表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/174

160.やりたいこと、できないこと

これ絶対完結してから読んだほうが楽な気がする


 ゆきが部屋から出て行った後、ベッドの横に立てかけておいた剣を手に取る。おっさんの形見でもあるその剣は、やはりよく手に馴染んだ。いつもならこれから素振りをするのだが……



「ふぅ……もういいか。」



 最低限感覚を確かめる程度の素振りだけ行いすぐに剣を下ろす。俺ももう十分に強くなった。魔王や勇者といった化け物連中には及ばないがその辺の魔物や盗賊程度に遅れはとらないだろう。ゆきが俺の戦う姿が嫌いだというなら、もうこれ以上はいらない。



「……やたらと夜が長く感じるな。スマホは……城に置いてきたままだったか、なんもやることねぇや……」



 ベットに倒れ込みこの世界に来てからの色々を思い返す。最近はこんなことばっかりだな。あのあと城はどうなったんだろ……国王が死んで王女が失踪……ってまあ一人っ子っわけじゃないだろうから案外適当なやつに王位継承してうまくやってんだろうか。魔族の目的はゆきだったんだから別にあれ以上グリモリアに干渉する気はないはずだ。


 ……そうだ、ゆきだ。あの時フォルセティが言っていた、ゆきが神の分体だって……神? ゆきが? だからゆきを狙って……そして殺し続けた。神の力を奪うためだけにあんな機械につないで、記憶がなくなるほどずっとずっとゆきを苦しめて……



「くそっ、なんで……」



 これ以上ゆきを苦しめたくない。そのためにもこの世界から一刻も早く逃げ出さなきゃならない。


 でも、俺はおっさんの遺志にもフォウル達の覚悟にもタドムの気持ちにも応えたい。他のクラスメイト……苦手だがそれでも助けたい。もちろん坂本も。

 あの時こそ俺は坂本のことを許せないと思っていた。今も完全に許せているわけじゃない。でも……それでも俺はやはりあいつを見捨てられない。どうしても親友としての坂本弘樹を忘れられない。それら全てがゆきを危険に晒すとわかっているのにだ。


 ……捨てられるか? 俺に。その気持ちを。



 そんなことを考えていると、ふと何か異質な気配を感じとる。夜だというのに多くの人の気配がこの屋敷に入ってくる……またシャルロッテがワガママ言ってんのか?



 しかし屋敷に爆音が響き、多くの足音が聞こえたところで翔太も流石に異常を感じ取り、外の様子を窺う。



「なんだ? まさか……」



 万が一の可能性を考え、翔太は剣を持って屋敷内を走る。その道中明らかに見たことのない武装した連中が屋敷内を駆け回っていることに気が付き、翔太の不安をさらに加速させる。

 そして翔太が目的地にたどり着くと、声を張り上げて扉を叩く。



「ゆきっ! 無事かっ!? 無事なら返事をしてくれっ!!」



 しかし何度呼びかけても部屋の中からの返事はない。翔太の叫び声とドアを叩く音が周囲に響き、武装した連中を呼び寄せる。



[おい! 一人いたぞ!]


[リストにない……部外者だな。とはいえ生かしておく必要もない。《フレイムランス》]



 翔太が構えるよりも早く襲撃者の手から炎の槍が射出される。構えの途中で放たれた炎の槍を回避しようと無理な体制で大きく距離を取る。



[お前ら何者だ! 何が目的だ!]


[ 《メテオストレート》]

[ 《フィアフレイム》]



 回避した翔太が襲撃者に語りかけるも、それに取り合うことなく二人は距離を詰め、更なる魔法を繰り出す。

 正面からは岩の塊が飛来し、床からは複数の小さな炎が噴き出す。翔太はその全てに過剰に反応し、両手足を使い跳躍することで回避する。


 しかしそれすらも読まれていたのか翔太の真正面に距離を詰めていた襲撃者二人が手持ちの剣で斬りかかる。



「……ッ! がぁっ!?!?」



 それでも翔太はまだ反応していた。手持ちの剣でその二つを弾こうとするも、どちらも弾こうとするあまり逆にどちらにも迎撃が間に合わず両脇腹を挟み込むように叩きつけられる。しかし翔太の胴体は千切れることはなく深傷を負うに止まっていた。刃が潰れていたからか、それとも翔太の肉体が鍛えられていたのか、はたまたただ運が良かったのかはわからないがそれでもなんとか翔太は命を繋いだ。



[まだ生きてやがる……おい! 次で仕留めるぞ!]


[わかってる!]


「しまっ……」



 襲撃者達は翔太の肉体に埋まってしまった剣から手を離し懐から取り出したナイフで翔太の心臓を貫きにかかる。白刃が翔太の心臓めがけて推進するが……



[間に合ったか? ショウタ。]



 その刃は翔太に届くことはなかった。突如翔太と襲撃者の間に割って入ったシュヴァインが2本のナイフの突きを一本の剣で受け止める。そしてそれと同時に3色の魔法を展開する。



[緑・黄・青《流砂嵐》《治癒》」



 剣を扱いながら、複合魔法と単発魔法を2種類同時に扱う。それにより襲撃者は砂利を含む突風により吹き飛ばされ、翔太は自身のHPを回復させられる。しかしHPのない翔太には効くことはない。



[……ん? なんだショウタ。お前回復してねぇのか?]


[悪い……回復魔法は俺には効かねぇんだ……それよりゆき達は?]


[安心しろ。カミシロ達4人とお嬢様はもう一人の護衛の固有魔法で避難させた。この屋敷に残ってるのは俺達だけだ。]


[そうか……よかった。]


[それじゃあ後は俺に任せて休んでろ。《四皇結界》]



 シュヴァインが魔法を展開すると翔太の周囲を四色の魔法のキューブが覆う。そしてその効果を確認するとシュヴァインは集まってきた他の襲撃者に剣一本で向かっていった。



[シュヴァイン! 流石に一人じゃ……]



 翔太はシュヴァインの身を案じるも、すぐにその心配はすぐさま霧散する。魔法を使わずともシュヴァインは相手の魔法を全て剣一本でいなす。魔法を切り裂くのではなく、剣先で軌道を変え後ろに流す。そして距離を詰めると急所に的確な一撃のみを加え、すぐさま防御に剣を回し自らの隙を限界まで潰すように立ち回る。それはまるで予め練習してあった殺陣のようで。無駄のない動きで相手を圧倒していた。



[くそっ! 《フレイムラ……》があぁっ!!]


[クルニードの家に弓を引きあまつさえその客人に手を出したその蛮行。死をもって償え。]


[にっ……逃げろ! こんな化け物……ぎゃぁぁぁぁっ!!]


[開かねぇ! なんでだよっ! 扉開かねぇ……やめてくれ! やめ……]



 逃げようとするものも、立ち向かってくるものも。近距離の敵は急所を切り裂き、遠距離に逃げるものは懐のナイフを投擲し距離を潰す。それでいて自らの剣の動作も最小限にしてあるため、無駄に疲れることもなく翔太のように次の手が潰されることもない。



「すげぇ……」



 一撃一殺。無駄のないその剣はガイラスのような剛の剣ではなく言うなれば柔の剣。しかしその完成度はガイラスと並ぶほどのものだった。初めて翔太はガイラス以外の剣に見入っていた。


 そして数十分もしないうち、屋敷の中に数十人いた襲撃者達は一人を残して全て血の海に沈められていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ