143.勉強会
「それじゃあ教えていくよ。全員ペンと紙を持って。」
アンナがそう言うとその場にいた全員が紙に向かってペンを持つ。そして矢継ぎ早に単語とそれに対するグリモリア語を説明する。
1時間近くノンストップかつハイスピードな授業をアンナが続ける。サリア達と翔太、そして一部の勇者は自身の命が関わっていることだと深く理解しているのか凄まじい集中力でメモを取り、アンナの言葉を耳で覚える。
しかしそうでないもの……樋口芽衣子がとうとう根をあげた。
「だーっ! もう無理だって! ちょっと待ってくれ! アタシはそんなに頭良くねぇんだよ! ゆっくり教えろとは言わねぇからちょっと休ませてくれ!」
「……なら10分だ。今から10分間休んでいい。ただその10分で全力で休め。次の休みは2時間後だ。」
「鬼ぃ……」
その言葉を聞いて樋口はぐったりと倒れこむ。普段使わない頭を酷使しすぎたせいか脳が悲鳴をあげていた。
「おいおい大丈夫? ……うわひぐっさん字汚なっ! 読めねー。」
「うるせーな……字なんかアタシが読めりゃいーんだよ……ってか多田おめーはどーなんだよ」
「ヨユーヨユー。ノート見せてやろーか?」
「誰がお前なんかの……」
そう言って見せられた多田のノートは高速で進んだ授業の要点だけを完璧に見やすくまとめられたノートだった。
「なっ……お前……その顔で嘘だろ……」
「顔関係ねぇっしょ! そもそも俺結構頭いいから! 前のテストでも総合4位! おまけに固有魔法で学習魔法! これはもう俺が勉強最強っしょ!」
「それ自分で言うやつじゃねぇな。……でもわかりやすくまとめてんな、あとで見せてくれよ。」
「おう! ……いや、ちょっと待った。見せてもいいけど条件がある!」
そう言うとただは人差し指をビシッと立てて翔太の目の前に突きつける。
「俺にも剣術教えてくれ! お前の剣術すげーかっこいいからさ! 俺も使えるようになってみたいんだよ!」
「……! ああ、いいぜ。そんなことでいいならいくらでも教えてやる。」
唐突に切り出された剣術指南の願い出。一瞬戸惑いこそしたものの、自分の剣術を認められてまんざらでもないような顔をした翔太は、快くその申し出を受け入れた。
「よし、続き始めていくぞ。じゃあ次は……」
そうこうするうちに10分の休憩が過ぎ、授業が再開される。勇者たちの嫌そうな声を無視してまたも矢継ぎ早に繰り返される単語を全力でメモしていく。さらに途中からアンナがすでに教えた単語をこちらの言葉に変換し話し続ける。
その授業のあまりの早さに予告の二時間が過ぎた頃、半分以上のメンバーはついていくことを諦めてしまっていた。
「よし、だいたいの単語はもう教えたな。 次10分休憩挟んだら全部ヒュマニアの言葉で話すからあとはもう耳で感覚を覚えろ。」
「えぐいスパルタだな……全部覚えれる気がしねぇ……」
「ってかヒュマニアって何? それがこっちの国の名前?」
虚ろな目をして単語を繰り返し発音して覚えていたサリアがアンナの言葉に反応する。
「あー……そうか、そういえばその辺も教えなきゃダメか。んじゃ休憩飛ばして教えるわ。まあヒュマニア語は使わないから休憩みたいなもんだし、聞き流してもいい。」
「学校の授業がどれだけ楽だったか思い知らされるな。」
「ほんとなー、いくら俺の頭が良くても流石に5〜6個くらい単語取りこぼしてるわ。」
「むしろ5〜6個で済んでるのがすげぇわ。何千個教えられたんだよ。」
「まあ教えてるアンナさんが忘れてんのか何個か重複してんのあったけどね。」
「ほら無駄口叩くな。んじゃまずはさっき聞かれた国について教えようか。」
アンナが国について教えるために壁に貼り付けられた紙に新たに書き込んでいく。
「まずこっちはグリモリアと違って唯一国家じゃない。3つの国が乱立している状態だ。その理由として一番大きいのは獣人族とエルフ、ドワーフ、そして魔族の存在だ。」
獣人、と聞いた途端倒れ伏していた生徒のうちの数名が飛び起き、眼を爛々と輝かせアンナの話を真剣な目で聴き込む。
「人族の王が統治するヒュマニア王国、そして獣人族の王が統治するビースティア王国、そしてエルフの女王が治めるエルフィン王国、ドワーフ族の王が統治するドワルゴン王国。この4つが主な国家のはずだ。……この10年で変わってなければな。」
そう言ってサリアは5つの種族のうち、魔族以外の種族を丸で囲む。その後魔族をほか四種族から隔離するように直線で区切る。
「そして魔族。こいつらは魔王城、そしてその付近に存在する種族だな。あまり詳しくは知らないが半魔族やクオーターなんてのもいるらしい。……こんなところか。他にもグリモリアとの違いは多くあるが……その辺は追々話して行くとしようか。今は言葉を覚えることに専念しろ。ほら後4分だ。」
そしてその日は夜中までみっちりと言葉を教え込まれ、終わる頃には全員机に突っ伏していた。