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164.狂獣


[これは……]



 ようやくクルニードの本家からアースガルドの元に向かう許可をもらい、俺が屋敷に辿り着いたのはあれから約2時間ほど経った後だった。

 屋敷に着くと、まず強烈な違和感を感じ取った。それは戦場でよく漂っていたいわば死臭とでもいうような異様な空気が屋敷から流れてきていた。



[隊長。これは……]



 連れてきていた部下達も同じものを感じ取ったようで、俺に判断を求めてくる。……まさかとは思うが……



[先頭は俺がいく。お前達は後ろから援護しろ。]


[了解しました。周辺被害はどこまで許可されていますか?]


[可能な限り被害を出すな。できることなら家の名前も悟られたくないそうだ。]


[了解しました。失礼します。]



 全員の準備が整ったのを確認し、屋敷に向けて全力で飛び込む。一段と濃くなっていく死臭と殺気を感じながら扉を蹴破り、中に入ると同時に剣を構えた。



[ショウ……タ……?]



 目の前には血塗れのショウタが剣を携えて立っていた。いや、姿形はショウタでも立ち昇る気配はまるで別物だ。そしてそれを証明するかのように奴の足元にはズタズタに千切られ、切り裂かれ、砕かれた人間だったと思われる残骸が散らばっていた。



「あ゛ぁ?」


[……ッ! 全員構えろ!]



 ショウタがこちらを見ると、強烈な殺気と共に手に持っていた剣を無造作に投げつけてくる。飲まれやがったか……身体能力も上がってやがるな……でも狙いが粗末だ。その剣はあらぬ方向に飛んでいき、殺気だけがこちらに当てられた。



[あ……ぁぁ……]



 後ろから気の抜けた声が漏れている。おそらくショウタの殺気に当てられ戦意を失っているんだろう。だがそんなのに構っている余裕はない。距離を詰めてきているショウタの腹に思い切り掌底をねじ込んだ。

 


「グゥッ! ガアッ!」


[くっ……《青・水牢》」



 それでも止まることなく前進してくるショウタに接している右手を起点に青の魔法を展開する。それにより発生した水球に封じ込め、身動きを完全に静止させる。これで詰みだ。



[なっ……!?]


「ジャァァァァァッ!!」



 しかし水牢を殺気と力で弾き飛ばす。魔法も使わず……そんなのありか! チッ……こんな状況だってのに……


 顔面を蹴られ、後ろに吹き飛ばされる。構えも何もない適当な蹴りで、後ろの部下達数人を巻き込んで屋敷から外に飛ばされ、さらに庭まで転がされた。化け物かよっ!



「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



 そして獣のような叫び声を上げ駆け寄ってくる。本当にぶっ壊れてやがる。ならっ……!



[これだっ! 《黄・青・泥土路》《赤・緑・豪炎回帰》]



 黄と青の複合魔法。これでショウタの足元の土を緩ませ、踏み込みを殺す。そしてその周囲を緑を混ぜ強化した赤の炎で包囲し、ショウタを飲み込む。さあ……どう来る! 



[やっぱりそう来るよなぁ! ショウタァ!]



 真正面から飛び出してきたショウタの拳を剣で受け止める。やべぇな、楽しくなってきちまったじゃねぇか!


 一転してショウタの猛攻を剣で受け流す。ショウタの腕が剣に当たるたび、血が舞い散るがショウタの動きが止まる様子は全くない。



[……ッ! 《青・赤……]



 一瞬。ほんの一瞬油断をしていた。偶然か意図的か、ショウタの血が俺の目に入り、視界を潰される。しまっ……


 そう気づいたときにはもう遅かった。最初に鼻に強烈な衝撃が襲いかかり、次に顔、そして鳩尾と続いていく。痛みが届いたのは地面に倒れ伏してからだった。



[隊長!]


「グルルァァァァッ!」



 ショウタがこちらに向かって突進してきているのを感じる。まともに前は見えないがそれくらいはわかる。まさかここまで……



 いつのまにか翔太が持っていた剣でシュヴァインの心臓を貫く。



[上手くいくとはなぁ! 正直ハラハラしたぜ!]



 しかし周りにいた部下達が見たのは貫かれたシュヴァインではなく、翔太を横薙ぎに斬り払うシュヴァインの姿だった。突然何もないところ目掛けて刺突を放った翔太に皆困惑する。



[青・赤・蜃気楼……ってなぁ! まさかここまで魔力使うことになるとはなぁ!]


「グゥッ!?」


[龍真流・斯応]



 吹き飛ばしたショウタ目掛けて手に持った剣を全力で投げつける。蜃気楼の残滓を再利用し、距離感を狂わせた投擲は回避を許さず翔太に突き刺さった。



[叢雨! 枝垂! 紅燐ッ!]

 


 そして突き刺さった剣の柄に掌底、蹴り上げ、踵落としと止むことのない打撃の嵐を叩き込む。ひとしきり傷口を抉りまくった後、ショウタの肉から剣を居合い抜いて距離を取る。



[……はっ、まだ動くかよ]




 もはや声すらかすれてまとめに発せられない。しかしその殺気だけは一向に弱まることなくこちらに向けられ、ボロボロの肉体を突き動かす。



[ならこの一撃、凌いでみろ。正真正銘全力の一撃だ。]



 本来ならば死に体の人間……それもここまでレベルの違う相手に放つ技じゃない。それでもこいつなら……ショウタならと心が躍り、構えをとる。一般的な居合の構えから放つ最強の斬撃……



[『玄龍一閃』]



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