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154.翔太調子にのる


 予想以上にみすぼらしい教室に若干の不安を感じつつ翔太は扉を開く。



[失礼しまーす]



 しかし扉を開いた先には誰もいなかった。外見から想像した通りの手狭な部屋の中心には長テーブルが設置されており、その両側には椅子が4つ取り付けてある。扉の横含め部屋の壁一面は本棚となっており、天井まで壁一面部屋を本が覆っていた。


 ってか前々から思ってたけどこの辺りだいぶ文明レベルが高い気がする。机とかも学校で使うパイプ机に似た材質のものだしここにくるまでも白熱電球みたいな照明もいくつかあった。

 それに何より紙だ。グリモリアでも紙はあったがこちらの紙の方が質は高い。こちらの紙は薄く、本をめくった感覚もさらさらと柔らかい。多分この国の技術力の方がグリモリアよりも高いんだろう。別にグリモリア出身じゃないはずなのに妙な敗北感を感じるな。



[お疲れ様で……ってえ、誰ですか?]



 後ろから声がかかり振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。年の頃も身長も多分俺と変わらない程度だが、一つだけ絶対的な違いがあった。その頭の上に犬のような耳が付いている。



[……えーっと、犬?]


[いや確かに犬人族ですけど犬呼ばわりはないんじゃないですか。というより君は誰ですか?]


[俺は大宮翔太。クルニード家の客人……みたいなもんだ。個人的にここの教室に興味があって……っておい、なんだその態度は。]



 俺が話している途中に目の前の犬耳の少年は土下座をしていた。いつのまに土下座したのかわからないほどの速さだ。どんだけだよ、あのわんぱくお嬢様。



[ク……ククククルニードの家の方とはつゆ知らず! 大変申し訳ございませんでした! 私に出来ることならなんでも致します! ですのでどうか……どうか私めにご慈悲を……]


[いや俺はクルニードの家の客人であってあのワガママ娘の同類じゃないから。そんな身構えないでいいよ。]


[そんなわけには……く……靴を! 靴を舐めさせてください! お願いします!]


[やめろ! 舐めるな! 汚ねぇ! そんなことじゃなくて話聞かせてくれるだけでいいから! ちょっと教えて欲しいことがあるんだよ。]


[なんでもお聞きください! 生まれ性別身長体重交友関係僕の秘密に至るまで何一つ隠すことなくお話しさせていただきます。]


[そこまで求めてねぇって……まあいいや、それじゃ教えてもらいたいんだけど固有魔法で転移魔法って知ってる?]


[はい! もちろん存じ上げております!]



 俺がどう話しても目の前の男は頭を上げようとしない。もうちょっと面白くなってきたからこのままでいいや。面倒だし。踏ん反り返られるよりよっぽど楽でいいや。



[異世界転移の方法……教えてくれないか?]


[いっ……異世界転移!?]



 ゆきを助け出した今、もうこの世界にいる意味がない。瀬川たちが囚われたままなのも、魔王のことも気にはなる。でもそれよりもゆきと一緒に逃げるほうが大切だ。



[だっダメですよ! 異世界転移の魔法を個人で使用することは王令で禁じられているんです! もし国内で転移魔法に目覚めた人間がいたら王都に連れていかれてるはずです!]


[それって……王が異世界からの入国を管理してるってことか?]


[違います。そもそもここ数十年異世界から呼び出された人間はいませんし、異世界転移なんて大規模な魔法を成し遂げた魔法使いはほとんど命を落としています。国王はそれを防ぐために王都に転移魔法使いを集め保護していると……]


[なるほど。じゃあ王都に行けば転移魔法使いと会えるんだな?]



 最悪無理やり乗り込んで異世界転移の魔法を使って貰えば……いや、それで術者が死んでしまったらゆきが罪悪感を負ってしまう。それなら転移魔法を使っても死なないほどの魔法使いを探すか……?



[いや……会えないはずです。なんですかその目……すごい邪悪……いやす……鋭い目をしてますよ……?]


[いや、少し考え事をね。ありがとう犬の人。時間あるならもう少し色々教えてもらいたいんだけどいいかな?]


[もうすぐで講義が……いえ! 何でもありません! 何時間でもお付き合いいたします!]


[そうか、ありがとう。それじゃとりあえず俺が聞く固有魔法の詳細と対処法を……]



 そうやって犬の青年といくつかの問答を繰り返し固有魔法についての知識を深める。

 どうやら固有魔法というのは1万人に一人くらいしか発現しないらしく、またその中でも頻繁発現するものと滅多に発現しないものがあるらしい。転移魔法は割と頻繁に発現するらしいが、その精度にも程度の差があるらしい。これは固有魔法全般に言えることらしく、例えば二宮の変身魔法などもドラゴンに変身できるような術師は稀だとか。

 何だかんだで俺のクラスメイト達は優秀だったということだ。



[ありがとうね、犬の人。もしなんか協力できることでもあればできる範囲でするから。]


[ありがたき幸せでございます! それではもしよろしければ学園長に我が研究室の待遇についてなどを提言していただければと……]


[俺がそんなん言っても何も変わらないと思うけどね。まあ覚えてたら言っとくよ。]



 会うこともなさそうだけどな校長とか。




 翔太は固有魔法研究室を出たあと、思い出したように適当な人間を捕まえてこちら側の大陸の地図を獲得する。最初は相手にされなかったがクルニードの名前を出せば露骨に態度が変わり地図を渡して逃げ去っていってしまった。


 その後もクルニードの名前を出せばどんな要求も通っていくことを楽しんでいた翔太は、購買でパンを無料で獲得したところで後ろから声がかかる。



「飯もタダで食えるとかクルニード家すっげぇ……俺もうクルニードの家の子になろうかな……」


[君がクルニードの客人という男かい?]



 声をかけられ振り返ると、そこには長槍を自らの肩に立てかけた長身の青年が殺気を隠すこともなく立っていた。


権威をかさに他人をゆする系主人公。

なお翔太くんはこの後槍の男に普通にボコボコにされました。


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