14.リベンジ
明けましておめでとうございます(*´ω`*)
「今からラビッツと戦いに行くぞ、さっさと準備しろ」
「……は?」
いつものように早朝、おっさんの元へ行くとおっさんはいつもの修行用の服装ではなく、遠征の時の付き添いのような急所を固めた鎧を見にまとっている。ってか俺の聞き間違いじゃなければラビッツと戦うって言ったよね?
ラビッツというのは遠征の時俺が手も足も出せなかった……あのうさぎのことだ
脚力が非常に強く、その脚力を活かして獲物に飛びつき、噛み付く。ただそれだけなのに実際に体験すると死を生々しく想像してしまうほどのものだった。
「いやラビッツと戦いに行くんだよ
お前遠征の時は一方的にやられたそうじゃねぇか。」
「いや……まぁ……はい……」
俺のトラウマとも言っていいほどの出来事をこのおっさんは……
「なら一度ちゃんと戦っておけ
今のお前じゃまず勝てねぇだろうが
まあやるだけやってみろ
心が折れてちゃ話にならねぇ」
おっさんの口調に少し苛立つ。
なんだよこのおっさん、素直に励ますこともできねぇのか。
「俺だって強くなったし、あのくらいならもう勝てるっつーの」
「ハッ、お前が?強くなった?
寝言言ってんじゃねぇよ。1ヶ月剣振っただけで強くなれたら苦労しねぇよ」
このおっさん! あの頭のおかしいほどの修行を剣振っただけだと!?
殴られすぎて血尿とか出たんだぞこっちは!
「言いやがったな! あんなうさぎ1発で叩き斬ってやんよ!」
「ほーう、じゃあ期待しててやるよ
せいぜい頑張りな」
「言われるまでもねぇ!」
そうしてまんまとおっさんに乗せられた俺はおっさんと二人、城から出る。
なんだかんだでこうやって緊張をほぐしてくれたのかもしれないと思うと、少しありがたいなとは思う。絶対に口には出さないけどな。
正門の門番の首筋におっさんが手刀を叩き込み門番を気絶させ、その隙にダッシュで門を通る。すげぇ、首トンだ。初めて見た。
…………ってかちゃんと話通しとけよ。
力ずくで通るって大丈夫なのか?
これ帰って来たときに捕まったりしないか?
「大丈夫だ、俺はもう10回以上やってるがバレたことはない」
心読むんじゃねぇよ
「ってかおっさん何やってんだよ!」
「夜に時々酒飲みに行くときにやってんだけどうまいこと記憶も飛ばせるらしくてバレねぇんだ。」
「しかもロクな理由じゃねぇな!」
このおっさん大丈夫なんだろうか……?
そんな会話をしながら、遠征の時に来た草原にたどり着く。あの時は皆の魔法のせいでよく見てなかったけど、落ち着いて見ると綺麗な場所だ。ところどころみんなの魔法で焦げ付いたり大穴が開いていたりするが些細な問題だ。こんなところでゆきと一緒に遊んだら楽しいだろうな……
「おい、来たぞ。ラビッツだ」
そんなことを考えていると、おっさんがラビッツを見つけたらしく俺に声をかけてくる。危ない危ない、今はラビッツに集中しなくては。
「緊張してんな
落ち着いていままで教えた通りに戦ってみろ。なに、死にそうになったら俺が助けてやるよ」
「あ……ああ、わかった」
どうやらゆきのことを考えていたのはバレていないようだ。良かった良かった。
俺は大きく深呼吸をし、ラビッツを睨みつける。するとラビッツは俺に向かって駆け寄ってくる。心臓の鼓動がうるさいほど聞こえてくる。
手が震える。思うように息が吸えない。しかしそれを全て押し殺す。大丈夫だ。俺ならやれる。
ひと息つくとラビッツが俺の目の前に迫っていた。そしてそのまま突進してくる。
おっさんのようにフェイントを織り交ぜることもないただ単調なだけの突撃だ。
この程度なら……
「いけるっ!」
ラビッツの正面からの突進を側面に回り込んで回避し、無防備な腹に剣を叩き込む。
このまま剣で斬り上げるだけ……なのだが
剣が食い込まない。斬れない。
人間相手なら胴体を切り裂く一撃も、魔物相手には全く通用しない。
結局ラビッツには大したダメージを与えられず、吹き飛ばすだけとなった。
「これが魔物の皮膚かよ……
チートくせぇ……」
本で読んだだけで本当の意味での魔族の恐ろしさを初めて理解すると同時に納得する。
なるほど、こりゃ剣なんか栄えねぇわな。
でもこっちの剣も通らないけどラビッツの動きは単調だ。躱すだけなら……
そう思っているとラビッツが急に発光し、炎の球を飛ばしてくる。球といってもピンポン球くらいの小さな球だが。
「うおっ!」
こいつ! 魔法も使って来やがるのか!
咄嗟に俺は体をひねって回避行動を取る。
しかしこの予想外の攻撃を完全に回避することは叶わず、炎弾が脇腹をかすめた。
幸い、威力はあまり高くないようで、脇腹が火傷したがまだ戦える。ってかこんな弱そうなやつでさえ魔法使ってくんのかよ……
それからも俺はラビッツと戦い続けた。幸いなことにラビッツも逃げるということはしないようで、ずっと俺に攻撃してきた。
その攻撃を俺は回避し、カウンターの要領で攻撃を加え続ける。
1時間ほど経ってからだろうか、ようやくラビッツも体力が尽きたようで、動かなくなった。100発は斬りつけたはずなのに全く斬れないとか化け物かよ……
「おいおいおい、一発で叩き斬るんじゃなかったのか?」
おっさんがニヤニヤと笑いながらこちらに向かってくる。その脇には俺がラビッツと戦っている間に襲いかかってきたのであろう別のラビッツ達の死体が積まれている。
あんなバケモンをよくもまあ簡単に……
「うるせぇな! お疲れの一言ぐらいーー」
「冗談だ、よくやったな」
おっさんは俺の言葉を遮り、ポンと頭に手を置く。
おっさんに褒めてもらえたことが嬉しくて、心地よくて、それだけのことで俺はもうなにも言い返すことができなかった。