153.心の溶ける刻
[お待たせしましたお嬢様。今御者と話を付けて……何があったんですか?]
御者台から戻ったシュヴァインの前には翔太たちと距離を取った場所で神城とシャルロッテが向き合っている姿が映る。
[えへへ……シャルロッテちゃんと友達になったの。]
[なんだシュウ。そんなおかしなものを見るような目で妾を見るな!]
[いや……否定しないですか……? いつもなら下民と妾では身分が違うとか言うじゃないですか]
[うるさいうるさい! とにかく妾とユキは友達になったのじゃ! 文句があるというなら……]
[いやいやいやないです! すいませんでした!]
シュヴァインに噛みつかんばかりに食い下がるシャルロッテだったが、すぐにシュヴァインが謝罪してその場を収める。するとシャルロッテは鼻を鳴らし、神城の元へ向き直る。
[…………えっ、何があったんですかこれ。]
[ゆきは優しさだけじゃなく母性にも満ち溢れた女神だったんだよ。]
[もうほんとあんたは何でもいいんだな。]
[意味わからん]
理解ができないようなシュヴァインを置いて、各々が好きに動く。神城はシャルロッテと楽しそうに談笑し、翔太もその中に混ざる。シュヴァインは相手をする人間がいなくて気楽そうに馬車の端で警戒を行い、香川は話についていけなかったのが不満だったのかアンナに言葉を学ぶ。そんなこんなで一夜が明け、学園の前までたどり着く。
[さて、もう学園までは目と鼻の先な訳だが……]
[俺ら護衛で雇った意味あった?]
ここに来るまで現れたほとんどの魔物は馬車の上からシュヴァインの魔法により消しとばされていた。俺たちが戦ったのは昨日のあの数回だけだ。
[まあまあ、意味はあったから気にすんな。それより見えてきたぞ。]
そう言ってシュヴァインが指差す先にはうっすらと建物のようなものが見える。そしてそれは馬車が進むにつれはっきりと輪郭が定まり、巨大な石造りの校舎と、周囲の街並みが浮かび上がる
[多種混成学園……通称アカデミアだ。]
アカデミアに辿り着くと、そこは簡易的な門によって区切られており、並んだ馬車たちは数人の門兵によって立ち入ろうとする者たちの素性を確認されていた。
しかし翔太たちの馬車の番になると門兵は馬車に刻まれた紋章を確認するとそれ以上何かを確認することはなく敬礼し馬車を通す。
[さすがクルニードの家ですね。あの門兵達クルニードと分かった瞬間わかりやすく態度変えてましたよ]
[シャルロッテお嬢様は有名だからな。この学園で一番の家格の持ち主であの性格……シャイドラ様も手を焼いておられる。]
普段のシャルロッテの言動を思い出しながらシュヴァインは語る。
[シャルロッテちゃん髪の毛はねてる! もう……櫛貸して!]
[むぅ……お母様みたいなことを……]
[そりゃ言われるでしょう……]
[シャルロッテちゃんかわいいんだから……ちゃんと整えないと……わ、髪の毛すごいサラサラ……]
「ほんとファンタジー世界の女の子ってすごい綺麗で羨ましいわ。シャンプーとか何使ってんの?」
「あっ、それ私も気になる!」
しかし目の前にいるシャルロッテはいつものワガママを言うことなく、当然のように神城達と談笑していた。
[こんな短時間であそこまでお嬢様と仲良くなれるとか……やっぱりお前達を……っていうかカミシロを護衛にして良かったよ。]
[……まさかそういう目的で?]
[まさかも何もそれしかねぇって。あの辺の魔物相手なら右腕どころか両腕折れてても負けることはねぇし。]
[だからって主人のお守りのためだけにあれだけの大金出すかね普通。]
[あれクルニード様から渡された経費からしたら端金だから気にすんな。]
「は?」
端金って……あの量を端金って言える……?
そうこうしながら翔太達は馬車を降り、多くの生徒達に紛れて校舎へと登校する。その流れでまだ翔太とシュヴァインは神城達と離れた位置で会話を続ける。
[まあそれはそうとして一応世間一般的には大金と呼べるだけの金貨を積んだんだ。もう少しだけお嬢様に付き合ってくれると助かる。]
[もう少しってどのくらい?]
[そんな常識外れなほど拘束するつもりはないよ。今日1日だけでいい。今日1日だけお嬢様の学園生活に付き添ってやって欲しいんだ。]
[それくらいならまあ……ゆきも楽しそうにしてるし。あ、でも俺少し外してもいい?]
[ああ……別に構わないけど……どこか行きたいところがあるなら案内しようか?]
[いや、いいよ。そのかわりゆき達のことちゃんと見ててやってくれ。]
[護衛の護衛とかもはや意味わからんな……。]
そう言って校舎内でシュヴァイン達と別れた俺は、案内マップや他の生徒に話を聞きながら目的の場所を探す。予想に反しなかなか見つからないその教室を2〜3時間かけてようやく見つける。
「あった……」
翔太がたどり着いた教室は後者の外れにある教室だった。薄暗く、切れかかった照明道具がうっすらとその教室の看板を照らしていた。
『固有魔術研究教室』と。
敬語で話してるやつはアンナです
こいつ人によって口調変えるから時々見失ってしまう……