147.剣の積み重ね
多田達を部屋に帰した後、翔太は一人剣を構えて立っていた。側から見れば無防備に立っているだけ。しかし当の本人はこれ以上ないほどに集中していた。
「すぅーー……はっ!」
大きく息を吸ってからの一閃。横薙ぎに放たれた一閃は、何を捉えるでもなく虚空を切り裂く。
そしてそこから一息で次の斬撃を放つ。斬撃の勢いを乗せたまま体を全力で横回転させ、二度目の斬撃を全く同じ軌道で放つ。目の前には何もない。しかしその斬撃は確かに虚空を「切り裂いた」。回数を重ねるごとに台風のように勢いを増すその斬撃は、3つを数えたところで止まる。
それは単純に現在の翔太の限界は3回までということだった。
そしてもう一度翔太が構える。先ほどまでとは異なり、正眼に構えた剣に全体重と遠心力を乗せて振り下ろす。そのあまりの勢いに、地面スレスレまで体を落とすがその体は崩れず、全身のバネを利用してこちらも同軌道を切り上げの2太刀目を放つ。
今翔太が行なっているのは技の確認だ。今自分が使える技を全力で使い、自身の現在の立ち位置を理解する。
剣を変えたことで理想とのズレが生じると考えていたが、ほとんど思い通りの斬撃を放つことができた。この剣は良く手に馴染む。
一通りの技を確認し終えると、次は基本の素振りを繰り返す。ただまっすぐ振り上げて振り下ろす。自ら空中に定めた軌道をなぞるように剣を振る。一太刀一太刀に明確な意識を乗せ、毎回最高の一太刀を求め剣を振る。
完璧な軌道に完璧な斬撃。しかしこれもただの確認で、本題ではなかった。自身の思い通りに剣を振れていることを理解すると、次に翔太は剣を構えたまま周囲を駆け回る。
時に壁を蹴り、時に宙返りをし、時に全身逆さまになる。まるでピンボールのように跳ねまわりながら最初に定めた場所に斬撃を放つ。どの体制も不安定で、上下の感覚も希薄になる。
もちろん全て命中しているわけではない。何度も勢いを殺しきれず壁に激突したり、剣戟が崩れ、バランスを崩し地面に倒れたりもしている。しかしそんなことを気にする様子もなく、すぐに立ち上がり再開する。
そしてその光景を離れた場所から見ていた多田達は絶句していた。
…… ……
さっき見た綺麗な剣とは違う泥臭い剣。全身傷だらけになってもなお剣を振る。その姿を見て多田達は全員何を言うこともなくそれぞれその場を立ち去った。
そして何事もなく次の日を迎える。
「ふぁ〜……この歯ブラシ柔らかくて磨きにくい……」
「城にいた頃の歯ブラシも質悪いと思ってたけど……これよりかは良かったな。」
庭で全員が各々歯を磨いている。昨日クラスメイト達の抗議により生活に必要な最低限の物をアンナに買い揃えてもらっていた。
「あれ? 綱島さんは磨かないの?」
そんな中一人の女子生徒……綱島那珂だけは渡された歯ブラシを使わずに必死に水でうがいを繰り返していた。
「使えるわけないでしょそんな汚い歯ブラシ! そんな汚い歯ブラシ使うのなんて絶対イヤよ!」
「汚い歯よりかはいいと思うんだけどね……ってかあまりいっぱい水使わないで欲しいんだけど……水も結構お金かかるし。」
「ああほんと最悪……水も汚いしお風呂だって入れない。布団も汚い。ほんと最悪よ! 早くお城か家に帰してよ!」
「全然話聞いてくれないじゃん……」
「まあ気持ちはわかる。……ってかなんで多田達はそんな汚れてんの?」
「むしろ翔太は何でそんな汚れてないのさ……」
「眠い……」
クラスメイト達がワイワイガヤガヤ騒いでいる中、サリアが手を叩いてその場を収める。
「それじゃ改めて組み分けするよ。ゴブリン駆除か、それ以外の魔物討伐か、学園への護衛か。今の所決まってるのは私がゴブリン駆除、翔太さんと神城ちゃんが学園だね。他の人達は……」
「私は行かないわよ。」
サリアの言葉を遮ったのはうがいを繰り返していた綱島だ。そしてそれに賛同するように数名のクラスメイト達が彼女のそばに着く。
「なんであんな目にあってまでまた戦わないといけないのよ。そんなのはやりたい人達でやればいいじゃない。私は絶対に嫌。」
「マジかー……みんな行かねーの?」
「まーそれならそれでいいけどね。じゃあそっちの7人は行かないってことで。残ったのは……16人だね。」
「あ、俺魔物討伐行きたいっす。」
「私も同じく」
「僕も」
「俺もだ。お前達もまさか……」
「そりゃまあね。近道なんてないって教えられちゃったし。」
多田、尾崎、山田、若本の四人が魔物討伐に手を挙げる。それに続いてグレンと神崎、二宮が手を挙げ、合計7人が魔物討伐を行うこととなった。
「グレン、ちゃんと全員の状況見て無理そうなら撤退してね。」
「わかりました! 俺頑張ります!」
「私も気をつけるから大丈夫よ。」
「あんたは微妙に信用できないからいいや。」
「なんでっ!?」
「初対面の時思い出しなよ。それじゃ次ゴブリン討伐。」
サリアがそう問いかけるとちらほらと手が挙がる。手を挙げているのは樋口と小林、リリアと福田だ。
「5人かー……まー大丈夫っしょ。リリアちゃんいるし。」
「えっ何で私……」
「ゴブリンなんて雑魚だろ。よゆーよゆー!」
「ゴブリンはめちゃくちゃ怖いぞ。俺は前ゴブリンに全身の骨バラバラに砕かれた。」
「嘘つけ! 話盛りすぎだろ!」
嘘じゃねえんだけど……痛くはなかったけど普通に骨は砕かれたし死んだ。……いかんな、あれは普通のゴブリンじゃないって頭ではわかっていてもどうしてもトラウマになってる。
「だからアレは例外だって……最後に学園はそっちの4人でいいのかな?」
「ええ、私は学園に行きたい。知りたいことがあるの。」
「私もだな。この10年間の間何があったのかとか興味あるから学園で適当に学んでくる。」
香川とアンナが答える。4人とは俺、ゆき、香川、アンナの4人だ。正直戦闘力的には不安になるけどまあ多分大丈夫だろ。
「それで俺とゆきも学園だな。それで良いよな?」
「うん。正直まだ魔物とかちょっと怖いから……あんまり戦いばかりなのは嫌だし助かります。」
「それじゃ改めて確認するとグレン達7人が周辺の魔物討伐で魔石集め、私とリリアちゃん達5人がゴブリンの巣駆除、翔太さん達4人が学園までの護衛、後残りは留守番ってことで。結果報告は1週間後、ここで。まあ護衛組以外はみんなここに帰ってくるんだけどね。」
描いてて思ったけどこれ素振りじゃねえな
会話文以外のところなんですけど状況に応じて適当に一人称視点にしたり三人称視点にしたり変えます。定期的に読者を振り落としていくスタイル。