157.二日酔い中の賢者モード
「んー……朝……?……あたまいたぁっ……」
翔太が目を覚ますと、豪華な部屋の一室だった。天蓋のついたベッドで目を覚ました翔太は頭痛の原因である昨日のことを思い出し頭を抱える。
「なんで俺あんなに……恥っず……」
どうやら翔太は酔っても記憶がはっきりしているタイプだったようで、昨日のこともしっかりと覚えていた。
昨日の恥ずかしい自分と、絶え間なく襲いかかる頭痛と吐き気によって翔太は酷い自己嫌悪に陥る。
[おーい、起きてるかー。入るぞー]
3度のノックの後、間を置かずにシュヴァインが入ってくる。その手には水差しとカップの乗ったお盆が持たれていた。
[あー……何?]
[何じゃねぇよ。水持ってきてやったんだよ。昨日あんな飲み方しやがって……]
[あぁぁぁぁ……忘れてくれ……]
水を渡されると同時に翔太は自分の顔を押さえて蹲る。恥ずかしがる翔太を見てシュヴァインは顔を大きく歪めた笑い顔になる。
[いやー……忘れらんねぇだろ。いきなり隣のおっさんの酒飲みだすししかも隣のおっさんと意気投合しだすし……何だったんだよあのおっさん。知り合いか?]
[おっさん……? なんか話したような覚えはあるけど……何話したっけぇ……]
[いや聞いたぞ。あのおっさんの返事聞いた感じお前カミシロとどう関わったら良いか分からないみたいなこと言ってたみたいじゃねえか。]
[ええ!? 俺そんなこと言ったの!?]
全然覚えてな……いや! うわぁぁぁ!! なんか覚えてるぅ! そういやなんかゆきとまともに話せないみたいなこと言ったぁっ!! だれあのおっさぁぁぁん!!?
[確かにお前カミシロのこと彼女って言ってたくせに全然喋らねぇもんな。てっきりショウタの妄想かなんかかと思ってたわ。]
[酷ない?]
[よし、せっかくお嬢様のお守りしてくれてるんだ。ここは一肌脱ごうじゃねぇの。]
[えっ?]
「大丈夫かな……口とか……臭くねぇよな?」
あの後、シュウがゆきと二人で話せるようにシャルロッテを説得してくれると言ったのでその言葉にありがたく全力で甘えさせてもらうことにした。説得が成功したら呼びにきてくれるらしい。
「だめだ全然わからん。」
これ以上身嗜みについて考えてもラチが開かないのでもう諦めてベッドの上に体を投げ出す。カチ、カチとなる時計の針の音、待つ時間の1秒1秒を長く感じながら思考の海に落ちる。記憶をなくしてからゆきにはなんだか避けられてるような……っていうか確実に避けられてる。
「まあ当たり前か……」
ゆきと再開してから、どう接したら良いのかわからず、会うたびゆきを追いかけ回していた。
ゆきは嫌そうな声を上げて逃げ回るけど、その声もその感じも全部ゆきのままで、何よりゆきが俺を認識してくれるのが嬉しくてついついやってしまって……ってよくよく振り返ると最低じゃね? ってか変態?
自分の行動に後悔しながらベッドの上をのたうちまわっていると、部屋のドアが小さくノックされる音がする。ようやく来たことに喜びと不安を感じながらドアを開ける。
「えーっと、こんにちは?」
「えっ?」
そこにはシュヴァインではなく、神城ゆきがいた。
[シャルロッテ様。昨日はいかがでしたか?]
[うむ! 非常にたの……有意義な時間であった! あ奴らならば妾の側近にしてやっても良いな!]
軽く言ってくれるがお嬢様が楽しいなんて言いかけるのはほとんどない。それほどまでにカミシロ達のことが気に入ったのだろう。まあそれは俺も同じだが。
ショウタは面白い奴だ。俺はあいつの戦い方を見せられた瞬間、ショウタに興味を持った。
別段剣の腕があるわけじゃない。確かに才能はあるがあの程度ならいくらでもいる。それでもあいつの剣には、剣だけで生きてきた俺とは違う何かがあるように感じた。
だからだろうか、俺はあいつの行く先を見てみたくなった。
[実はそのカミシロなんですが……ショウタの彼女らしいんですよ。なので……]
[なんだ! シュウも知っておったのか! 妾も昨日カミシロから聞いての! ちょうどカミシロにあやつのところに行かせたところじゃ!]
[えっ?]
「えっ?」