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159.妖しい夜


「じゃあこのままデート……と行きたいところだが金がねぇな。帰るか。」


「肝心なところで全然かっこつかないね。」


「それが(大宮翔太)だよ。」


「なんかすっごい納得した……」



 帰る際にゆきの手を取り、二人で学園の街並みをただ歩く。するとなんだか懐かしくて、それだけで幸せで。自然と笑みが溢れる。



「どうしたの?」


「昔……っても1ヶ月くらい前な。ゆきと一緒に王都の街をこうやって歩いたことがあったのを思い出したんだよ。」


「そんなことあったんだ……ごめん、全然思い出せないや。」



 あの日の夜、確か坂本に貨幣価値を教えてもらった後、おっさんに城の外出経路を教えてもらってったんだよな。服とかも何着て行くか考えて……でも制服以外の選択肢がなくて……



「初めてのデートだっつってさ、意気込んで外出たら酒場とか風俗とかばっかで店に入れなくてさ、夜の街をこうやって二人であてもなく歩いてたんだよ。その時ゆきなんて言ったと思う?」


「んー……翔太くんが好きなら、楽しいねって普通に楽しんだんじゃないかな?」


「まさか正解するとは……よく考えたら記憶なくしただけでゆきだもんな。そりゃ当たるか。」



 そう言いつつも嬉しかった。あのときゆきが言ったことが嘘じゃなく、本音だったことを再確認できた。やっぱりゆきは俺のことを好きでいてくれたのだと。



「でもこうやって聞いてたら何か思い出しそう! もっと色々思い出話聞かせてくれないかな?」


「もちろん。ゆきとの思い出話なら一日中語れるよ。んじゃまずは初めて会ったときのことから……」


「うんうん。」



 そうしてゆきとの思い出を半分ほども語り終えた頃、いつのまにか俺とゆきは自室に帰っており、さらには夜もどっぷり更けていた。……俺こんなに夢中で話してたのか……



「それじゃあ私翔太君に嘘つくためだけに家族のご飯作らずに家出てきちゃったの!?」


「そうそう。……ってもうこんな時間じゃん。話しすぎたな。ごめん。」


「えっ……うわ、本当だ。もう夜だったんだ……一緒に寝る?」


「えっ……はっ!? はぁっ!?」


「あははっ! すっごい照れてる! 顔真っ赤だよ!」


「からかうなよ……そんなん好きな子に言われたら照れるに決まってんだろ……」


「まー私と一緒に寝たければ……」



 ゆきは俺の手を取り、自分の胸に触れる寸前まで手のひらを近づけ……ってはぁっ!?



「私をときめかせてみせて。その時がきたら私の心臓の音、聞かせてあげるから。」


「おまっ……性格変わってない!?」


「あはははっ! ごめんね……顔真っ赤にして反応する翔太君がちょっと面白くて……」



 ってか手! 手! 危ない! もうちょいで当たる! 当たれ!



「じゃあ私部屋に帰るね。翔太君、また明日。」



 部屋から出た神城はそのままドアに背を当て、真っ赤になった顔を隠すように両手で顔を抱えた。



「……やりすぎたぁ……恥っずかしぃ……」


[やっと終わったか! 待ちわびたぞ!]


「ひゃっ……[ってシャルちゃん……なんでここに?]」



 突然声をかけられ神城が顔を上げると、そこには両腕を組み仁王立ちしているシャルロッテと、その側に立つシュヴァインの姿があった。



[あまりにも帰ってくるのが遅いとお嬢様が仰られた為無粋かと思いましたが探させていただきました。]


[さあ! どうなったのか! さっさと妾に聞かせるのじゃ!]


[えっとね……ちょっとここじゃ話しにくいから部屋まで戻ってからでいいかな?]



 翔太君に聞かれたくないようなこともいっぱいあるし……っていうか顔を離した途端恥ずかしくなってきた……



[うむ! それでは参るぞ! ついて参れ!]


「ねぇ、眠いんだけど。なんで私も連れて行くわけ? 今から何をするわけ?」


「シャルロッテ様が部屋でカミシロの恋話を聞くらしい……」


「あの……別に私翔太君のこと好きじゃないからね……?」



 なんだか流れに流されて翔太君にもそれっぽい感じで話しちゃったけど別に本当に好きなわけじゃない。……正直今更恋人面されたらどうしようかと思ってたけど……関係はリセットできてたみたいでよかった。



[ほら! 部屋についたぞ! その続きは部屋の中で話せ!]



 そんなことを話しながら歩いているとものの数分でシャルちゃんの部屋まで辿り着く。私や翔太君の部屋より二回りも大きなその部屋は、扉からしてもう既に豪華な雰囲気が漂っていた。


[それではシャルロッテ様、カミシロ様、アンナ様、カガワ様。おやすみなさいませ。]


[あっ、おやすみなさい。]

「おやすー」

[ありがとうございます。おやすみなさい。]

[うむ。下がるが良い。]



 頭を下げたままシャルロッテ達が部屋に入るのを確認すると、シュヴァインはシャルロッテの部屋の前に椅子を置き、目を瞑りそのまま周囲に注意を向ける。






 時を同じくして学園の敷地の片隅、シャルロッテ達が暮らす屋敷とは正反対のボロ屋で一人の男が両目を手で覆い魔法を発動させていた。



[ガキに付いてるのは女が3人、それと護衛が2人ってとこだな。同じ屋敷の別部屋にもう一人男もいる。]



 目を瞑ったままの男が、それでも何かが見えているように話す。



[どれが1番厄介そうかね?]



 そしてそれに応える嫌らしい笑みをしたもう一人の男は嬉しうに指で頭を叩く。



[護衛の男だな。もう一人の護衛の女はともかくそれ以外は雑魚そうなガキばっかだ。]


[そうかいそうかい。そりゃ楽でいいねぇ。人足はどのくらい集まったかねぇ?]


[ざっと100人と言ったところだなァ。ほとんど数合わせのごろつきどもだが数は重要だからな。それに……]


[ええ、ええ。100くらいならワシの魔法で動かせますからなぁ。ちょうどいい塩梅ですわ。]


[それじゃ始めようぜ。いい加減興奮が抑えらんねェよ……]


[んっふっふっふっ、そうですねぇ……]



 目を瞑った男がカッと目を見開くと、獰猛な笑みを浮かべる。異なる二つの笑みを浮かべた男達の笑い声が廃屋に静かに木霊する。シャルロッテ暗殺計画が始まる。

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