150.言葉の壁
[さて、主ら。とりあえず名を名乗れ。気が向いたら妾が貴様らの名を呼んでやろう。光栄に思うが良いぞ。]
あれから断る間も無く護衛任務に連れて行かれることとなった。そんな中変わらず不遜な態度を取る少女にはある意味笑ってしまうほどだ。
[はい。アンナ・クレールと申します。どうぞ宜しくお願い致します。]
少女の不遜な態度に真っ先に反応したのはアンナだった。意外にも彼女は頭を下げ、丁寧に対応していた。
[俺は大宮翔太です。よろしくお願いします?]
「日本語で喋れ。」
「名前聞かれてんだよ。名前だけでもいいから喋ってみろって。」
「あー……ワタシ、[香川英子]、デス。」
「それただのエセ外人じゃねーか。」
「うるさいな! 1日2日で言葉なんて覚えれるわけないでしょ!」
「痛っ! ちょ……鳩尾はだめだって……」
ボコボコと翔太を叩く香川。といっても漫画的な可愛らしい殴り方ではなく割と本気で殴っていた。
[おい! 下民共! そのわけのわからぬ言葉を……]
[私は神城ゆきだよ。あなたの名前はなんていうの?]
二人に続いて神城が少女の両手を握り、笑顔で話しかける。
[お……お主馴れ馴れしいぞ! 下民が妾に触れるなど……シュウ! こやつをつまみだせ!]
[申し訳ありませんお嬢様。私は現在骨折中の身である故その命令には従いかねます。]
[シュウ! 貴様……]
[私と友達になるのは嫌?]
[…………チッ! シャルロッテ・シデス・クルニードじゃ! この妾が自ら名乗ってやったのじゃ、絶対に忘れるのではないぞ!]
[うん! ありがとう。シャルロッテちゃん! これからよろしくね!]
「……見た? あれ俺の彼女なんだよ……可愛すぎかよ……」
「ほんとあんたなんかにはもったいなすぎるわ。さっさと別れてあげなさいよ。」
「お前もゆきのこと狙ってんのか? 絶対あげないからな。」[シュウさん見た? あれ俺の彼女なんですよ。好きになったらだめっすよ?]
いきなり話しかけられたシュウは苦笑いで翔太の言葉を流す。
[ショウタはアレだ。カミシロのことになるとすごいバカになるな。]
[ショウタ様。私はそういった感情を抱きませんのでどうかご安心を……それと私のことは呼び捨てで結構です。]
[そっちも俺のこと呼び捨てにしてくれれば俺もそうしますよ。一方的な敬語は好きじゃないんです。]
[急にまともなこと言いやがって……]
[……まあお前らは客ってより同僚って扱いだから、これでいいか。改めてシュヴァインだ。よろしく。]
[思ってたより食い下がらなかった……]
「……まあまあイケメンね。瀬川君の1/10……大宮の10倍ってところかしら。」
「……え? 俺瀬川の1/100なの?」
「だいぶ甘めに採点したつもりだったのだけれど。」
「そこまで悪くないと思うんだけどな……」
[とりあえず。わかってると思うがお前らにはシャルロッテお嬢様を学園まで送り届けてもらう。報酬は終わってから全額渡す。それでいいな?]
[問題ありません。アンナ・クレールの名において全身全霊をもってお嬢様をお守りいたします。]
[あんたもその敬語使わないでいいんだぞ? 俺たちは立場としてはそう変わらない雇われの関係なんだから。]
[いえ、そういうわけにはいきません。あのクルニード家の方なら尚更です。]
[……ま、いいか。とりあえず町の北口にクルニードの馬車が止めてある。学園までは片道2日ってとこだな。お前達にはそれまでに遭遇した魔物との戦闘を任せる……けど]
[けど?]
[シュウ! それにそこの砂利共! さっさと妾を車まで連れて行かぬか! 妾は早うお主達の戦いを見たいのだ!]
[……見たとおりうちの主人は戦いを見るのが好きでな……多分お前らは出会った魔物全部と戦わせられると思う。まあ頑張れ。]
[きっつぅ……]
そう言ったシュヴァインは慣れた手つきでリーズリットを背負い、北口へと歩き出す。シャルロッテの方も当たり前のように腕の折れたシュヴァインに背負われ、雇用先の闇を見せつけられたような気になりながらも翔太達はシュヴァインについて歩き出す。
「……え? これ何処向かってんの? 全然わかんないんだけど?」
ただ一人、状況を理解していない香川を置いて。