぽいし。
ああもう控えめにおーとか言っちゃって可愛いなあ。抱きしめたいわ。
主人公含めチョロすぎますね
なんだこいつら