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168.竜骨の泉

ようやく一章が終わった


 魔獣(翔太)が目覚めると瞬時に目の前のガルムの元へと駆け、そして力任せに剣を振り回す。技術も何もあったものではない斬撃が目の前のガルム達の体を容易く両断した。



「「「グルルァァァァォァァァァ!!!!」」」



 もはや誰のものかも分からぬ叫び声。それが自らの咆哮であると認識するよりも早く斬り伏せ、薙ぎ払い、貪り喰らう。凄まじいほどの速さで命が消え行き、やがて数十体の魔獣達の軍団はたった一人の獣に全滅させられた。



「アァァッ! アァァッァァァァッッッ!!!」



 獣はその場にただ一人残った人間のもとに歩み寄り、剣を振り上げる。しかし自らの首を締め上げ、腕を必死に抑え込みその行動を自ら阻害する。自らの本能を上回る何かが目の前の獲物を殺すことを拒否していた。



「アァァッ殺……させるかっ!! やめっ……ろぉぉぉ!!!!!」



 自らの爪が首筋に食い込む。冷たい血が指を伝って腕まで流れ、肘から地面に滴り落ちる。


 その状態が十数秒ほど続くと、腹部から次第に体が冷たくなっていく。その冷たさは腹からじわじわと広がりやがて全身から熱気が消える。


 肺が酸素を取り込めなくなり、体に酸素を供給する血が枯渇し、とうとう終わりの瞬間が近づく。獣の意識がぷつんと絶たれ、武器を持ったまま腕がだらりと力なく崩れる。

 かろうじて開かれていた獣の目に最後に映ったのは美しい少女のぱっちりと見開かれた瞳だった。





 少女が目を覚ましてすぐ、回復魔法を展開する。しかしもはや少女の体に魔法を展開する代償となる魔力はほとんどなく、このままではまともに魔法が発動しない。しかし目の前の少女は当たり前のように魔法を展開し、翔太の傷を癒した。


 『神剣スピリトゥス』。勇者ガイラスより託された伝説の剣。それに宿る魔力を操り魔法を展開させたのだ。

 無意識下で行われた魔力節減、魔力転泉の効果により神城ゆきは魔力0の状態でありながら翔太の命を繋ぎとめることに成功した。


 

「死なないでって……言ったのに! あんなに……何度も言ったのに!」



 新たに現れる魔物たちも、いつのまにか自分が泉のほとりにいることも忘れ魔法構築に全力を注ぐ。そして再び自身が包囲されたところで、ようやく自らの危機に気がついた。



「もう……なんなのっ!」



 自らの内側から湧き出る感情。それは翔太に対する慕情でも愛情でもない。溢れ出る怒りの感情が神城ゆきにさらなる成長を促した。



「《近寄らないでっ》!」



 周囲の死体を乗り越えて遅いくる新たな魔物達、それら全ての動きが止まる。何か特別なことをしたわけでも無い。ただそう叫ぶだけで魔物たちはじりじりと後退し、その場から去っていった。


 

「ほんと何なの……何処なのここぉ……」



 最後にこぼれた少女の問いに応えるものは何もなかった。


 古の龍が眠る場所。「竜骨の泉」。

 そこには数十種に及ぶ魔物と、一種の龍種がひしめく魔境。命惜しくば決して立ち入ることなかれ。一度立ち入れば骨となるまで食い尽くされることだろう。






[そういえば隊長、あの二人を竜骨の泉に送ってもう一月経ちましたよ。迎えにいかなくていいんですか?]


[いい。こっちからあいつらを迎えにいく必要はない。]


[えー……この間あの男の子護衛隊に入れるみたいなこと言ってたじゃないですか。あれ嘘だったんですか?]


[嘘じゃない。ただあいつらが自分から出てこれるようになるまで放置するってだけだ。時間が来れば帰ってこられるような山籠りを修行とは呼ばないだろ。]


[相変わらず鬼ですね……バーティカの山籠りを思い出しますよ……]


[やってることは同じだ。あ、ザッドの駐屯員にあいつらが街に来たら王都まで連れてきてくれって連絡を入れといてくれ。]


[了解しました。ですが戻ってこれるとは……]


[戻ってこれなかったらそれまでだ。一応1年までは待つ。]


[……戻ってこれることを祈ってますよ]







 

次から視点が変わります。

第二章です。

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