148.ステレオタイプ
「それじゃとりあえずギルド行こうぜ。」
チーム分けが終わった後、すぐにそれぞれ分かれて行動することになった。魔物討伐組は既に受けていた依頼をこなす為街の外へ、ゴブリンの巣討伐組はクラスメイト達の装備を整えると言って街に繰り出していた。
「待ちなさいよ低脳。私達も何か装備を整えた方がいいんじゃないの?」
「香川さんすっげぇ口悪くなってる……ってまあ装備に関しては要らないと判断した。俺は剣があるしアンナは自分用の装備は既に整えてるらしい。」
「……だから、私と神城の装備の話をしているんだけど?」
「そっちは余計にいらねぇだろ。こっちにも鎧やら盾やらあるけどあれ結構重い。慣れてる奴らならともかくあんなもの着て戦いなんかできねぇよ。高いしな。」
「最後の一言で甲斐性のなさが露呈したわね。まあそういうことなら構わないわ。」
「そういえばご飯とかはどうするのかな……? それだけでも買っておいた方がいいんじゃないかな……?」
「そう、さすがゆき。いいところに気がついた。さすがゆき。」
正直武器とかそんなんよりもこっちの方を聞いて欲しかった。武器なんかなくても戦えるけど飯がなければ戦えない。さすがゆきだな。
「そんな絶賛するほどのことでもないだろうに……ちなみに護衛任務は食事付きだった。」
「そっか、ありがとうアンナちゃん。」
そう言ってゆきがアンナの頭を撫でる。……何それ、羨ましいんだけど。アンナ俺と変わってよ。
「それはいいんだけど……なんで頭を撫でてるわけ?」
「え? ああ、ごめんね。嫌だった? なんでかわからないけど撫でてあげたくなったんだよね。アンナちゃん小さくて可愛いからかな?」
えへへーと笑うゆき。ああもう可愛いな! アンナよりもゆきの方が数千……いや数億倍可愛い。
「小さい……ってあのね、勘違いしてるかもしれないけど私はもう成人してる。少なくともあんたらよりは年上だから!」
そう言ってアンナはビシッとゆきを指差す。それを見てゆきは驚いた表情を見せるも、再度笑ってアンナの頭を撫でなおす。
「そうなんだ、ごめんねアンナちゃん。」
「〜〜ッ! だからっ! 私の方が! 年上なのっ!」
ゆきの手を勢いよく払いのけ、アンナがゆきから距離を取る。その様子はとても年上には見えない。あれだ、飼い主に無理やり撫でられまくる猫みたいな。羨ましい。
「……あんた今あの人のこと羨ましいと思ってるでしょ。」
「……わかる?」
「そりゃそんな顔してたらね。そのだらけきった顔気持ち悪くて仕方ないわ。」
「割と傷つくんだけど」
そう言いながら翔太たちが歩き出すと、宿に残っていた百瀬が神城たちに手を振る。神城と翔太はそれに手を振り返してギルドへと歩を進めた。
「お、よく来たな。それで? お前らも何か依頼を受けるつもりか?」
ギルドに着くと入り口の近くでギルドマスターに迎えられる。ギルド内は二日前と違い賑わっており、受付にも人が煩雑している状態だ。
「そのつもりだけど……ギルドマスターさんは受付あんなに忙しそうなのにこんなとこで遊んでていいんっすか?」
「遊んでねーよ。この後国のお偉いさんが来るらしくてそれを待ってるんだ。」
それでもここでサボってもいい理由にはなってないと思う。……まあそんなことはもういいや。あんまり時間かけるとまた香川がキレるから話を進めよう。
「ふーん……まあいいや。学園までの護衛の依頼ってまだ残ってる?」
「あーそれか、ちょっと待ってろ……」
そう言ってギルドマスターは依頼版に向かい、そこから護衛の依頼を探す。せっかくだからと俺たちも後をついて行って依頼書を読んでみる。昨日まではまともに読めなかったけど今はなんとなく読める。ありがとうサリア先生!
「護衛依頼……護衛依頼……あれ? ねーな……」[おーい! ベル! 昨日までーーあの学園までのーー依頼ってもう誰か持って行ったのか!?]
おお! 聞く方も結構わかる! ちょいちょい単語わからんけど意味はなんとなくわかる。
[それなら先ほどーーさんが受けられました。あと働いてください。]
[あー……あいつか……]「じゃあもう悪いけど護衛任務は残ってねぇな。ゴブリンの巣とかなら山ほどあるからそれ潰して回るってのは……」
[おぬし、ここの職員か?]
話している途中、ブラッドの背後から一人の少女が声をかける。リリアと同じ歳くらいの華美なドレスに身を包んだ少女だ。
[ん……ああ、確かに俺はここの職員だ。何かーーがあるならあっちのカウンターで……]
[妾を待たせるつもりか!? 今すぐここで受けろ! 妾を誰だと思ってるのじゃ!]
そう言って少女がブラッドに徽章のようなものを見せつける。
[あー……チッ、わっかりましたー。]「すまんが少し用事ができた。そっちで適当に依頼でも見ててくれ。」
少女の態度にめんどくさそうにしながらもブラッドは少女を奥へ案内する。すると周囲に紛れていた護衛たち数人もそれに同伴し奥へと消えてゆき、翔太たちはその場に残された。
「……すっげえ偉そうな子だったな。あんなんいるのか。」
「可愛い子だったねぇ。」
「確かに顔は良かったけど性格が酷すぎるわ。言葉がわからなくてもわかるほどの性格の悪さね。」
「そうかな? 素直そうな子じゃない?」
「「いやそれはない」」
あんなステレオタイプの貴族みたいな子が素直そうとか、さすがだな。ゆき弟たちにめちゃくちゃ甘かったもんな……
[そんなことより、学園への依頼がなくなったのはどうする?]
「アンナ先生マジで日本語話してくれないじゃない……何言ってるかわからない……」
「聞いてたらなんとなくわかるようになるって。」[依頼なしでも勝手に……あー……行ったらよくね?]
[歩きだと時間がかかりすぎて話にならないだろ。ーーなしだと往復だけで一週間くらいかかるぞ多分。]
[マジかー……ってかーーって何?]
[確か教えたはずだぞ「馬車」だ。]
[あー! 「馬車」ね!]
「いやほんと日本語で話して……全然わからない……」
「香川さん、えっとね……今アンナちゃん達は……」
話についていけてない香川の横で話の流れをゆきが説明する。それから俺たちはこの先のことを話し合う。十数分話し合い、とりあえず一度宿に戻るということになった。