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161.襲撃者の正体


[ショウタ! どうすればいい! お前の傷はどうすれば治せる!]



 自身の持ちうる回復魔法を試し尽くし、それでも傷の言えない翔太を見てシュヴァインが声を荒げる。なにせこのままいくと翔太は間違いなく死ぬ。脇腹から溢れ出す血がそれを証明していた。



[落ちっ……つ……がはっ。懐の……丸薬……]



 翔太は懐に手を忍ばせると、そこから一つの巾着袋を取り出す。以前に比べると膨らみの減ったその袋は、しかしそれでもまだ少量の膨らみを残していた。



[これか! これを飲ませればいいのか!?]


[た……のむ……]



 間髪入れずにシュヴァインが巾着袋からニコの丸薬を取り出し、噛み砕く。そして飲み込みやすくし、無理やりに翔太の喉に流し込んだ。



「ゴホッ……ゲホッ……腹減った……」



 すると翔太の傷はみるみるうちに塞がり、同時にやつれていく。最終的に傷は全て塞がったが、その代償に翔太はもう一歩も歩けないほどに衰弱していった。



[お前……なにそれ……]


[詳しい説明は後でいいか……? なんか食うもの持ってない?]



 自分の服の中になにか食べるものがないかと探ってみるも、なにも見当たらない。そりゃそうか。着の身着のまま飛び出したんだからむしろニコの丸薬が入っていただけ運が良かった。



[何がなんだか……紅茶と茶菓子ならある。これでいいか?]



 シュヴァインが魔法を展開し、ティーポットと小菓子の乗ったメタルラック、そして机と椅子をその場に呼び寄せる……なにそれぇ……



[……まさかお嬢様用に準備していたティーセットをこんな時に使うとは思わなかったよ。]



 茶菓子を手当たり次第に口の中に詰め込み、その上から紅茶で流し込む。おそらく高級品なんだろうが正直あまり食った気がしない。ニコさんの家の近くで食った肉が食いたい。


 

[……悪い。助かった……]


[……全部食うとは……まあいい。それより今はこっちだ。]


[ぎっ!?]



 シュヴァインが手に持った剣を投げつける。すると投げつけた剣が這って逃げようとしていた生き残りの足を貫通して地面に突き刺さった。



[逃すわけがないだろう。誰の命令でこの屋敷に攻め込んできた。]


[足っ……ぎいぃぃっ!!!?!?]



 シュヴァインは質問に答えず自分の足に刺さった剣を抜こうとする襲撃者の手ごと剣の柄を蹴り付け、襲撃者の傷口をひろげる。えげつな……



[これ以上無駄な時間を使わせないでくれよ。俺だって別にお前の両手足を切り落としたいわけじゃねぇんだ。さっさと話してくれればこれ以上なにもしねぇよ。]


[ほ……本当……うぎぃぃぃっっ!!!?!?]



 襲撃者が話しかけるとシュヴァインが今度は足を踏みつけ、傷口から血を溢れ出させる。



[二度同じことを言わせるなよ。誰の命令でここに来た?]


[アークガルドだ! ガルデン商会の長、アークガルドの命令だ!]



 襲撃者が情報を吐くと、シュヴァインは剣を引き抜く。



[はぁ……はぁ……痛ぇよぉ……回復魔法を……ッ!]



 しかし今度は足の付け根に剣を横にして突き刺す。



[駆け引き打つのも大概にしろよ。死にたくなけりゃお前の知りうる情報を全て吐け。聞かれたことだけ答えて終わるわけねぇだろ。]


[あぁぁぁぁっ!! すいませんっ! すいませんっ! えっと……協力者! アークガルドはクルニードの家に協力者がいるって言ってました! そいつを使うって……]


[協力者だと? そいつの名前は?]


[知らないです! 本当です! 嘘じゃない……いぁぁぁぁぁっ!!!?]



 目の前で繰り広げられる拷問めいた尋問に思わず目を逸らし耳を塞ぐ。数分した後にシュヴァインが俺の肩をつかみそのまま走っていく。



[なっ……えぇ!? どこ行くんだよ! おい!]


[悪いが説明している暇はない。全力でついてこい。《緑・二重加速》]



 シュヴァインの魔法により自身の知覚の限界まで強化された脚力で市街地を駆け抜ける。そして駆け抜けた先、もう一つのクルニードの邸宅に辿り着く。



[おい! シャルロッテお嬢様はどこにいる!?]



 そして玄関先で掃除をしていた使用人に掴みかかり、息を切らしながら怒鳴りかける。



[へぇっ!? シュヴァイン様!? お嬢様はここには来ていませんが……]


[……くそがっ!]



 シュヴァインが苛立たしそうに屋敷の囲いを殴りつける。それだけで石造りの囲いに罅が走り、細かな石片が崩れる。……まさか。



[すぐさま学園都市から外への関門を封鎖! それから護衛と信用のできる冒険者を集めろ! お嬢様が誘拐された!]



 シュヴァインの焦り声とその内容は、予想していた最悪の事態の発生を伝えるものだった。

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