149.割と断れない
「戻って再編成だな。ゴブリンか魔物討伐。俺はゴブリンじゃない方に行くけど。」
「どれだけゴブリンにビビってんのよ……」
[こっちの言葉を話せって……]「ああもういいや、めんどくさい。」
「ゴブリンっていうのそんなに怖いの?」
ゆきの問いかけにかつての記憶が蘇る。巨大な体躯にそれに見合うだけの剛力、そして何よりもその威圧感。あの頃よりかは強くなった自信はあるけど未だにあいつを倒せる気はしない。しかしそれよりも……
「怖い。最上位種のゴブリンキングはもちろんロードやリーダーでも徒党を組んでる分戦い方が難しいんだよ。そして何よりもあの生き物を殺している感がキツイ。」
「でも普通に他の魔物は殺してたじゃない。」
「でもなんかゴブリンは違うんだって。なんていうんだろうな……言いにくいけどすごい嫌悪感がある。」
ラビッツやガルムは特に何も感じなかったが初めてゴブリンを殺した時は凄まじい嫌悪感を感じたのを思い出す。あの時のことを思い出すといまだにその生々しい感触が手に蘇る。
「ふーん……まあ私もできることなら生き物なんて殺したくないし、喜んで生き物を殺すような奴じゃなくてよかったわ。」
「……うん、翔太……くんはそんな人じゃないよね。」
[失礼。アンナ様、ショウタ様、オオミヤユキ様、カガワエイコ様ですね? ギルドマスターがお呼びです。こちらの部屋までご足労願えますか?]
唐突に背後から声がかかる。一言一言伝わりやすいようにはっきりと話されたその声の主はギルドマスターにベルと呼ばれていた女性だった。
[ギルドマスター……ブラッドさんに? 別に構わないけど……]
[ちょうど俺ら用事なくなったとこだしな。]
[ありがとうございます。それではこちらへ。]
ベルはその話し方といい立ち居振る舞いといい流れるような美しい所作で翔太達をカウンターの内側へと誘う。
それに連れられて奥の扉を開けると、さらに奥に続く廊下が見えた。その廊下のさらに突き当たりの部屋。おそらくギルドの最奥に当たる部屋へと案内される。そしてその扉をベルがノックし、扉に向かって話しかける。
[ベルです。アンナ様方4名を連れてきました。]
[ああ、ご苦労。入ってくれ。]
部屋に入るとソファーに座るブラッドと、机を挟んでその向かい側にふんぞり返っている少女が座っていた。少女のそばには翔太達と同じくらいの年齢の男が立っており、部屋に入ってきた翔太達を一瞥する。
[やっと来たのか! 遅いぞ!]
「さっきのうるさい子じゃない……言葉わからなくてもムカつくわ。」
「あー……いきなり呼び出して悪かったな。」
「そりゃ構わないっすけど……それで、なんの用っすか?」
[おい! 妾を無視して訳の分からぬ言葉で話すでない!]
[お嬢様。こちらをご覧ください。]
翔太達の会話を遮ろうとした少女を、そばに立った男が諌める。そして男は少女に自身の左手に注目させ、何もないところから小さな球や花などを出現させる。
[へぇ!? シュウ! それはどうやったのだ!?]
少女に手品を見せながらシュウと呼ばれた男はブラッドに目配せをする。なにあの空気読めるイケメン。
「……うん、それでお前らを呼んだのはだな……学園までの護衛依頼を受けないか? って話なんだが……」
「護衛依頼って……まさかあの子の?」
「察しがいいな。その通りだ。あの子は王国の龍爵の娘でな、護衛が負傷したから依頼したいんだと。ちなみに依頼料はこんなもんだ」
そう言ってブラッドさんはパンパンに膨れた皮袋を机の上に置く。そして手を離すとバランスを崩して開け口から金貨のようなものが溢れ出した。
「龍爵……ってどれくらい偉いのよ。」
「この国で三番目だ。」
ガチトップじゃねーか。そりゃこんな金額出すわ。
「……俺たちみたいなぽっと出にそんな大役任せていいわけ? 傷一つでも負わせたら全員首飛ぶとか勘弁して欲しいんすけど……」
「……やっぱ気づくか、バカな冒険者だったらこの金見せただけで引き受けてくれるんだけどな……」
「いやそんなバカに国の偉いさん任せるのはもっとダメだろ。最悪ブラッドさんがついていくくらいじゃないんすか?」
「まあ正直それも考えたんだが……俺は今少し忙しくてな。お前らのステータスなら問題ないと判断した。特にカガワとカミシロ二人の魔力はずば抜けてるからな。」
そう言ってブラッドさんが指を動かすと翔太の目の前に二人のステータスが表示される。
神城ゆき
HP35/35
MP550/550
筋力8
素早さ10
魅力20
知力15
香川英子
HP120/120
MP330/330
筋力18
素早さ20
魅力10
知力10
「ってかほんと魔力量すげえな。他のステータスが伸びてないところを見ると二人とも魔法特化なんだな」
「えっと……私魔法は得意です!」
「私もまあ得意だけど……こんな風に人のステータス勝手に見たりできるもんなの?」
「ああ、それについては……[おい! お主ら! これ以上まだ妾を待たせるつもりか! シュウ! さっさとゆくぞ!]
ブラッドの言葉を遮り少女が怒鳴りつける。側にいた男の方を見ると、もうネタが尽きたのか申し訳なさそうな苦笑を浮かべていた。
何も言うことがない
話が進まない